第204話 余興

「くっ……しかし、僕の誕生日のために友人が血を流す事になるかもしれないなど認められません」

「それは本人の意思を聞いてからでよいでしょう。どうかな、レナ君?」

「え?いや、俺は……」



マドウに声を掛けられたレナは困惑し、勝手に話は進んでいるがそもそも自分はサブの弟子と戦うつもりはない。しかし、マドウはそんなレナに対して黙って頷く素振りを行い、それを見たレナは彼に何か考えがある事に気付く。


どうしてマドウがわざわざ自分をアルト王子の誕生会に招待したのか分からなかったレナだが、都合よくサブ魔導士が現れ、彼の弟子が自分に対してつっかけて来た事に疑問を抱き、もしかして最初から仕組まれているのではないかと考える。


レナはサブ魔導士に視線を向けると、彼は口元に指先を伸ばして頷き、どうやら事前にマドウと打ち合わせを行っていたらしい。しかし、弟子の方はレナに対して明らかな敵意を向けており、こちらの方は事前に話が通っていたようには思えなかった。



(何か考えがあるのか……?)



マドウとサブが何を企んでいるのかは知らないが、事前に自分にも計画を打ち明けて欲しいと思いながらもレナは彼の提案に乗り、決闘を承諾した。



「アルト王子、俺は戦いたいです」

「レナ君!?だが、君は……」

「アルト王子、両者が決闘を承諾したのであればそれを止めるのは野暮という物……お互いの誇りを賭けて彼等は戦わねばならないのです」

「しかし……」

「では、これより決闘を行う!!どうか勇気ある二人に拍手を!!」



アルトが何かを言う前にマドウは周囲の人々に二人の決闘を宣言すると、魔術師同士の決闘が見られるという事で人々は盛大な拍手を行う。周囲の反応を見てアルトは悔しげな表情を浮かべ、この雰囲気では否定すれば自分一人の我儘と思われるだろう。


レナとシデは周囲の反応に戸惑いながらも互いに睨みあい、やがてマドウに促されるままにパーティー会場から少し離れ、開けた場所へ移動を行う。人々は戦闘に巻き込まれないように少し離れた位置に立ち、マドウとサブがお互いの弟子と教え子の元へ向かう。



「すまないな、レナよ。このような茶番に突き合わせて……だが、必要な事なのだ」

「マドウさん、俺はどうすればいいんですか?」



他人に盗み聞きされない位置にまで移動するとマドウは謝罪を行うが、レナは自分がこれから何をするべきかを問う。そんなレナの反応にマドウは少し驚くが、物分かりのいい彼に感謝しながらマドウはシデの方に視線を向ける。



「この決闘は魔法学園の存続にも関わる重要な試合となる……負けるわけにはいかん」

「という事は……」

「全力で戦って構わん。必要な武器があるというのであれば用意しよう」



マドウの言葉を聞いてレナはシデの方に振り返ると、彼はすぐにでも戦える準備は整ったのか、杖を握り締めた状態で笑みを浮かべていた。


自分の相手が砲撃魔法を行えない「付与魔術師」である事を知ったらしく、距離を取った戦闘ならば自分が負けることはない確信しているのだろう。



「……本当に全力で戦っていいんですね?」

「ああ、構わん。パーティー会場に集まった者達に魔法学園の生徒の優秀さを知らしめねばならんからな」



シデのにやけ顔を見てレナは苛立ちを抱き、念のためにマドウに再度確認を行う。マドウから全力で戦う許可を得るとレナは頷き、武器は必要ない事を告げる。



「分かりました。じゃあ、すぐに始めてください」

「む?武器は必要ないのか?闘拳や籠手ぐらいならばすぐに用意出来るが……」

「必要ありません、すぐに終わらせますから」

「ふむ……分かった、頼りにしているぞ」



マドウはレナの自信に満ちた言葉を信用し、互いの準備を整ったことを確認するとジに振り返って呼びかけた。



「ジオ将軍!!やはり立会人は王子に任せてもよろしいか?」

「私が……?大魔導士が行うのではないのですか?」

「よくよく考えたら、儂が立会人を勤めたら教え子であるレナを贔屓するのではないかと考える者もいるかもしれませんからな。その点ならばジオ将軍、普段から品行方正を心掛ける貴殿ならば不正は行わないと皆が信じられる」

「なるほど……そういう事ならば引き受けましょう」



呼び出されたジオはマドウの提案を承諾し、彼の代理として立会人を引き受けた。将軍であるジオが決闘の立会人を申し出た事でますます周囲の人々は興味を示し、大勢の注目を浴びながらレナはシデと向かい合う。


魔術師と戦う事は初めてではないレナだが、これまでに魔術師と戦った単独で勝利した経験は非常に少ない。しかも相手はまがりなりにもこの国の二番目に立つ優秀な魔術師の直弟子となると油断はできない相手である。


しかし、レナの方も魔法学園に訪れたばかりの頃と比べると確実に腕を上げており、マドウに宣告した通りに一瞬で勝負を決める覚悟を抱く。

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