第209話 魔法学園の存続の危機

「でも、どうしてこんな回りくどい真似を?理由はあるんですよね?」

「うむ……今回、アルト王子の誕生パーティーには多くの有力貴族が集まっておる。その中には魔法学園の創設の際に援助を行ってくれた貴族も含まれている」

「そうなんですか?」

「魔法学園の創設には儂も骨を折った。大魔導士と呼ばれていても、儂が数十年の時を費やして集めた財産だけではどうしても創設は不可能だった。だからこそ友好的な関係を築いていた貴族、そしてあのカーネにも大きな貸しを作る事になったがな……」



魔法学園の創設するまでにマドウは数年以上の時を費やしており、まずは国王の許可を得た後、敷地の確保や訓練設備を整えるために莫大な費用を自分の資産と貴族や商会からの援助金でどうにか賄ったという。


魔法学園の創設の後も国内から称号を持つ人間を探し出し、魔法職だけに限らずに戦闘職の称号を持つ若者を集め、育成に励む。


そうする事で優秀な人材を産出し、国へ貢献することがマドウの目的だった。しかし、最近になって多くの貴族が魔法学園の存続に疑問を持ち始めたという



「魔法学園の創設のため、儂は多くの貴族から力を借り受けた。しかし、彼等の中には貴族出身の生徒を優遇しろ、一般人の生徒と自分の子供が同列に扱われる事に不満を持つ者もいてな……魔法学園の存続その物を否定する者も出てきている」

「それは、どうしてですか?」

「儂の教育方針では生徒は身分に関係なく、平等な教育を受けるようにしている。貴族だからといって優遇はせず、一般人だからといって馬鹿にされる事を避けるためにな。魔法学園はあくまでも実力を伸ばすための訓練校、優れた才能とたゆまぬ努力を持つ者こそが皆から敬われるべき存在だと儂は思っている」

「なるほど……」



マドウの言いたい事も分からないでもなく、身分に関係なく全員が平等な教育を受けさせたいという彼の考えはレナも間違ってはいないと思った。


しかし、魔法学園の創設の際に援助を行った貴族の中には自分の子供が魔法学園に通っている者も存在し、折角援助を行ったのに自分の子供が一般人の生徒と同列に扱われる事が気にくわないらしい。



「貴族の中には一般人と貴族の生徒を区別化し、貴族の生徒にはより良い教育を受けさせるように促す者もいる。しかし、それでは儂の理念に反してしまう。だが、援助を受けている身である以上は儂と言えども彼等には強く言えん……」

「確かに……」

「他にも自分の子供が魔法学園に入学を許されなかった貴族からも文句が上がっている。自分が援助してやったのに子供を試験で落とすとは何事かと文句を言う輩も居た。中には国王に魔法学園の撤廃を申し出る貴族も居た……だからこそ儂は今日、お主を呼び出したのだ」

「え?」



この話の流れでどうしてレナは自分が呼び出されたのか理由が分からず、マドウが何故自分を呼び出したのかを尋ねた。



「どうして俺を……?」

「うむ、今回の誕生パーティーにお主を呼び出したのは魔法学園の生徒の「価値」を示すためだ。儂はお主の事を魔法学園の生徒の中でも優秀な人間だと思っている。それに貴族の間にも名前は知れ渡っている、だからこそお主が一番最適だと思った」

「言っている意味がよく分からないんですが……」

「分かりやすく言えば儂は魔法学園の存続のため、大勢の貴族に魔法学園の生徒の優秀さを知らしめる必要があった。そして見事にお主はサブの弟子と決闘を行い、その力を見せつけた。あの決闘を見た貴族の中には魔法学園の生徒の大きな可能性を見出した者も居るだろう」



マドウによるとレナを呼び出した理由は彼が魔法学園の生徒であり、しかもミスリル鉱石の件で有名な存在なので貴族にも名前が知れ渡っている事、何よりもマドウが認めた実力者である事が重要だった。


レナがサブとの弟子と決闘を繰り広げ、その戦闘を見届けた貴族達の多くは魔法学園の生徒の評価を一変させた。短期間の間に魔法学園で指導を受けていた一般人のレナが高名なサブ魔導士の弟子を打倒したと知れば、魔法学園の重要性が嫌でも思い知らされる。


魔法学園に二か月程度しか通っていないレナがサブ魔導士の弟子を倒したと知れば魔法学園の教育の高さが伺え、しかも貴族ではなく一般人であるレナが目立つという点がマドウにとっては非常に都合が良かった。



「今頃、魔法学園の維持に否定的な意見を告げていた貴族達も顔色を青くさせておるだろう。あれほど否定していた魔法学園の生徒が弟子の教育に関しては儂よりも優れているサブの弟子を打倒したのだからのう。きっと、今頃は意見を180度変えて儂の魔法学園の存続に賛成する貴族も現れるだろう」

「そういう事だったんですか……でも、そんなに上手く行きますか?」

「問題はない。貴族ではない、ただの一般人だったお主だからこそ、今回の作戦にはどうしても必要だったのじゃ」



マドウは満足げに頷き、レナに対して小袋を手渡す。不思議に思いながらもレナは中身を確認すると、そこには土属性の魔石がいくつも入っていた。

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