第213話 ゴマン伯爵

「……というか皆、なんか距離近くない?いくら狭いといってもここまで密着しなくても大丈夫だと思うんだけど」

「だって、傍にいないと安心できないし……」

「遠慮する事は無い、女の子の身体を堪能するといい」

「あたしは別に何時も通りだろ?」



レナは美少女と言っても過言ではない容姿を持つ3人に密着されて気恥ずかしいが、3人は離れるつもりはないらしく、逆に身体を押し寄せてくる。コネコの場合は子供なのでともかく、他の二人は年齢はともかく、肉体の方は成熟しているといっても過言ではないので色々と柔らかい所が当たってしまう。


今更ながらにレナは自分が凄く可愛い女の子たちと一緒にいると意識してしまい、魔法学園に訪れる前はこんな美少女たちと仲良くなれるとは思いもしなかった。このまま馬車が学園へ辿り着くまでこの状況が続くのかと思ったとき、唐突に馬車が急停止する。



「うわっ!?」

「何だっ!?」

「きゃっ!?」

「……敵襲?」



馬車が突然に止まったのでレナ達は慌てて扉を開いて外の様子を確認すると、馬車の前方に大勢の人だかりができている事に気付く。その人だかりの正体は一般市民ではなく、武装した人間の集団だと気付くとレナは御者に何が起きたのかを尋ねる。



「どうしたんですか?」

「そ、それが……こいつらがいきなり現れて道を塞いできたんです」

「そこの馬車!!止まれ!!」



茶色の鎧兜を身に着けた兵士の集団は街道を封鎖すると、レナ達が乗り込んでいる馬車の前に近付き、隊長格と思われる男性が前に出てきた。


唐突に現れて道を塞いだ兵士の集団にレナ達は警戒心を露わにしながら馬車から降り立つと、隊長の男が手配書のような物を確認して全員の顔を見渡した後、レナの顔を見て頷く。



「そこの少年、お前が魔法学園に通っているというレナだな?」

「……そうですけど」

「よし、では我々に同行してもらうぞ!!お前たち、そいつらを捕まえろ!!」

「ちょ、ちょっと待って!!いきなり現れて何を言ってるんですか!?」



兵士の集団がレナの元へ近づこうとすると慌ててミナがレナの前に立ちふさがり、いったい何の真似なのかを問い質す。そんな彼女に対して隊長の男は堂々と宣言した。



「我々は王国貴族のゴマン伯爵様の私兵である!!我々は伯爵様の命を受けてそこにいる少年を連れてくるように言付かっている!!」

「王国貴族!?伯爵!?」

「伯爵って……」

「……なるほど、そういう事」



ゴマン伯爵の私兵を名乗る兵士達はレナ達を包囲すると、絶対に逃がさないとばかりに睨みつけてくる。だが、ここでレナが気になったのはゴマンという名前だった。


先日の対抗戦でデブリと戦った「ゴマン」という生徒と名前が同じである事にレナは気付き、何か関係があるのかと思ったが、このままでは自分だけではなく他の者達も連れ去られてしまうと判断したレナは隊長の男に話しかける。



「……俺が黙って付いてくれば馬車と彼女達は解放してくれますか?」

「レナ君!?」

「ほう、理解が早いな……いいだろう、我々が受けている命令はお前を連れてくるように言われているだけだ。抵抗せずに一人で同行するというのであれば他の者達に手出しはしない」

「兄ちゃん、こんな奴等の言う事を聞くことないって!!」

「…………」



レナの言葉にコネコは反対するが、シノは何かを察したのか黙り込み、馬車に乗り込んだ御者の男はおろおろと自分を取り囲む兵士達の様子を伺うだけで何もしない。


御者の男はダリル商会に雇われているだけの無関係の一般人のため仕方がない事であり、レナは他の者達に魔法学園へ先に向かうように説得する。



「大丈夫、すぐに戻ってくるから皆は先に魔法学園へ向かってくれる?」

「けど、兄ちゃん!!こいつらすげぇ怪しいぞ!?」

「そうだよレナ君!!こんな人たちの言う事を聞かなくていいよ!!」

「我々は伯爵様の命令を受けているのだぞ!!一般人の分際で、ゴマン伯爵に従えぬというか!?」



ミナの言葉に隊長の男が激怒したように怒鳴りつけると、そんな彼の態度に不満を抱いたミナ達は言い返そうとしたが、レナがシノに頼んで二人を任せる。



「シノ、悪いけど二人をお願い……後は頼むよ」

「分かった、任せて」

「あ、兄ちゃん!?」

「駄目だよレナ君!!」

「ふん……最初から潔く従えばいいのだ」



シノに二人を任せるとレナは隊長の男に従い、そのまま彼等が同行させていた馬車の中へ案内される。まさか魔法学園に辿り着く前にゴマン伯爵という貴族に呼び出される事になるとは思いもしなかったが、レナは昨夜の出来事を思い出す。


どうやらレナを誘拐しようとした兵士の正体がゴマン伯爵に関係している可能性が高くなり、レナは馬車に乗り込む際、3人の方へ顔を振り返ると意味深な視線を向けて頷き、その様子を見てレナの意図を察したミナ達は頷く。それを確認したレナは馬車に乗り込むと、隊長の男も同席する。



「よし、出発しろ!!」

「はっ!!」



馬車がゆっくりと発進すると他の兵士達も後に続き、富豪区の方角へ向けて走り出す――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る