第231話 卑劣

「よくやったお前等!!そいつを抑えつけていろ、こいつは僕がやる!!」

「フンガ……お前の仕業か」



姿を現したのはフンガであり、恐らくは彼がデブリをこのような姿にした張本人だと思われ、彼は火属性の魔石が装着された杖を装備していた。この学園では魔法科の生徒は訓練用以外の杖や魔石などの所持は許されていないが、フンガが所持している物は明らかに訓練用ではなかった。


魔石の大きさや輝きに関しても市販の物ではなく、レナの記憶が正しければ対抗戦で魔法科の生徒が使用していた特殊な魔石だと思われた。ゴマンとイヒドが盗賊ギルドに用意させた魔石は全て学園側に回収されたと思われていたが、どうやらフンガがその内の1つをくすねていたらしい。



「…………」

「おっと、動くんじゃないぞ。こいつがどうなってもいいのか?」

「くそっ……レナ、僕に構うな!!こんな奴等、ぶっ飛ばせ!!」

「こ、こいつ!!まだ動けるのか!?」



彼は不良生徒達を下がらせるとレナと向き合い、デブリを人質にする。だが、人質にされているデブリは自分のせいでレナに迷惑を掛けるぐらいならと暴れるが、慌てて不良生徒達が数人がかりで抑えつける。


力士であるデブリは普通の格闘家よりも耐久力を誇り、実際に対抗戦では彼は何度もゴマンの砲撃魔法を受けても耐え切っていた。ゴマンは性格はともかく、魔法科の生徒の中でも優秀な生徒であり、しかも普通の魔石よりも威力を強化する魔石を利用して魔法を使っていた。


それでもデブリは精神的にゴマンを追い詰めるほどの耐久力の高さを見せつけ、見かけよりも怪我は浅いのを確認してレナは安心した。だが、状況が不利であるという事に変わりはなく、フンガはデブリに対して杖を構えたままレナに怒鳴りつける。



「動くな!!動けばこいつをチャーシューにするぞ!!」

「くっ……卑怯なっ!!」

「おい、それ僕の事を暗に豚だと言ってないか!?」



フンガの言葉にデブリは憤慨するが、怪我のせいで抵抗できず、それを無視してフンガは彼を人質にした状態でレナに悪態を吐く。



「こいつの命が惜しければ俺の言う事を逆らうなよ……こっちもこんな手は使いたくなかったんだ。だが、お前等が悪いんだ……騎士科の癖に調子に乗りやがって!!」

「まだそんな事を……いったい何が俺達の事をそんなに気に入らないんだ?」

「全部だ!!お前等の存在、全てが気に入らない!!なんで貴族である僕が一般人のお前等と同じ扱いを受けなければならない!!僕は貴族だぞ、敬われる存在であるべきなんだ!!」

「……魔法科の生徒の中にも一般人はいるでしょ?」



レナはフンガの言葉を聞いて心底呆れ、そんな理由で騎士科の生徒に突っかかって来たのかと呆然とする。だが、フンガにとっては貴族である自分が一般人である自分と同じ扱いを受ける現状に不満を抱く。



「魔法科の生徒はいいんだ!!一般人であろうと、魔術師の称号を持つ人間は重宝されるべきだ!!だが、お前等騎士科の生徒の殆どは一般人だろうが!!何で貴族である僕とお前等が同列に扱わなければならない!?」

「それが魔法学園の方針だからだろ……」

「うるさい!!こんな事、認められるか!!お前等は僕達に黙って従えばいいんだ……こいつらのようにな!!」

「へへへっ……」

「その通りですよフンガさん」



不良生徒達はフンガの言葉に言い返す事もせず、醜悪な笑みを浮かべてフンガに従う。だが、彼等はあくまでも貴族であるフンガから金で雇われて従っているのは明らかであり、内心ではフンガの事を只の金づるとしか考えていないだろう。


最も金を支払おうと自分に従ってくれるのならばフンガにとっては十分らしく、レナ達のように自分に歯向かわない存在がいるだけで彼は満足だった。


貴族の中にはフンガのように一般人を奴隷のような存在だと思いこむ者も少なくはなく、だからこそフンガは魔法学園で奴隷と同等の存在だと思っていた一般人と貴族の自分が同列に扱われるのが我慢ならない。



「こいつを解放して欲しいのなら僕の言う事を聞いて貰うぞ……そうだな、とりあえずは明日は魔法学園に来るな。他の騎士科の奴等にも伝えろ!!金色の隼の対応をするのは魔法科の生徒だけで十分だ!!」

「そんな理由でデブリ君を……」

「うるさい!!立場を弁えろ、お前は俺の言う事に従えばいいんだ!!」

「子供かっ!?」



レナの返事を聞かずに駄々っ子のように怒鳴りつけるフンガに人質にされているデブリさえも呆れるが、状況がフンガの有利である事は間違いない。この状況を打破するにはどうすればいいのかとレナは考えると、ある事を思い出す。


今日の朝、レナは寝坊して学園に遅れそうになり、スケボを利用してどうにか遅刻寸前で間に合ったことを思い出す。その時、レナはついでにある実験を行っていた。その実験の効果を試すため、敢えてフンガの話に乗って会話を長引かせる事にした。

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