第228話 魔法学園の名前の由来

「落ち着けよ、えっと……フンのあんちゃん」

「誰がフンだ!?人を糞尿扱いするな!!」

「ごめんなさい、この子は初対面の人の名前を覚えるのが苦手だから許してやって欲しい」

「初対面じゃないだろうが!!対抗戦で会っただろうが!?」

「そうだったっけ?ごめん、忘れてたわ」

「おのれ……これだから騎士科の生徒は馬鹿揃いで嫌いなんだ!!」



コネコの態度にフンガは憤るが、彼の発言を聞いて教室内に残っていた騎士科の生徒を敵に回してしまい、生徒達はフンガの態度に嘲笑う。



「魔法科とか、騎士科だからとか、まだそんなことを言っている奴がいるのかよ」

「対抗戦で卑怯な手を使った癖に偉そうに言いやがって……」

「魔法科の生徒だから偉そうにしてんじゃねえよ馬鹿!!」

「うっ……うるさいぞお前等!!」



周囲の人間の圧力を感じたフンガは流石に分が悪いと判断したのか後退り、それでもここまで来た以上は黙って引き返す事は出来ずにレナに向き直る。そして彼に目掛けて手袋を取り出すと、勢いよく投げつけてきた。


投げつけられた手袋に対してレナは少し前も同じ体験をした事を思い出しながらも反射的に手袋を受け取ると、無造作にフンガに投げ返す。まさか決闘を申し込むつもりで放った手袋が投げ返されるとは思わず、フンガは咄嗟に受け取ってしまう。



「なっ!?」

「悪いけど、決闘ならしないよ。明日は大事な日なんだから、お互いに怪我をしたら大変でしょ?」

「そうそう、だいたい兄ちゃんに勝てるはずないんだから無謀な事は止めとけよ」

「僕もやめておいた方が良いと思う」

「同感」

「お、お前等……!!」

「さっきからいったい何の騒ぎですの?」

「何かあったんですか?」



諦めきれずにしつこくレナに突っかかろうとするフンガに対して教室内の生徒は冷たく対応していると、出入口の方からドリスとナオが顔を出す。


教室を通り過ぎようとした穐に騒ぎを聞きつけて現れたドリスはフンガの方に視線を向け、どうして魔法科の生徒である彼が騎士科の教室にいるのかを不思議に思う。



「あら、そこにいるのはフンガさんじゃないですの?どうしてこんな所に?」

「ドリス、丁度良かった!!お前が立会人を勤めろ、俺はこの男に決闘を挑む!!」

「決闘……ですか?それは穏やかな話ではないですね」

「うるさい!!だいたい誰だお前は!?」

「この方は私の親友のナオですわ」



ドリスの傍にいるナオにフンガは気付くと、彼(彼女)の姿を見て騎士科の生徒だと知り、どうして魔法科のドリスが騎士科の生徒と仲良くしているのか問い詰める。



「そいつ、騎士科の生徒だな?ドリス、お前は騎士科の生徒に媚びを売っているのか!?」

「媚びを売るとは失礼ですわね、私が騎士科の生徒と仲良くなってはいけないんですの?」

「当たり前だ!!この魔法学園では魔法科の生徒が優遇されるべきだ!!それなのにお前ときたら僕達のおこぼれで入学した奴等と……!!」

「貴方、まだそんなことを言ってますの?」



フンガの言葉に流石にドリスも黙っていられず、彼女は目つきを鋭くさせて近付くと、フンガはその気迫に後ずさる。そんな彼に対してドリスは堂々とした態度で指先をフンガの胸元に押し付けて叱りつけた。



「魔法学園の名前の由来は大魔導士のマドウ様が学園長を勤めているからに過ぎませんわ!!この学園は魔術師を養成学校ではなく、称号を持つ人間の教育施設なのです!!魔術師だからといって好き勝手出来るわけではないのです!!」

「ぐうっ……!?」

「それに騎士科の生徒の皆さんは素晴らしい方々ばかりですわ。対抗戦であれほどの力を見せつけられたのに貴方はまだ騎士科の皆さんを認められないのですか?デブリ君の傷を負っても諦めずに最後まで戦う不屈の心、私を出し抜いたシノさんの機転、私の魔法に臆せずに立ち向かったミナさんの勇気、レナさんを救うために危険を顧みずに真っ先にウカンの元へ向かったコネコさんの仲間思い、そして何よりもあの悪しき召喚魔術師を実力で倒したレナさんの強さ!!騎士科の代表選手の皆さんは本当に素晴らしい方々でしたでしょう!?」

「えへへ……そ、そう言われると照れちゃうな」

「褒められるのは慣れていない……でも、嬉しい」

「急に褒めるの止めてくれよ、身体がくすぐったくなる」

「コネコ、照れてるでしょ」



ドリスが恥ずかしげもなく対抗戦に出場した騎士科の生徒を褒め称えるとレナ達も悪い気分はせず、先ほどまでフンガに怒りを抱いていた騎士科の生徒達もすっきりとする。


一方で同じ魔法科の生徒に注意された事でフンガは悔し気な表情を浮かべるが、言い返す事も出来ずに彼は逃げるようにその場を離れた。



「くそっ……僕は絶対に認めないからな!!お前も、お前等も!!全員だ!!」

「……子供みたい」

「何だと!?」



最後の最後まで自分が間違ってはいないと言い張りながら教室から出ていこうとするフンガにシノは呆れたように告げると、フンガは怒りを露わにして杖に手を伸ばす。


だが、周囲の生徒がこちらを見ている事に気付き、不満を抱きながらもここで騒ぎを起こせば不味いと判断したのかフンガは屈辱の表情を浮かべながら教室を走り去った。

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