第222話 魔石強化

――ゴマン伯爵との騒動から数日後、レナはムクチに頼んで自分の装備品の強化を施してもらう。先日にパーティー会場でマドウから受け取った魔石を利用し、闘拳、籠手、ブーツ、魔銃の強化を行う。



「……出来たぞ、これで全部だ」

「おおっ……ありがとうございますムクチさん!!」

「へえ、これが兄ちゃんの新しい装備か。外見はあんまり変わってないけど、本当に強くなったのか?」

「今回は魔石を装着できるように改造を加えただけだからな……性能は自分で確かめろ」



ダリル商会の専属鍛冶師であるムクチは装備品をレナに手渡すと、地下の工房へと引き返す。偶然にも屋敷にはいつもの面子が集まっており、遊びに来たミナやデブリ、そして最近はよく訪れるようになったドリスとナオも交えて全員がレナの装備品を確認する。


ムクチの言う通り、闘拳、籠手、ブーツには魔石を装着させる箇所が新たに加えられ、魔銃に関しては殆ど改造は必要はなかったが、若干銃身に変化が加えられている。また、スケボの方も大幅な改造を加えられていた。



「よし、最後に魔石を全部嵌め込めば……完成!!」

「おおっ……といっても、外見はあんまり変わってないから強くなったのか分からないな」

「兄ちゃん、試しに魔法を使ってみろよ」

「そうだね、なら裏庭に行こうか」



全員を連れてレナはダリル商会の裏庭へ移動すると、まずは性能を確かめるために扱いなれている闘拳に付与魔法を発動させる。今回は地属性の魔石を装着している状態のため、少し緊張しながらもレナは魔法を発動させた。



地属性エンチャント……わっ!?」

「うおっ!?」

「す、凄い魔力を感じますわ!!びんびんに感じますわ、びんびんに!!」

「何で連呼したのドリス!?」



魔法を発動した瞬間に普段の2倍近くの魔力が発生し、闘拳の全体が紅色の魔力に覆われる。体感的には魔石を装着する前の通常時の「二重強化ダブル」と同程度の魔力を放出しており、魔石の効果によって出力が2倍近くまで強化されていた。


しかもレナは直感的にこの状態なら付与魔法の発動時間も伸びているのではないかと考える。案の定というべきか、通常時ならば30秒ほどで魔法の効果は切れてしまうのだが、1分経過しても変わりはなく、それどころか5分以上も経っても魔法の効果が切れる事はない。


どうやら魔石のお陰で魔法の発動時間が大幅に伸びたらしく、下手をしたら搭載されている魔石の魔力が完全に切れるまで発動を維持できそうだった。しかもマドウが所有していた魔石は最高品質を誇り、恐らくだが1時間や2時間程度魔法を維持し続けようと魔力が切れる恐れはないだろう。



「これはいいな、今までは魔法の効果が切れる時間を考慮して戦ってきたけど、これなら魔法が戦闘の途中で消える事もないから楽に戦えると思う」

「けど、魔法の効果が切れないままだと、逆に色々と不便ではないんですの?」

「大丈夫、俺の意思で魔法は解除できるから問題ないよ」



一度魔法を発動させれば魔石の魔力が失われるまでは効果が維持できる一方、レナの意思に合わせて魔法の効果は解除される事が判明し、これで戦闘の際には途中で魔法が切れる事を心配せずに全力で戦えるようになった。


籠手やブーツや魔銃の方も闘拳と同じ効果を持ち、魔銃に関してはより威力が強化されていると期待され、ついでにミスリル製の弾丸に関しても新調してもらう。


新しい弾丸には地属性の魔石を砕き、その一部をミスリルの中に溶け込ませる事で闘拳やブーツと同じく長時間の付与魔法の維持を行えるようになった。これで戦闘前に弾丸に付与魔法を施しておけば発砲時にいちいち魔法を発動させる必要もなくなる。



「うん、全部いい感じだよ!!これなら思いっきり戦えそうな気がする!!」

「お前、まだ強くなるつもりか……よし、それならどれくらい強くなったのか僕と手合わせしてみるか?」

「そういう事ならば私とも是非手合わせしてください!!」

「え?デブリ君とナオ君と?じゃあ、お願いしようかな」



レナはナオとは以前に一度だけ戦ったことはあるが、デブリとは一度も対戦したことがない。二人の言葉にレナは強化された装備品の具合を確かめるため、ここは二人に甘えて手合わせを頼もうとした時、慌てた様子のダリルが駆けつけてきた。



「れ、レナ!!ここに居たのか!?」

「ダリルさん?どうかしたんですか?」

「ああ、大変なことが起きた……こ、これを見ろ!!」

「これって……新聞ですか?」



ダリルが持ち込んだのは羊皮紙で作り出された「新聞」だった。この世界にも新聞という概念が存在し、過去に召喚された勇者が残した文化の一つでもある。


最も新聞といっても別に毎日のように刊行されているわけでもなく、週に一度の間隔で発行されている。新聞の内容はヒトノ国の情勢や王都で起きた事件などを記載しており、他には商会の広告など記載されていた。


新聞が直に送り届けられるのは貴族や商人の屋敷だけであり、一般市民が新聞を手に入れたい場合は市場などで販売しているのを購入するしか手段はない。

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