第223話 新聞

「こいつはさっき届いたばかりなんだが、とんでもない内容が記載されているんだよ!!お前等、最近ゴマン伯爵とやりあったとか言ってただろ?それを見たら驚くぞ!!」

「伯爵とやりあった!?それは本当ですの!?」

「貴族を相手にしたんですか!?」

「えっ!?そんな話、僕も聞いてないぞ!?」

「あ~……まあ、その辺は後で説明するから」



ゴマン伯爵との騒動はマドウから口止め、当事者のレナ達以外の人物で知っているのは保護者のダリルだけである。


ダリルも自分がまずい事を口走ってしまった事を理解して咄嗟に口を塞ぐが、知られた以上は隠し立ては出来ず、レナは後で皆に教える事を伝えてダリルが持ってきた羊皮紙を確認する。


デブリたちは自分の知らぬ間にレナ達が伯爵を相手に何をやらかしたのかと心配するが、新聞に書かれている内容を見てさらに驚愕する。



「に、兄ちゃん!!これ、見て見ろよ!!あの馬鹿伯爵の名前が記されてるぞ!!」

「え、本当だ……えっと、何々?ゴマン伯爵、家宝のヒヒイロカネのネックレスを競売方式で売却する事を宣言……ヒヒイロカネ?」

「そ、それは本当ですのぉおっ!?」

「うわぁっ!?びっくりした!!」



ドリスがレナから羊皮紙を奪い取り、興奮した状態で文章を確認すると、唖然とした表情を浮かべて羊皮紙を手放す。


そんな彼女の反応全員が驚くが、ドリスはすぐに意識が戻ったのか、彼女は急いで立ち上がるとレナ達に別れの挨拶を告げる。



「あのヒヒイロカネで作られた品物が競売で販売される……こうしてはいられませんわ!!私、今日は帰らせてもらいます!!」

「え、ドリス!?急にどうしたの、ちょっと待って!!」



外見はお嬢様のように可憐な彼女だが、興奮が抑えきれない彼女は鼻息を荒くして全速力で駆け出し、慌てて親友のナオも追いかける。


唐突なドリスの反応にレナ達は呆気に取られるが、地面に落ちた羊皮紙をシノが拾い上げ、内容を確認しながら音読した。



「……競売はゴマン伯爵と親交があるカーネ会長の屋敷で行われ、既に多数の貴族と商会主が競売に参加する事を表明。その中には競売を開催する場所を貸し与えたカーネ会長も加わり、他の地方からも多数の競売参加希望者が殺到……凄い事になってる」

「そういえば姉ちゃんは前に屋敷に忍び込んだ時に宝石を見たんだろ?どんなのだ?」

「私はあまり宝石には詳しくはない、だけど確かに見ているだけで引き込まれそうな美しさを誇っていたと思う」

「へえ、そんなに綺麗な宝石なんだ……見て見たかったな」

「なら、また変装して屋敷に忍び込む?」

「いや、それはちょっと……あの恰好、ちょっと恥ずかしいし」



シノの提案にミナは慌てふためき、その一方でレナはヒヒイロカネと呼ばれる魔法金属で構成されたネックレスに少しばかり興味を抱く。新聞によると外見は宝石の如く美しく、非常に希少で価値の高い代物らしい。


新聞には参加が確定した貴族の名前も記されており、その中には先日のパーティーに参加していた者も多数存在した。だが、名前の中には貴族ではない人物も存在し、先日に遭遇した「黄金級冒険者」のルイの名前も記されていた。



「あれ、この人って確か金色の隼の団長さん?」

「えっ!?金色の隼も競売に参加しているの!?」

「ん?なんで冒険者が宝石なんて欲しがるんだよ。見栄っ張りの貴族や金持ちじゃあるまいし……」

「確かに気になる。だけど、私は下に書かれている名前の方が気になっている」

「下……あれ、ダリルさんの名前も記されてる?」

「何だって!?」



レナの言葉にダリルは大声を上げて驚き、慌てて羊皮紙を受け取ると自分の名前が本当に参加者の項目に記載されている事に気付いて驚愕の声を上げる。


最初は見間違いか、あるいは名前が同じなだけで別人が参加するのかと思われたが、しっかりと「ダリル商会の会長」という文章も付け加えられていた。



「ちょ、ちょちょ、ちょっと待って!?どうして俺の名前が書かれてるんだ!?」

「ダリルさんも参加するんですか?」

「そんなわけないだろう!!いや、確かにヒヒイロカネの宝石は欲しいが……俺は参加するなんて一言も言ってないぞ!?」

「でも、新聞に記載されてるぞ」



ダリルが否定しようと新聞には彼の名前がはっきりと示されており、ダリル本人は競売に参加した覚えなどなく、そもそも競売に参加できる程に商会に資金の余裕はない。



「俺は本当に知らないんだって!!第一に競売に参加しようにもうちの商会で出せる金額なんてたかが知れてるぞ!!」

「ちなみに、どれぐらいのお金なら出せるんですか?」

「……金貨20枚ぐらいならなんとか」

「えっ!?兄ちゃんのお陰で儲かってんだろ!?なんでそんだけしか出せないんだよ!?」

「仕方ないだろ!!商会を維持するのは金が掛かるんだよ!!」

「ちなみに競売の最低落札価格は金貨100枚……少なくとも80枚は足りない」

「だろうな……くそ、こんな事なら新しい屋敷の建築なんて先延ばしにしておけば良かった」



レナがミスリル鉱石を大量に輸入できるようになったので潰れかけていたダリル商会は持ち直したが、現在の宿屋を改造して暮らしている屋敷では色々と不便があり、ダリルは大金を費やして新しい屋敷の建築を依頼していた。


そのせいで余分な資金などなく、競売に参加したとしてもヒヒイロカネの購入など出来るはずがなかった。

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