第199話 目的を果たした後は?

「それは、そうよね。ごめんなさい、こちらが悪かったわ」

「ふむ、気概は一流の冒険者だな」

『じゃあ、そろそろ行こうぜ団長。じゃあな、坊主。もしも金色の隼に入りたくなったら俺達の拠点に来いよ、最初は雑用係として雇ってもいいぜ』

「はあ……そうですか」



ルイ達は立ち去ると、その様子を見送るとドリスはうっとりとした表情を浮かべてルイの事を見つめる。どうやら彼女はルイのような女性に憧れているらしい。



「ああ、やはり格好いいですわ……ルイ団長、噂通りにお綺麗な方でしたわね」

「うむ、彼等は立派な冒険者達だ。我が国のために尽くしてくれている、正直に言えば部下として欲しいくらいだ」

「あの人達、すっごく強いと思うよ……肌がぴりぴりしたから」

「同意」

「僕も……い、いや、私もそう思います」



ドリスはルイに見惚れ、ジオは誇らしげに頷き、一方でミナ、シノ、ナノの3人は緊張した面持ちで彼等を見つめる。普通に話しているだけでも彼等の放つ覇気に気圧され、レナの方も無意識に自分が両手を強く握りしめている事に気付く。


金色の隼の面子はそれぞれがパーティーに訪れた貴族や将軍と談笑を行い、特にルイの元には人が集まっていた。パーティーにも関わらずに甲冑で全身を覆った男性、体躯が3メートルを超える大男よりも話しかけられやすいのは仕方がないが。



「あれが黄金級の冒険者か……レナ君もいつかはああいう人たちのようになるのかな?」

「どうだろう……階級に関しては別に興味ないかな」

「おいおい、何を言ってるんだ。冒険者ならやっぱり黄金級を目指すもんじゃないのか?」

「そういわれても……」



ダリルに促されてもレナはこれ以上の階級の昇格に関してはあまり関心を持てず、階級が昇格すれば冒険者としての格が上がり、好待遇を受ける事は間違いない。だが、レナが冒険者を目指したのはあくまでも実力を身に着けるためであり、自分が強くなる手段でしかない。


レナの目的は故郷を取り返す事であって冒険者の職業を極める事ではない。なのでこれ以上の階級の昇格や他の冒険者集団に入るつもりはないが、実力はあるのに上を目指そうとしないレナに他の人間がじれったく思う。



「レナ、お前の考えている事はだいたいは予想できるが、お前は自分の目的を果たした後の事は考えているのか?」

「目的を、果たした後?」

「そうだ。お前は目的のために冒険者になった、それは間違いないだろう。だが、」その目的を果たした後はどうするつもりだ?冒険者を辞めるのか?」

「……考えた事もないです」



ダリルに指摘されてレナは自分が目的を果たした後に何をするべきか思いつかず、故郷を取り返した後に自分はどうするべきか分からなかった。今までは目的を果たすために冒険者家業を頑張って来たが、その後の事は何も考えていない事に気付く。


目的を果たす前に、目的を達成した後の事を考えるという発想にレナは思い至らず、言われてみれば自分は故郷を取り戻した後はどうすればいいのか皆目見当がつかなかった。村を発展させるにしても生き残りはレナしかおらず、そもそもレナの村は人間が暮らすには過酷な環境である。


他人に指摘されてレナはやっと自分が目的の果たした後に何をすればいいのか考えていない事に気付かされ、本気で思い悩む。だが、考えても考えても良案は思いつかず、一先ずは目的を果たす事だけに集中する事にした。



「……そういうのは全部が終わった後に考えます」

「そうか……まあ、お前がそういうのなら仕方ないがな、もしも目的を果たした後に何も思いつかなかったら、俺の所に戻って来い。また、昔のように一緒に暮らそう。なんなら商人でもやってみるか?お前は要領がいいからな、その気があるなら俺の商会を継いでみるか?」

「商人か……」



自分が冒険者以外の職に就くなど想像できないレナだが、昔のようにダリルと暮らし、他の友達も大勢いる王都で平和に過ごすというのも悪くはないように思えた。だが、一方で自分を救ってくれたバルやキニクや自分の所属する冒険者ギルドの受付嬢のイリナが住んでいる街に戻りたいという気持ちもある。


まだ目的も果たしていないのに色々と考え込む自分にレナは困り果て、一方で悪い気分はしなかった。少し前までは故郷を奪った魔物達の復讐に囚われていた気がするが、今のレナは復讐だけには拘らず、肩の力を抜いて他の事も考えられる余裕はできた。



(故郷は必ず取り戻す……だけど、焦っても仕方ないか)



一刻も早く故郷を取り戻したいという気持ちは忘れていないが、これまでのように無我夢中に復讐を果たすためだけに行動するのではなく、焦らずじっくりと実力を身に着けて確実に故郷を取り戻す事をレナは心に誓う。




その後、ジオ将軍は他の者に挨拶するという理由でミナを置いて立ち去り、ダリルやドリスも他の貴族に自分の商会の名前を売っておくという事でその場を離れると、レナはミナたちと共に雑談を行う。


折角パーティーに訪れたのだから他の人間と交流するべきかとも考えたが、どうも貴族が相手だと話しかけにくく、一般人であるレナ達では話題が合わない気がして話しかけることが出来なかった。

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