閑話 〈その頃のバル達は……〉
――イチノ街からレナが王都へ向かってから早くも二か月以上の時が流れ、冒険者ギルドの方の方では金級冒険者のバルと元冒険者であり、現在は雑貨屋の店主を勤めているキニクがギルド長室の元へ集められていた。
室内にはギルドマスターと受付嬢のイリナも存在し、彼女は緊張した面持ちで3人の表情を伺う。普段は愛想が良いキニクも表情は険しく、バルの方に至っては苛立ちを隠せないように腕を組んだまま座り込む。
「……以上が例の村の現状だ。近い将来、この街の住民は避難する必要があるかもしれん」
「そんな……!!」
「どうにかならないんですか?」
「どうしようも出来ないな……恐らく、1年以内にはこの周辺地域に存在する村や街の住民は都市の方へ避難する事態に陥るかもしれん」
「1年か……それも希望的観測なんだろ?」
バルの言葉にギルドマスターは頷き、イリナは顔色を真っ青にする。キニクも深いため息を吐き出し、ぽつりと呟く。
「国があの村を放棄しなければこんな事態には陥らなかったのに……」
「今更それを言ってもどうにもなるまい……こんな事態に陥るなど思いもしなかった」
「どうにか出来ないのかい?こんな時にヒトノ国の軍隊は何してんだよ、何のために税金を納めていると思ってるんだい」
「仕方あるまい、ここは辺境の土地。連絡を取るだけでも時間が掛かる……それに地方に勤務している兵隊だけではどうにもならん」
「他の街の冒険者を全員集めて討伐隊を組むのは……」
「無駄だ、もう討伐隊を結成するだけではどうにもならない。もう軍隊でなければ対応できない状況だ」
ギルドマスターの言葉に全員が黙り込み、この場に存在しないレナの顔をイリナは思い浮かべる。ここにもしもレナが存在した場合、彼がどんな気持ちになるのかと考えるだけで胸が痛む。
数年前、レナを除いて住民が殺された村に起きた異変、それを気付かずに放置し続けていたためにハジメノ街は愚か、この地方の村や街は危機に晒されていた。もしもハジメノ街が襲われた時、この地方を任されている領主が兵隊を派遣していればこのような事態に陥らなかった可能性はあった。
だが、今更後悔しても遅く、ギルドマスターは速やかに住民の避難計画を立てる。予測ではもう1年程度の猶予しか存在せず、その間に街の住民を避難させなければ大惨事に陥る事は確実だった。
「今は我々の出来る事を全てやらなければならない。まずはこの事態を民衆に知らせる必要がある。イリナ、職員を全員呼び出せ」
「は、はい!!」
「バル、キニク、お前達も冒険者を集めてくれ」
「あいよ」
「……分かりました」
ギルドマスターの言葉に全員が従い、3人は部屋を退室する。そして残されたギルドマスターは窓に視線を向け、窓から街の様子を見下ろす。
「……終わり、か」
街道を歩く民衆の姿を目撃し、この光景が1年後にはもう見れなくなるかもしれないという事実にギルドマスターは無意識に拳を強く握りしめた――
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