第211話 馬車
「さて、ここからは大人同士の話じゃ。お主には悪いが部屋を出て貰うぞ」
「すまんな、今日の所は一先ずは帰って貰えるか?既に馬車は用意してある、他の者には話を通しておこう」
「お主は少々目立ちすぎたからのう、何時までも残っておると面倒ごとに巻き込まれるぞ。例えば、将軍から勧誘されたり、貴族から護衛として雇おうとしてくるかもしれん」
「はあ……分かりました。なら、ダリルさん達の連絡を任せていいですか」
「うむ、儂の方から伝えておこう」
――マドウとサブは他にも話し合う事があるらしく、レナは早々に城の外へ立ち去る事になった。マドウが信頼できる兵士を呼び寄せると、他の者達に見つからないようにレナは城の裏門に案内され、城門の前で待機している馬車の元まで案内される。
「では、ここから先はこの者が屋敷まで送り届けますのでご安心ください。それと、本日の決闘お見事でした」
「ありがとうございます。そう言って貰えると嬉しいです」
「……正直、すかっとしましたよ。あの男の日頃の態度は我々兵士も問題視していましたからね」
「そうなんですか……それは良かったです」
道案内の兵士はレナがサブに打ち勝った場面を見ていたらしく、彼はレナに笑顔を浮かべると握手を求め、勝利を祝う。そんな兵士に対してレナは愛想笑いを浮かべて礼を告げると、馬車に乗り込んで御者に挨拶を行う。
「こんばんは」
「……どうも」
「おい、態度が悪いぞ!!この方はマドウ様の教え子だぞ!!」
「す、すいません……」
御者の兵士はレナに挨拶されて不愛想に返事を行うと、それを見た道案内をしてくれた兵士が注意を行う。別にそこまで気を遣わなくても良いと思ったレナだったが、自分が口を挟むと余計に話がこじれそうなので馬車の中に入り込む。
扉の窓からレナは道案内を行った兵士に頭を下げると、彼は兜を取り外して大きくお辞儀を行う。まるで将軍や大臣でも送り届けるような大げさな態度にレナは苦笑いを浮かべるが、ここである事に気付く。
(何だ?この臭い……何かが臭う)
山間部に存在する村で育ったレナは自然に触れあいながら生活してきたため、嗅覚に関しては鋭い。馬車に入った途端にレナは違和感を感じ取り、咄嗟に窓に触れて開こうとする。しかし、窓は開くどころか扉が開く事が出来ず、異変に気付く。
口元を覆いながら馬車の中の奇妙な臭いを嗅がないように気を付けながらレナは何度も扉に力を込めるが、外側から鍵が施されたように開かない。いったい何の真似かと御者に話しかけようとしたが、ここでレナは口を閉じる。
(閉じ込められた!?まさか、罠か……!?)
マドウが用意した兵士と馬車だったのでレナは安心して乗り込んだが、扉が開かない事と馬車の中に奇妙な臭いが蔓延している事に違和感を抱き、窓を確認すると馬車の速度が上昇している事に気付く。
レナを乗せた馬車は王城を離れるとそのまま街道を突き抜け、凄い勢いで移動を行う。方角は間違いなくレナが暮らしているダリルの屋敷へは向かっておらず、危険を感じ取ったレナは躊躇せずに扉を破壊しようと魔法を発動させる。
(くっ……なんだ?頭が……)
しかし、魔法を発動させて扉を破壊しようとした瞬間、レナは自分の手元の魔力がいつもよりも弱弱しい事に気付く。それどころか徐々に眠気に襲われ、頭を抑える。ここでレナは先ほどから感じる臭いの正体が「眠り薬」の類だと知り、このまま馬車に閉じ込められていると意識を失いかねない。
意識が朦朧としてきたが、どうにかレナは両手で頬を叩いて眠気を無理やりに吹き飛ばし、扉に掌を押し当てた状態で付与魔法を発動させた。
「反発!!」
『っ!?』
掌から放たれた衝撃波によって馬車の扉を破壊し、御者が驚いた表情を浮かべて振り返る。しかし、既にレナは破壊した扉を利用して逃げる準備を行う。
「
「なっ!?ま、待てぇっ!!」
扉を足場にしてレナは外へ飛び込むと、そのまま地属性の付与魔法を施して扉を浮上させ、ゆっくりと街道へ着地を行う。その様子を見た御者は慌てて馬車を止めようとしたが、馬に乗っているならばともかく、馬車は簡単には止まらない。
頭を抑えながらもレナは足場に利用していた扉から下りると、急いで屋敷の方向へ向けて駆け出す。外に出れたお陰で薬の効果も薄まり、意識を取り戻したレナは全速力で屋敷へ向けて駆け出す――
――結果としてはレナは御者の追跡を振り切り、無事に屋敷の前まで辿り着いた。付与魔法を利用すれば高い建物の屋根の上に移動する事など容易く、馬車では追跡不可能な経路で逃げてきたので尾行される事もなく無事に辿り着く。
屋敷の中で留守番していたコネコとダリル商会の傭兵たちはパーティーに向かったのに全身が汗だくで戻って来たレナに驚くが、すぐに彼を迎え入れて屋敷の中に匿う。それからしばらくするとダリル達も戻り、レナが危うく連れ去られそうになったという報告を受けて驚く。
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