第207話 これが付与魔術師の実力だ
「くぅっ……くそぉっ!!ファイアボール!!」
「馬鹿者!!無暗に砲撃魔法を連発するのではない!?倒れてしまうぞ!!」
作戦も考えて自信を持って発動した魔法さえも無効化されたシデは冷静さを欠き、次の魔法を発動させる。その様子を見てサブは注意を行うが、頭に血が完全に登ってしまったシデは無我夢中にレナを倒す為に魔法を放つ。
「ファイアボール!!ファイアボール!!」
「無駄だよ。その技は防ぎやすい」
合計で3発の炎の塊が放たれるが、最初と2発目の魔法と比べると炎の塊の規模は小さく、攻撃の軌道も読みやすい。砲撃魔法の最大の弱点は高威力の攻撃を行える半面、連続発動には向かないという弱点を持っていた。
シデの限界が近いことを察したレナは両手を地面に押し付ける事もせずに立ち上がり、好機だと判断してシデの元へ向けて駆け出す。
「行くぞ!!」
「ち、近付くなっ!?うわぁあああっ!!」
自分に迫るレナに対してシデはファイアボールを操作しようとしたが、同時に複数の炎塊を誕生させた事が仇となり、攻撃の軌道が上手く変更できない。複数の魔法を利用すると意識が分散してしまい、上手く操る事が出来ないという弱点がある事をシデはすっかり忘れていた。
操作性を欠いたファイアボールを全て回避したレナは右手に意識を集中させ、紅色の魔力を宿す。そして距離が5メートルにまで迫ると、シデは反射的に杖を構えて魔法を発動させる。
「近付くなぁっ!?ボル……!!」
「
シデが雷属性の砲撃魔法を発動させる前にレナが先に付与魔法を発動させて「間接付与」を利用し、自分の靴に紅色の魔力を宿らせた直後、魔力を解放させて衝撃波を生み出して「瞬間加速」を行う。
一気に距離を詰めたレナはシデの至近距離に迫ると右手を掌底に変えて突き出し、デブリの「突っ張り」の如くシデを吹き飛ばす。
「反発!!」
「ぐええっ!?」
「し、シデ!?」
『おおっ!!』
掌底から繰り出された重力の衝撃波によってシデの身体は吹き飛び、それを目撃したサブは驚愕の声を上げ、観戦していた貴族達は歓声を上げる。
浮き上がったサブが地面に向けて落下する光景を確認したマドウは仕方なく自分の杖を構え、彼が地面に倒れ込む前に魔法を発動させた。
「風圧!!」
「うあっ……!?」
頭から地面に衝突するところだったシデだが、マドウが杖先から迸らせた強風によって身体が浮き上がり、ゆっくりと地面へ倒れ込む。それを目撃したサブは急いでシデの元へ向かい、彼の安否を確認する。
「シデ!!生きておるか!?」
「ううっ……」
「ほっ……無事か、誰かすぐに治癒魔導士を呼んでくれ!!」
「はいは~い、ここにいますよ~」
サブの言葉にパーティー会場に存在した一人の女性が手を上げ、その声に聞き覚えがあったレナは振り返ると、そこにはレナの地元の冒険者ギルドで一時期働いていた治癒魔導士のアイリだった。
「あれ、もしかしてアイリさん?」
「そうですよ~久しぶりですねレナ君、でも今はゆっくり話している暇はないので失礼しますね」
現れたアイリはレナに軽く手を振るとシデの元へ赴き、怪我の容体を確認する。幸いにも派手に吹き飛ばされた割には大きな怪我はなく、気絶しているだけだった。
しかし、先ほどの決闘で無茶に魔法を使いすぎた影響で顔色が悪く、このまま放置するとまずいと判断したアイリは兵士を呼びつけて彼を王城の医療室へ運び込むように指示する。
「意識を失っていますね。それに魔力を使いすぎて少しまずい状態です、すぐに医療室に運んでください!!」
「そうか……おい、そっと運べ。儂が付き添う」
「分かりました。ではこちらへ……」
不肖の弟子とはいえ、やはり心配なのかサブはアイリの言葉を聞いて安心すると、兵士と共に立ち去る。残されたレナは少しやり過ぎたかと思ったが、決闘を勝利したレナに人々は拍手を行う。
「この決闘、勝者はレナ!!皆さん、盛大な拍手を送りましょう!!」
「おおっ……素晴らしい!!」
「面白い見世物でしたな」
「これが魔術師同士の決闘か……いやはや、中々楽しめましたな」
滅多に診れない魔術師同士の決闘を見た事で貴族達は満足したらしく、惜しみなく拍手をレナに送る。これだけ大勢の人間から拍手をされた事がないレナは戸惑い、照れくさそうな表情を浮かべる。
そんなレナの元にマドウは近付くと、肩に手を伸ばして笑みを浮かべ、シデに勝利した事を祝うように微笑む。その後、彼は貴族の面々に振り返って宣言を行う。
「皆の者、彼の活躍をしっかりと見てくれただろうか?ここにいるレナ君は我が魔法学園の教え子、彼以外にも優秀な魔術師や戦闘職の生徒も大勢いる。彼等はきっと、この国の将来を支える優秀な人材に育つと儂は確信しておる!!」
『おおっ……!!』
「魔法学園はこの国に必要な教育施設であると儂は確信している!!才能がある人間ならば貴族であろうと一般人であろうと関係なく受け入れる、身分が低いという理由だけで才ある人間を見逃す行為は国にとっての損失といっても過言ではない!!だからこそ、魔法学園は今後も一般人であろうと関係なく受け入れることを宣言する!!」
「えっ……?」
マドウの言葉にレナは驚き、そんな彼の顔を見てマドウは朗らかな笑顔を浮かべ、レナを連れてその場を立ち去った――
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