第206話 砲撃魔術師VS付与魔術師

「ば、馬鹿なっ!?なら、これなら避けられないぞ!!ファイアボール!!」

「その魔法は良く知ってるよ」



額に汗を滲ませながらもシデは杖先に1メートル程の大きさの火球を生み出すと、レナに向けて放つ。ムノーも使用していた魔法だと思い出したレナは最初は避けようと動こうとした。


だが、先ほどの「ボルト」とは異なり、ファイアボールは攻撃速度は遅いがシデの意思で操作できるのかレナが逃げようとした方向へ移動を行う。どうやらドリスの「火球」のように巧みには動かす事は出来ないようだが、ある程度の操作を行って敵を追尾させる事は出来る様子だった



「逃がすか!!そのまま燃え尽きろっ!!」

「なるほど、ならこっちも」



レナは掌を地面に押し付けると完全な無詠唱で付与魔法を発動させ、地面の土砂を操作して「土壁」を作り上げる。迫りくる炎の塊は土壁に衝突した瞬間に爆散し、土壁を破壊した途端に消え去ってしまう。その様子を人々は驚く。



「何だ今のは!?」

「突然、壁のような物が現れて魔法を防いだように見えるが……」

「あれが付与魔法なのか?」



付与魔法を初めて目にする貴族達は驚き、一方でジオは感心する。ファイアボールは炎の塊を生成し、相手に衝突させて爆散させる強力な魔法であるが、炎に対して強い土砂を利用して攻撃を防いだレナにジオは興味を強めた。


姪であるミナからレナの話を聞いていたが、思っていた以上に強力な魔法も扱える事に内心感心した。しかも魔術師でありながら身のこなしは軽く、敵の攻撃に対して最善の対応策を取るレナにジオは感心する一方、対戦相手のシデは悉く自分の魔法に対処するレナに苛立ちを募らせる。



「くそっ!!よくも俺の魔法を……なら、これはどうだ!!」

「シデよ、落ち着かんか!!戦闘中に冷静さを欠くな!!」

「うっ……!?」



しかし、次の魔法を発動させようとしたシデにサブが怒鳴りつけると、彼は驚いた表情を浮かべて師に顔を向け、彼の表情を見て一気に頭に登った血が引いていく。敬愛する師匠の前で冷静さを失おうとしていた事に気付き、シデは改めてレナと向き合う。


少しは落ち着いた事でシデもレナの様子を確認し、先ほどの攻防を思い返す。レナが迫りくるファイアボールに対して土壁で身を守ろうとした際、地面に右手を押し付ける事で魔法を発動した事を思い出す。



(そういえば付与魔法は掌を通して魔法を通すと聞いた事がある……という事は、奴は魔法を発動する際は必ず両手のどちらかを使用するはずだ!!)



付与魔術師の付与魔法の特徴はシデも過去にサブ魔導士から教わっており、以前は付与魔術師などという落ちこぼれの魔術師の事など勉強して意味があるのかと考えていたが、ここで知識が役に立った。



(よし、奴が魔法を使おうとすれば地面に両手のどちかかを押し付けるはずだ。となると、奴が魔法を発動させるタイミングを計れる。集中しろ、今度こそ仕留めるぞ……!!)



ジオは確実にレナを倒す為に意識を集中させ、もう一度「ファイアボール」を発動させる事にした。ボルトの場合だと攻撃の軌道を変更させる事は出来ず、一方でファイアボールならば攻撃速度が落ちる分、シデの意思である程度の攻撃の軌道を操作する事は出来た。


作戦としてはファイアボールを発動させた後、レナは必ず魔法を発動させて土壁を生み出してファイアボールを防ごうとする。しかし、レナが魔法を発動させるタイミングを見計ればシデの意思でファイアボールを土壁に衝突させず、軌道を変更させて土壁を回避してレナに攻撃を行える自信がある。



(これで終わりだ、落ちこぼれめ!!)



やはり、付与魔術師など敵ではないと判断したシデは杖を掲げ、再び魔法を発動させる。先ほどからの砲撃魔法の連発で魔力は消耗しているが、それでもサブの弟子である自分が負けるわけにはいかないと思って意地でも魔力を絞り出して発動させた。



「ファイアボール!!」

「しつこいな……」



レナは性懲りもなくファイアボールを発動させたシデに溜息を吐き、自分に迫りくる炎の塊を見て手を地面に伸ばす。


だが、その様子を見ていたシデは意識を集中させ、レナが掌を地面に押し当てた瞬間に攻撃の軌道を変更させる準備を行う。



(奴が地面に触れた瞬間、ファイアボールの軌道を上に上昇させる!!そうすれば正面や左右に土壁を作り出しても回避する事ができる!!そして奴に止めだ!!)



土壁を作り出すタイミングを見計らい、シデは視線をレナの手元に集中させる。しかし、その彼の反応に気付いたレナは地面に伸ばした手を止め、やがて笑みを浮かべる。そのレナの態度にシデは驚くが、レナは勢い良く両手を地面に押し付けた。



「付与魔法はこういう使い方もあるんだよ」

「何だ!?」



次の瞬間、レナの両手が触れた瞬間に土砂が盛り上がり、今度は「槍」のような形に変形してファイアボールの元へ向かう。炎の塊に槍の様に形成された突起物が衝突した瞬間に爆散し、攻撃の軌道を変更させる暇もなくシデの魔法は掻き消されてしまう。


レナの付与魔法は土壁を作り出せるだけではなく、攻撃としても利用する事は可能であり、触れた瞬間に爆散を引き起こすファイアボールの性質を逆に利用して無効化させた。

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