第210話 貴族の反応

「これは……」

「儂が所有していた土属性の高純度の魔石じゃ。お主が魔銃とやらを使う時、土属性の魔石を扱うと話は聞いていたからのう。儂が個人的に所有している魔石の中で最も高性能な魔石を用意しておいた。遠慮なく使ってくれ」

「いいんですか!?」



魔石は高級品であり、しかも大魔導士が所有する魔石となればその価値は計り知れない。下手をすれば金貨数十枚の価値がある魔石が袋いっぱいに入った状態で渡されたレナは戸惑う。


だが、マドウからすればレナの功績を考えればこの程度の報酬は当然の事であり、レナのお陰で魔法学園の存続の危機は乗り越えたと判断した。



「お主のお陰で儂の頭を悩ませる貴族達も文句は言う事はあるまい。それにパーティー会場にはこの国の将軍達も集まっていた。彼等もきっと魔法学園の存続を賛成するだろう。今頃、生徒達の資料を問い合わせ、卒業後に自分達の部隊に招こうと考える者も居るだろうな」

「じゃあ、本当に魔法学園はもう大丈夫ですか?」

「絶対に大丈夫、とは言い切れんが……儂の長年の勘から言えばもう表立って学園の存続を反対する貴族は現れんだろう。まだ、一般人と貴族の生徒の区別化を望む輩の件は解決したとはいえんが、一般人であるお主があれほどの活躍をしたのだ。この事を国王様に報告すればあの御方ならば貴族や一般人に関係なく、平等な教育を与えるように宣言してくれるだろう。数少ない貴族の生徒だけを優先して、才能があるかもしれない一般人を冷遇するなど、あまりにも非効率だからのう」

「あはは……じゃあ、有難く貰いますね」



マドウの話を聞いたレナは遠慮なく土属性の魔石が入った小袋を受け取る。本来は少しは気を遣うべきかもしれないが、事前に相談も無しに作戦に参加させられ、しかも魔法学園の存続の危機が掛かっていたという話を聞かされてはレナの方もこれだけの報酬を得られないと割に合わない。


商人のダリルにも育てられたせいか、レナは損得が釣り合う報酬ならば相手に遠慮する事はないと考えてしまい、受け取った小袋を見て笑みを浮かべる。これだけの純度の高い土属性の魔石の魔石を得られたら魔銃の素材だけではなく、別の道具の使い道もあるとレナは考えた。



(これだけの魔石があれば色々な事に使えそうだな……すぐに戻ってムクチさんに相談しよう!!)



嬉しそうに小袋を抱えるとレナは立ち上がり、マドウに礼を告げて立ち去ろうかと考えた時、部屋の扉がノックされる。



『大魔導士、ここにおられますか?』

「え、この声……」

「サブか、入ってもいいぞ」



扉が開かれるとサブが部屋の中に入り込み、レナとマドウの姿を確認すると彼はため息を吐きながら自然の流れでレナの隣に座り込む。



「サブよ、首尾はどうじゃ?」

「全く……パーティー会場に集まった貴族や将軍共が騒ぎっぱなしですぞ。アルト王子の誕生を祝う日だというのに話題が先ほどの決闘で大盛り上がり……お陰で儂の威信は地に落ちましたがな」

「はっはっはっ……それはすまなかったのう」



弟子の育成という点ではマドウよりも評価されていたサブだが、先ほどの決闘の件で彼の弟子がレナによって敗れた事で自分の評価が落ちたと告げる。


最も本気で彼も怒っているわけではないのかマドウに対して気にしていないとばかりに首を振り、次にレナに顔を向けて面白そうな表情を浮かべながら肩に手を伸ばす。



「それにしてもお主、不肖の弟子とはいえ、本当にシデの奴を倒すとは……どうじゃ?本気で儂の弟子にならんか?今なら面倒見の良い、見目麗しい姉弟子を紹介してやるぞ?」

「え?」

「こらこら、儂の教え子を勧誘するでない。そういう事は儂のいないところでやらんか」

「はっはっはっ、それもそうですな……しかし、喜んでばかりはおられん。シデの奴が治療を受けた後、姿を眩ませました。恐らく、落ち込んでいるところを他の人間に見られたくはないのでしょう」

「ふむ……彼には悪い事をしたな」



今回の作戦である意味では一番の犠牲者と言える「シデ」は、アイリから治療を受けた直後に姿を消したらしく、現在は師匠であるサブも居場所を掴めないという。


公衆の面前でレナに敗北したせいで他の人間に合わせる顔がないと考えたのか、サブの方も無理に探すような真似はしない。最もサブは今回の敗北の件で彼の心情が変わってくれることを祈る。



「まあ、自分よりも優れた者に負けて挫折するなど、誰にでも経験がある事。今回の件を切っ掛けにあの性格がもう少しでも改善してくれるのであれば良いが……」

「サブよ、今回は本当に迷惑を掛けたのう」

「いやいや、魔法学園の存続は儂の弟子たちにとっても重要な事……シデが敗北した事で他の弟子たちもきっと良い刺激になるでしょう。弟子の中には魔法学園の生徒を小馬鹿にしていた者も多かったですからな。今回のシデの敗北の件を切っ掛けに考え方を改めてくれるといいが……」



サブは自分の弟子が敗れた事はあまり気にしておらず、むしろレナに敗北した事で問題行動を繰り返すシデの性格が改善される事を願う。一方でレナの方は自分はともかく、今回の作戦で最も被害を受けたシデの事を心の中で心配した。

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