第203話 パーティーの余興

「サブ、戻っていたか」

「ほほっ、大魔導士お久しぶりですな。本日、弟子たちと共に遠征から戻って参りましたぞ」

「うむ、ご苦労であった。任務の報告は後で良い、それよりも何やら面白い事になっているようだが……」

「こ、これは大魔導士……私はサブ魔導士の弟子のシデと申します!!」



マドウが現れると先ほどまでの態度はどうしたのか顔色を青く染めてサブの弟子は跪き、ここで初めてレナは男の名前を知る。シデと名乗る魔術師は身体を震わせながらもマドウを見上げ、先ほどの話を伺う。



「あ、あの大魔導士、先ほど俺……いや、私とこの男の決闘の立会人を引き受けるという言葉は本当なのでしょうか?」

「うむ、この儂自らが立会人となろう」

「しかし、大魔導士。決闘と申しましてもうちの馬鹿弟子が勝手に騒ぎ立てただけのこと。そもそもこちらの若者は決闘を承諾しておりませんがな。この度の件は我が馬鹿弟子の不始末、責任は儂が取ります」



立会人を引き受けることを告げたマドウだが、サブがそれ以前に決闘は成立していない事を告げる。自分の弟子の不始末を自分の師匠にさせる事は流石のサブも恥ずかしいらしく、申し訳ない表情を浮かべてシデの頭を掴んで無理やりに下げさせる。


だが、マドウの方は決闘に関して取り下げるつもりはないらしく、レナとシデの顔を交互に見た後、決闘内容の訂正を行う。



「いや、別に決闘でなくてもよいのだ。試合や立ち合いという形でも構わない、この際に確かめたい事があるのだ」

「確かめたい事、ですか?」

「そうだ。ここに彼等は我が魔法学園の生徒達……つまり、儂の教え子たちだ」



マドウはレナ達に振り返り、皆の前で魔法学園に通う生徒だと告げる。周囲の人々は驚いた表情を浮かべ、パーティー会場に魔法学園の生徒が参加していた事を初めて知る人間も居た。


レナ達の紹介を終えたマドウはサブとシデに視線を向け、この機会に自分の教え子たちがどれほど成長したのかを他の人間に見せつけるいい機会だと判断し、提案を行う。



「皆の者、どうだろうか?ここでアルト王子の誕生パーティーの余興として魔術師同士の戦闘を見て見たくはないか?騎士同士の決闘は見慣れているだろうが、魔術師同士の戦闘は滅多に行われないからのう」

「それは……確かに」

「魔術師同士だけの戦闘など、戦場でも滅多にありませんからな」



魔術師が戦場において最も真価を発揮する存在だが、実際の所は魔術師同士が戦闘を行う機会は非常に少ない。基本的には前衛の援護がある上で魔法の力を最大限に発揮する魔術師だが、前衛が存在しない条件の戦闘の場合、分かりやすく言えば誰も守ってくれる存在がいない状態で魔術師同士が戦うなど滅多にない。


魔法学園においては騎士科の生徒はお互いの武芸を競うために頻繁に生徒同士や教師を相手に組手を行う。しかし、魔法科の生徒は使用する魔法の威力が高すぎて基本的には対人戦の訓練の際は細心の注意を払い、生徒同士で戦う事はない。魔法はあまりにも強すぎる力を持つため、訓練であろうと命を落としかねない危険性がある。



「折角のアルト王子の誕生パーティーというのに余興がないのは少々つまらないだろう。という事で、ここは我が教え子のレナとサブ魔導士の弟子の競い合いを兼ねた手合わせを行うのはどうだろうか?」

「おおっ……大魔導士と魔導士の教え子同士の対戦というわけですか」

「それは確かに気になりますな!!」

「面白そうだ、ぜひ拝見したい!!」



滅多に診れない魔術師同士の戦闘、さらにこの国を代表する優秀な二人の魔術師の教え子同士が戦うという言葉にパーティー会場に集まった貴族達は大きな興味を示す。だが、その提案に対して異議を申し立てる者が居た。その人物は今回のパーティーの主賓であるアルトだった。


騒動を知って慌てた様子でアルトは駆け寄ると、レナとシデの顔を見て眉をしかめ、マドウの提案をはっきりと拒否する。折角のパーティーなのに客人同士の決闘など見過ごせるはずがない。



「マドウ大魔導士、そこにいるのは僕の学友です!!僕の誕生パーティーのために友人に危険な試合をさせる事など出来ません!!」

「おお、これはアルト王子様。そちらにおられましたか」

「大魔導士、お戯れはお辞めください!!こんな事で御二人の大切な教え子を傷つけるような真似はよしてください!!」

「ふむ、つまりアルト王子は二人の試合に反対すると?」

「たかが余興のために人が傷つくような行為は認められません!!ましてや、僕の誕生パーティーで誰かが血を流すなど看過できません!!」



アルトは自分の誕生パーティーのせいで他人が怪我を負うような事態を避けるために断固反対するが、そんな彼に大魔導士は表情を一変させ、口調を変えて叱りつける。



「それは出来ぬぞアルトよ」

「なっ……」

「この度の二人の試合はただの余興だ。しかし、儂としてもふざけて立会人を立候補したわけではない。この機会に我が魔法学園の生徒がどれほどの力を持つ生徒が存在するのかを知らしめる良い機会なのだ」

「ほほう……なるほど、そういう事でしたか。ならばこちらも断れませんな、アルト王子、どうか我が不肖の弟子とマドウ大魔導士の教え子との立ち合いを認めて下され」



マドウの言葉にサブは納得した様に頷き、マドウの意図に気付いたサブも改めてアルト王子に二人の立会を願う。

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