第235話 薬が効きやすい体質なので……
「ところでその魔丸薬というのはどういう物ですの?私、少し興味ありますわ」
「ああ、こういうのです。これを飲むだけで一時的に魔法の力が強まるそうです」
ドリスの言葉にレナはアイラから受け取った「魔丸薬」が入った薬瓶を取り出すと、ドリスに渡す。彼女は興味深そうに覗き込み、他の者達も不思議そうに小瓶を見つめる。
怪我を直す「
「へえ、これを飲むだけで強くなれるのか?兄ちゃん、試しに飲んでみろよ」
「いや、俺は水がないと薬が飲めないから……」
「いや、子供かっ!!」
「でも、それ僕よく分かるよ!!水と一緒に飲まないと、こういう薬ってどうも飲み込めなくてさ……」
「私は平気ですわ。なら、私が試しに飲んでみましょうか?」
「お、ドリスの姉ちゃんが飲むのか……ちょっと楽しみだな」
レナの許可を得るとドリスは小瓶から薬を1粒だけ取り出し、そのまま舌に乗せて飲み込む。飲んだ直後は特に変化はないが、しばらくするとドリスは自分の身体が熱を持った感覚に襲われた。
「こ、これは……皆様、ちょっと離れてください」
「ドリス?どうかしたの?」
「いいから見ててくださいまし……火球!!」
「おおっ!?」
ドリスは掌を差しだすと初級魔法の火球を発動させ、全員の前で10センチ程の大きさの炎の球体を生み出す。彼女は普通の魔術師と異なり、魔石を装着した魔法腕輪を利用して魔法を発現させるのだが、現在の彼女は魔法腕輪が無しで魔法を発現させる。
魔力消費が大きい砲撃魔法を使用する場合は一流の魔術師でも魔石や魔法腕輪を使用しなければ発動する事すら出来ない。
しかし、初級魔法の場合はレナの付与魔法と同じく魔力消費も少なく、素の状態で発動は出来る。だが、ドリスが今回生み出した火球は対抗戦で見せた時のように熱気が強く、魔石や魔法腕輪の補助も無しでも十分な威力を期待出来そうだった。
「こ、これは……やはり、そういう事ですの!!」
「え?どういう事?」
「私、昔から薬が効きやすい体質なので、この魔丸薬の効果のお陰で魔法腕輪無しでもいくらでも魔法が使えそうな気がしますわ!!」
「どういう理屈!?薬が効きやすいと効果も上昇するの!?」
「……驚愕の事実」
「そ、そんな事って有り得るのかな……」
ドリスの言葉に全員が驚き、まさか薬が効きやすい人間には魔丸薬の効果が高まるなど誰も考えも出来ず、興奮した彼女は魔丸薬を握り締めてレナに両手を掴む。
「これは素晴らしい薬ですわ!!ぜひ、製作者の方を紹介してください!!これさえあればもっと強くなれると思いますわ!!」
「え?あ、じゃあ……アイラさんの所に行きます?」
「お願いします!!」
「ドリルの姉ちゃん、凄い興奮してるな……そんなに嬉しかったんだな」
「そうだね……ちなみにドリルじゃなくて、ドリスだよ」
興奮して子供の様にはしゃぐドリスを見てレナは学園長の元に訪れる前にアイラを紹介する事になり、結局はレナ達が学園長室に赴く頃には日が暮れてしまっていた――
――学園内の出来事を全て学園長に報告した結果、問題の騒動を起こしたフンガが全ての責任を問われ、レナが窓ガラスを割った件に関しては不問とされた。また、懲りずに問題を引き起こした不良生徒達は今度は停学ではなく、退学処分を言い渡される。
不良生徒達は自分は金で雇われただけだと言い張ったが、そんな言い訳が通用するはずがなく、アイラからデブリの怪我の具合を聞いていた学園長は彼等に退学を言い渡す。当然だが不良生徒達の保護者にも今回の件は全て伝えられ、彼等の悪行をしっかりと知らせた。
せめてもの救いは不良生徒に支払われていた補助金に関しては返金は求めず、魔法学園の入学資格を取り消した事で彼等は来年に入学試験を受ける事も出来ない。フンガの方も停学を言い渡され、彼の両親も自分の息子がそんなことをするはずがないと擁護したが、マドウは容赦しなかった。
『停学期間中にしっかりと頭を冷やし、考え方を改め直してもらいたい。もしも反省が見られないようならば退学を言い渡す。その事をしっかりと踏まえた上で謹慎しなさい』
『ぼ、僕の両親は……』
『勿論、この学園の創設にお主の両親が援助してくれたのは理解している。だが、今は状況は変わったのだ。もうその手の言葉は儂には通じんぞ』
フンガに対してマドウは厳しく叱りつけ、性懲りもせずに両親が貴族である事を告げようとする彼に対して冷たく言い放つ。少し前までなればマドウも気を遣っていたが、先日のアルト王子の誕生会から魔法学園の評価が一変し、魔法学園の創設に反対していた貴族達からも最近では援助に協力したいという申し出が殺到している事を告げる。
魔法学園の生徒は全員が貴重な「称号」の持ち主であり、しかも適切な教育を受けて鍛え上げられた優秀な人材である。
彼等の卒業後の進路に口出しするには魔法学園に協力し、好印象を持たれる必要があるため、優秀な人材を欲しがる貴族や帝国の将軍から援助を申し込みが後を絶たず、もう魔法学園は創設時に協力してくれた貴族の援助がなくとも維持できる程だった。
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