第227話 対抗戦の最後の選手

「そういう兄ちゃんこそ、勧誘されたらどうするんだよ?兄ちゃんも入るならあたしも入るぞ。」

「俺は……興味はないと言えば嘘になるけど、今はどこの冒険者集団にも入るつもりはないかな」



コネコの質問にレナも勧誘されても断ることを告げる。結局は騎士科の生徒の中ではデブリだけしか金色の隼の勧誘を待ち望む者は存在せず、コネコとシノの場合は待遇次第ならば勧誘を受ける事も考えていた。


ここでレナが気になったのは魔法科の生徒であり、先日に対抗戦で問題を起こしたゴマンは退学、盗賊ギルドから派遣された刺客だったウカンは投獄、そして魔法科の教師を勤めていたイヒドは解雇されている。なので魔法科の生徒は現在は3人しかおらず、金色の隼に紹介される生徒は騎士科を含めると8人だけとなる。



「魔法科の生徒の方はドリスさんとあと……誰だったっけ?」

「さあ、名前なんていちいち覚えてねえよ」

「ちょっと二人とも……対抗戦で戦った相手なんだからちゃんと覚えて上げないと可哀想だよ」

「なら、ミナは覚えてる?」

「え!?えっと……まずはドリスさんでしょ?それと、チョウ君……最後の一人は、誰だっけ?」

「ミナの姉ちゃんもちゃんと覚えてないじゃん!!」

「わあっ!?ごめんごめん、許してぇっ!?」



人に叱りつけておきながら自分も対抗戦の対戦相手を全員覚えていないミナにコネコは飛び掛かり、そのたわわな胸を揉みしだく。その様子を見てレナは苦笑いを浮かべると、教室の扉が開かれて一人の男子生徒が入り込む。



「おい!!付与魔術師の奴はここにいるのか!?」

「え?あ、俺の事ですか?」



付与魔術師という言葉にレナは驚いて振り返ると、そこには何処かで見覚えのある男子生徒が立っており、最初は誰だったのか思い出せなかったレナだが、すぐに先ほど話題になっていた対抗戦に出場していた魔法科の生徒である事を思い出す。


名前はよく覚えていないが、ウカンと共に登場した男子生徒であり、魔法科の生徒の中でも成績は優秀だったために代表に選出された生徒である。彼はレナが教室に存在する事を知ると、怒り心頭でレナの元へ赴く。



「お前調子に乗るなよ……学園長に気に入られているからといって、自分がこの学園の生徒の中で一番偉いとでも思っているのか!?」

「え?いや、いったい何ですか?」

「おいおい、いきなり兄ちゃんに突っかかってくるなよ。だいたい誰だよお前?」

「何だと!?この僕の事を知らないというのか!!」



コネコが呆れた様子で男子生徒に語り掛けると、怒った男子生徒は彼女に杖を構えようとするが、それよりも先にシノがクナイを取り出して男子生徒に近付く。


気配も感じさせず、一瞬にして自分の首筋にクナイを押し付けられた男子生徒は恐怖の表情を浮かべ、その様子を見てシノは耳元で囁く。



「それ以上は止めた方が良い、魔法を使う気がなくても杖を構えられればいい気分はしない」

「ひっ!?わ、分かった……俺が悪かったから離せっ!!」

「何なんだよこいつ……兄ちゃんに何か用か?」



シノが離れると男子生徒は若干怯えた表情を浮かべながらも杖をしまい、恐る恐るといった感じでレナに話しかける。



「……明日、金色の隼の冒険者を相手にするのは対抗戦に出場した生徒という話はもう聞いているな?」

「うん、学園長から教わったけど……それがどうかしたの?」

「どうかしたのだと?とぼけやがって……金色の隼が既にお前に対して勧誘をしているという話は聞いているんだぞ!!」

「何だって!?」

「おい、その話は本当かよ!?」

「凄いレナ君!!」



男子生徒の言葉に教室に残っていた他の生徒達も騒ぎ出し、騎士科の生徒であるレナが黄金級冒険者で構成されている「金色の隼」に勧誘されているという話を聞いて驚かずにはいられない。


だが、レナの方はどうしてその話を目の前の男子生徒が知っている事に疑問を抱き、まずは彼の顔をよく見てから名前を思い出した。



「あの、確か前回のテストで魔法科の生徒の2位だったフンガ君だったよね?」

「そうだ!!魔法科の男子生徒の中では1位のフンガだ!!」

「確か、ドリスさんが1位だったんだよね」

「うるさい!!あの女の事は今はどうでもいいだろう!!」



ドリスが前回の魔法科の生徒のテストで1位を取った事を指摘すると男子生徒は不機嫌そうに怒鳴りつける。そして彼はレナの襟首を掴むと、怒りの表情を露わにして顔を近づける。



「どうしてお前みたいな奴があの高名な金色の隼に目を付けられるんだ……騎士科の生徒の癖に、魔法科の生徒になれなかった癖に……なんで、いつもお前なんかが……!!」

「いや、そういわれても……」

「何だよ、ただの妬みか」

「コネコちゃん!!口が悪いよ!!」

「……でも、確かに嫉妬は良くない」



どうやらフンガは魔法科の生徒ではなく、騎士科の生徒であるレナが有名な金色の隼が目を付けたという事実が許せないらしい。


どうして優秀な魔法科の生徒ではなく、見下している騎士科の生徒が金色の隼に勧誘されたという事実が認められず、わざわざ教室に乗り込んできた様子だった。

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