第225話 競売の品

「でも、ミスリル以外でうちの商会で価値の高い物なんてありました?」

「それを言われると辛いな……う~ん、在庫を確認してみるか」

「どうしてもないというのなら俺の魔銃を出品するとか……」

「いや、そこまでしなくていいぞ!?大丈夫だ、俺の方で何とかするから!!」

「ていうか兄ちゃんの魔銃、兄ちゃん以外に使えないじゃん……出しても価値ないだろ」



レナが気を遣って魔銃を差しだそうとするが、ダリルは慌てて断り、とりあえずは在庫の確認向かう。実際の所、ダリル商会で最も価値がありそうなのはレナの所有物なのだが、流石にダリルも遠慮する。


競売が行われるのは一週間後であり、それまでにダリルは競売に参加するために資金を用意するか、あるいは自分が出品する品物を用意する必要があった。


だが、ミスリル以外で金目になりそうな物は生憎とダリル商会の在庫にある可能性は低く、結局その日の晩に競売に出せる品物はない事が判明した――





――競売が行われるまでの間はカーネ商会からも仕事の依頼は中断させてもらうという連絡が届き、翌日はレナは魔法学園に赴く。


マドウに競売の件を相談しようかと考えたレナは学園長室に尋ねると、運が良い事に今回も彼は学園長室に滞在していた。



「ほう、新聞に競売の参加者としてダリル殿が記載されていたと……しかし、本人は参加した覚えはないというのだな?」

「はい、ダリルさんによるとカーネ会長の仕業だと言ってましたけど……」

「ふむ、それはちょっとおかしいのう。実は昨日、カーネの奴と会ったのだがあの男はダリル殿が参加する事に不満を抱いている様子だったぞ」

「え?カーネ会長が?」



レナとマドウに用意された紅茶を味わいながら相談を行うと、話を聞いたマドウは不思議そうに首を傾げ、昨夜にカーネが自分の元へ訪れた時の話を行う。



「カーネは昨夜、競売に儂も参加しないかと勧誘しに参ったのだ。儂は忙しいので参加する余裕はない事を伝えたが、顔を出すだけでも良いとしつこく頼まれてのう。大方、集まった貴族に儂が奴の後ろ盾である事を知らしめようとしたのだろう。だが、その時に奴はダリル殿も話をしていたぞ」

「それは……どんな話ですか?」

「なんでも競売にダリルが参加する事に不満がある物良いだったな。新参者の分際で競売に参加するなど礼儀知らずだとか、そもそも競売に参加できる程の資金を持ち合わせているのも怪しいとか、ともかくカーネの方もダリルが参加している事は予想外のような物言いだったのう」

「それじゃあ、ダリルさんが参加する事を新聞に記載させたのはいったい……?」



ダリルの予想ではカーネが嫌がらせのためにダリル商会も競売に参加させたと考えていたが、マドウはそれを否定する。彼によればカーネの方もダリルが参加する事は予期せぬ事態であったらしく、そうでなければわざわざカーネが愚痴を漏らすはずがないと考えていた。


新聞にダリルの名前がはっきりと記載されていた以上は何者かがダリル商会を競売に参加させようとしているのは間違いないが、それがカーネでなければ何者がダリルを競売に参加させたのかが分からなくなり、謎が深まる。


ダリルの人柄からカーネ商会以外の相手に恨みや妬みを持たれるとは考えにくく、彼を嵌めようとする人物などレナには心当たりが全くない。



(カーネの仕業じゃないなら誰がダリルさんを競売に……?)



黒幕がカーネでなければダリルを嵌めようとする人物などレナには思い当たらず、考え方を改める。ダリルを競売に参加させようとする人物の目的はダリルではなく、ダリル以外の人物を嵌めようとしているのではないかと考え、そう考えるとダリル商会の関係者の誰かを狙っている可能性がある。


しかし、それでも憶測の域は出ず、わざわざ競売にダリルを参加させる事で相手に何の利益があるのか分からない。考えても答えは思いつかず、この際に新聞社に問い合わせてみようかと考えた時、マドウが代わりに提案を行う。



「新聞社の方は儂の方からそれとなく問い合わせておこう。参加者を記載した人物にどのような経緯で参加者の情報を掴んだのかを尋ねておく」

「え、でも学園長はお忙しのにそんな事までしてもらうのは……」

「何、別にたいした事ではない。それに新聞社の方には定期的に尋ねて色々と情報を仕入れておるからのう。ついでに新聞記者に尋ねておくだけだからたいした労力にはならん」

「ありがとうございます!!」



マドウが新聞社に問い合わせるならば有難く、もしも新聞社の記載ミスだった場合、すぐにダリル商会が競売には参加が誤りであったことを掲載してもらえば問題は解決する。これで解決の糸口が見つかったと思ったとき、マドウの方からレナに頼みごとを行う。



「但し、その代わりと言っては何だがお主に頼みたいことがある」

「あ、はい。何ですか?」

「実は最近、黄金級の冒険者からこの魔法学園を見学したいという要望があってな。金色の隼という冒険者集団の事は知っているか?」

「金色の隼……?」



レナはアルト王子の誕生会で遭遇した3人の黄金級冒険者の事を思い出し、マドウの言葉に頷く。

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