第205話 一瞬の出来事

「ふん……マドウ大魔導士が出て来た事は驚いたが、これでお前を公衆の面前で叩きのめせる。覚悟しろよ、僕は手加減を知らないんだ」

「…………」

「ちっ、怖くて言葉も出ないのか?」

「シデ、子供じみた挑発は止めんか!!決闘に集中しろ!!」



シデはレナに対して子供じみた挑発を行うが、それに対してレナは何も言い返さずに自分に注目を集める人々に視線を向ける。そんな反応を見てシデは苛立ちを募らせるが、師であるサブが注意を行う。


決闘の様子を伺っている人間達の中でレナはアルトやミナたちの姿を確認すると、不安な表情を浮かべる彼等を見て安心させるために握り拳を見せる。その様子を見て人々はレナが余裕を見せている判断したらしく、ひそひそと小声で話し合う。



「何ですかね、あの少年の態度は……相手はあのサブ魔導士の弟子だというのに余裕のつもりでしょうか?」

「いや、私はあの少年の方が有利だと思いますよ。あのマドウ大魔導士があれほど自信を持って戦わせようとしているのだ。きっと、優秀な魔術師なのでしょう」

「しかし、噂によると彼は付与魔術師らしいが……そもそも戦えるのか?」

「おっと、貴殿はあの噂を知らないのですか?彼がここ最近、大迷宮にて大量のゴーレムを駆逐してミスリル鉱石を確保している冒険者ですよ」

「何と!?あの噂の……ならば期待できそうですな」



レナの噂は貴族間にも広がっていたらしく、大半の人間がレナがどのような魔法を扱うのか興味を抱く。一方でミナ達もレナの心配を行い、特にダリルは焦った表情を浮かべていた。



「ああ、どうしてこんな事に……レナの奴、大丈夫だよな?なあっ!?」

「う、うん……レナ君は強いから平気だと思いますけど」

「けど、相手も強敵ですわよ。態度は最悪ですが、あのサブ魔導士の弟子の中に無能な人間がいるとは思いませんわ。きっと、何らかの才能を認められて弟子になったのでしょう」

「ドリスはレナ……さんが負けると思うのですか?」

「正直、私はレナさんの戦っているところを見たことがないので何とも言えませんわ。対抗戦の時にあの憎き召喚魔術師を倒すだけの実力者である事は知っていますが……」

「大丈夫、レナは負けない」



ドリスはレナが魔法を使用する場面は見たことがなく、正確な実力は分からない。しかし、噂やミナ達の話を聞いている限りでは相当に優秀な魔術師だとは知っていた。しかし、相手のシデの方もサブ魔導士に弟子入りを認めた魔術師である事は間違いなく、決して油断は出来ないと考えていた。


シデの使用するのは先ほど彼が自慢していた「魔剣」ではないらしく、杖を用意していた。それを見て不思議に思ったレナは質問する。



「魔剣は使わないの?」

「ふん、お前如き杖で十分だ!!」

「嘘を吐くのではないシデよ。お主はまだ魔剣を扱いこなせないだけだろうが……」

「し、師匠!!そんな事は……」



どうやらあれほど自慢していたにも関わらず、シデは「魔剣」を現時点では扱いこなせいので杖で戦うらしい。但し、シデの持つ杖には「火属性」「風属性」「雷属性」の魔石が装着されていた。


この事から彼が扱う魔法の属性は3つだと判明し、一方でレナの場合は「地属性」しか扱えない。しかし、属性が多く扱える魔術師の方が絶対的に有利というわけではなく、重要なのは互いのどちらが自分の魔法を使いこなせているかである。


魔術師の決闘の場合はお互いに15メートル程離れた距離で構えあう規則となっており、この15メートルという距離は魔法の被害を考慮して設けられた距離である。あまりに近すぎると魔法が衝突した際の被害で両者共に倒れてしまう心配もあり、ある程度の距離を離れなければならなかった。



「では、両者準備はいいか?」

「問題ない!!」

「何時でもどうぞ」



敵意をみなぎらせるシデに対してレナは涼しい表情で返事を行い、返事を確認したジオは決闘の合図を行う。



「始めっ!!」

「喰らえっ、ボルト!!」



決闘が遂に開始された瞬間、即座にシデは杖先を構えるとレナが動く前に魔法の発動を行う。使用するのは「雷属性」であり、攻撃速度という点では他の属性の魔法と比べても圧倒的な速度を誇る雷属性の魔法で仕留めようとした。


シデの杖先から黄色の魔法陣が展開し、直後に雷の如く電流が放出される。しかし、既にレナは魔法陣が展開した瞬間を見計らい、数歩ほど横に動いていた。



「その魔法は見飽きたよ」



電撃がレナの横を素通りすると、だいたい30メートル先まで移動すると消え去ってしまう。速攻性に優れた雷属性の魔法を容易く回避したレナに人々は驚き、一方でジオは感心した表情を浮かべる。



(ほう、魔法が完全に発動する前に回避行動を取っていたか……魔術師との実戦においては基本的な避け方だが、中々の反応速度だ)



雷属性の砲撃魔法の弱点は速度に特化した分、実は攻撃方向が読みやすく、電流はほぼ一直線に放たれてしまう。なので事前に回避行動に移れば避けやすいという弱点を持っていた。これまでに雷属性の魔法で苦しめられたレナだからこそ、既に雷属性の魔法の弱点は見抜いていた。


その一方で魔法を回避されたシデは表情を歪めるが、決して冷静さを欠くことはなく、次の魔法の準備を行う。今度は避けられないように確実に当てるため、彼は火属性の魔石を利用して次の魔法を放つ。

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