第233話 惨めな敗者

「そ、そんな馬鹿な……どうして、付与魔術師なんかに僕の魔法が防げるはずがない!!」

「……そろそろ覚悟は出来た?」

「ひいっ!?」



レナはフンガに対して右手を構えると、付与魔法を発動させる。それを見たフンガは怖気づき、咄嗟に杖を構えて次の魔法を発動させようとした。


距離は開いているので砲撃魔法を扱える自分の方が先に攻撃できると判断したのだろうが、フンガを相手をしているのは普通の魔術師ではない。


入学試験の時に編み出した「瞬間加速」をレナは発動させ、足の裏から重力の衝撃波を生み出す事で加速すると、フンガが魔法を発動させる前に近付いて攻撃を行う。



「反発!!」

「ぐへぇっ!?」



掌底を繰り出すのと同時にフンガの腹部へ軽い衝撃波を放ち、苦悶の表情を浮かべたフンガはその場で崩れ落ちる。そんな彼に対してレナは杖を奪い取ると、魔石を取り外すと、地面へ抛り捨てる。



「これで魔法は使えない。まだやる気?」

「う、ううっ……!?」

「……もう二度と俺達に関わらないでよ」



うずくまったまま動かないフンガにレナは冷たく言い放つと、デブリの元へ戻って彼に肩を貸して校舎の医療室へ向かう。その様子をフンガは歯を食いしばりながら見つめることしか出来ず、杖と魔石がなければ魔法を発動させる事も出来ない。


訓練場に残されたのは気絶した不良生徒達と、心が折れたフンガだけであり、傍から見れば誰もがこう思うだろう。彼等は「敗者」だと――






――その後、レナはどうにか医療室にデブリを運んで治療して貰おうと扉の前に辿り着くと、声を掛ける。



「すいません!!誰か居ますか?」

『はいは~い、居ますよ~』

「良かった……あれ、この声って!?」



扉を開くとそこには暇そうに部屋のベッドに横たわる治癒魔導士の「アイラ」の姿が存在し、どうして王城で勤務しているはずの彼女がいるのかとレナは驚く。一方でアイラの方も火傷したデブリを運んできたレナに対して驚愕の表情を浮かべた。


前回にアルト王子のパーティーであったときとは違い、アイラは新調した白衣を身に付け、何か実験でもしていたのか怪しい色の液体が入った硝子瓶を手にしていた。彼女はレナが訪れた事に驚くが、すぐに部屋の中に招き入れた。



「あ、声を聞いてまさかとは思ったんですけどやっぱりレナさんでしたか。久しぶり……いや、そうでもないか。数日ぶりぐらいですね、アルト王子の誕生会以来でしたっけ?あの後は急に姿を消したんで探しましたよ~」

「すいません、あの時は色々とあって……いや、それよりもどうしてアイラさんがここに?」

「ちょっと色々とありまして、今はここで働かさせて貰ってるんですよ。それより、今日はどうしました?そこのチャーシューになりかけているオークは私のお土産ですか?私、オーク肉はちょっと……」

「だ、誰がチャーシューメンだ……!!」

「いや、そこまで言ってませんけど……とりあえず、治療しますね」



レナとアイラは二人がかりでデブリを運び込み、ベッドに横たわらせる。デブリは上半身に酷い火傷を負っており、状態を確認したアイラは棚から火傷用の傷薬を取り出すと、デブリの治療を行う。



「これだけ火傷が酷いと下手に回復魔法を使うと跡が残るかもしれませんからね。この薬を使って皮膚をある程度まで治したあと、一気に回復魔法で再生させます」

「ううっ……くそ、フンガの奴め。不意打ちなんて卑怯な真似を……」

「というか、どうして上半身が裸なんですか?制服はどうしたんですか?この学園の制服は魔法耐性に強い素材で出来てるんですよ。せめて制服を身に着けていればこんな事態にならなかったのに……」

「そうなんですか?」



魔法学園の制服にそのような機能がある事をレナは初めて知り、アイラの予測ではデブリが制服を脱いでいなければこれほど火傷は負っていなかったという。魔法学園の制服はマドウが発注した物であり、特殊な素材で構成された魔法耐性や耐久力が高い制服らしい。


傷薬を塗り終えた後、デブリは痛みが止んだのか穏やかな表情を浮かべ、アイラはしばらくした後に本格的な治療を行う事を告げる。



「これで大丈夫ですね。あと10分ぐらい待った後に回復魔法を施せば完治しますよ」

「そんなにすぐに治るんですか?」

「そうですよ、なにしろ私は王都一番の治癒魔導士ですからね!!まあ、色々と問題を起こしてこんな場所へ転勤されましたが」

「転勤?問題ってどういう事ですか?」

「聞きたいですか?まあ、時間つぶしも兼ねて教えてあげましょうかね」



椅子に座り込んだアイラは自分がどうして魔法学園にに勤続する事になったのかを語りだし、イチノ街から離れて王都へ戻って来た事から話す。




――イチノ街の冒険者ギルドに派遣されていたアイラは勤務期間を終えた後、王都へ戻る。その後は王城に所属する治癒魔導士の一人として働いていたそうだが、最近になって色々と問題を起こしてしまう。


切っ掛けはアイラが王城で保管されている素材を利用して新しい薬品を開発しようとした事が発覚し、既に彼女は王城内で管理されている貴重な素材を多数使い込んでしまった事が知られてしまう。


普通ならば解雇を言い渡されてもおかしくはない案件だが、アイラは素材を無駄に消費したわけではなく、実際にこれまでに誰も作り出した事がない薬品の開発に成功した。


アイラが作り出したのは怪我や病気を治療するための回復薬ではなく、魔術師の魔法力を一時的に高める薬を生み出す。魔力を回復させる薬は既に存在するが、魔法の力を高める効果を生み出す薬品はこれまでに存在せず、アイラは史上初の全く新しい薬品を作り出してしまう。

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