第232話 制裁

「……そこまで俺たちの事が嫌いならいちいちこんな回りくどい真似をせずに襲ってくればいいのに」

「それだと俺の気が収まらないんだよ!!お前等が俺に屈服する姿を見ないと満足でいない!!」

「こんな事をして只で済むと思ってるの?学園長が知ったらどう思う?」

「脅しても無駄だ、いくらお前が学園長に気に入られていても証拠が無ければどうしようも出来ないんだ……いくら怪我しても回復薬を与えれば治る。こいつだって用事が済めば治して返してやるよ、こいつらに散々痛めつけた後にな」

「へへへっ……前にお前のせいでアルト王子に痛い目に遭わされたからな」

「本当はお前を叩きのめしてやりたいが、今日の所はこいつで我慢してやる……こ、こら!!暴れるんじゃねえよ!!」

「何なんだこいつは!?暴れ牛……いや暴れ豚か!?」

「誰が豚だ!!何で言い直した!?」



負傷しても尚、暴れるのを止めないデブリに不良生徒達は必死に抑えつけ、このまま放置してもデブリならば本当に彼等の拘束を振り払えるのかとも思いながらもレナはフンガの動作を注意する。


状況的にはデブリを人質に取られている事に変わりはないが、長話をしている間に徐々にデブリの方も体力を取り戻しているらしく、レナはもう少しだけ彼と会話を試みた。



「フンガ、そんな甘い考えで俺達をどうにか出来ると思っているのか?今なら間に合う、デブリ君を解放すれば今回の件は見逃してやるから早く消えろ」

「調子に乗るな!!これは交渉じゃない、命令だ!!お前の方こそ自分の立場を分かっていないのか?武器もないくせに偉そうに言うな!!」

「武器、ね……」



現在のレナは闘拳も籠手もブーツも装備しておらず、当然だが魔銃に関しても所持していない。だからこそフンガも余裕の態度を貫き、いくら対抗戦で活躍した相手でも武器がなければ恐れる必要はないと判断したのだろう。


だが、生憎だがレナには学園に持ち込んだ物の中で武器になり得る物が1つだけ存在し、意識を集中させる。やがて校舎の方から騒音が鳴り響き、ガラスが割れるような音が聞こえてくる。



「ん?な、何だこの音……」

「おい、何かだんだんと大きくなってないか?」

「というか、近づいてきてる……?」



最初に異変に気付いたのは校舎の近くに存在した不良生徒達であり、彼等は不審に思って振り返る。その様子を見てフンガは何を余所見しているのかと叱りつけようとした。



「おい!!お前等、何をしている!?そいつをしっかりと抑えつけ……!?」




――フンガが言葉を言い終える前に校舎の窓ガラスが盛大に割れる音が鳴り響き、ミスリル製の板状の物体が飛び出す。


それを目撃した不良生徒達は驚愕の表情を浮かべ、自分達に向けて回転しながら接近する金属の塊に対して彼等は避ける暇もなく吹き飛ばされる。



『ぎゃああああっ!?』

「うわっ!?」

「な、何だぁっ!?」



まるでボーリング(この世界には存在しないが)のピンのように不良生徒達が吹き飛び、拘束されていたデブリも解放される。


自分の連れてきた仲間達が唐突に飛来してきた物体に吹き飛ばされるという光景にフンガは慌てふためき、やがて物体の正体が金属の板であるを見抜くと、レナの手元に移動して彼の両手に収まった。



「よし……実験成功!!」

「な、何をしたお前ぇえええっ!?」



自分の手元に戻って来た「スケボ」を確認してレナは満足げに頷き、一方で人質と味方を失ったフンガは慌てて後退する。だが、レナの方は彼を無視して戻って来たスケボの様子を調べ、何処も壊れていない事を確認する。




――実はレナは朝からスケボを使用したとき、マドウから受け取った地属性の魔石がどの程度の時間まで持続効果があるのかを調べるために付与魔法を解除しない状態で放置していた。その結果、朝から数時間は経過しているが、未だに付与魔法の効果は解除されておらず、しかも魔石の魔力の方も十分に余裕があった。




この事からマドウに渡された魔石は付与魔法を発動させれば最低でも8時間以上は効果が持続する事が証明され、更に遠距離からでもレナの意思で引き寄せる事が可能だと判明された。


最もスケボを呼び寄せるときに校舎内を随分と荒らしたらしく、その点に関しては後で謝罪を行う必要があるが、今は武器を手にしたレナはフンガに反撃を仕掛ける。



「よくもデブリ君をやったな!!仇を討ってやる!!」

「いや、その言い方だと僕が死んだみたいに聞こえるんだけど……」

「くっ……調子にのるな!!」



フンガに対してレナは駆け出そうとすると、慌ててフンガは杖を構えて火属性の砲撃魔法を発動させた。



「ファイアボール!!」

「その魔法は見飽きたよ!!」



杖先から魔法陣が展開され、炎の塊が射出される。その大きさはサブの弟子のシデが使用した時と同等の大きさをった。但し、このファイアボールという魔法はボルトの魔法と比べると速効性は低く、冷静に対処すれば恐れる事はない。


迫りくる火球に対してレナはスケボを放り投げると、まるでミナの「大車輪」という戦技のようにスケボを高速回転させて炎の塊を防ぐ。



「なっ……ば、馬鹿なっ!?」

「熱っ!?ちょ、火の粉がこっちに……あちちっ!?」

「あ、ごめんデブリ君……」



スケボを構成するのは魔法耐性が高い金属のミスリルであり、フンガが放った炎の塊を正面から吹き飛ばす。その結果、火の粉が周囲に散らばって近くにいたデブリが被害を受けるが、魔法を消失させる事には成功した。

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