第198話 金色の隼
「しかし、本当にまだ子供じゃないか……こんな子供があのゴーレムを何十体と倒し、ミスリル鉱石を回収しているとは信じがたい」
『確かにな』
「こら、ダンゾウ、カツ!!人を見た目で判断するんじゃないの!!」
「別にいいですよ。よく言われますから」
初対面の人間はレナが大迷宮へ毎日のように挑み、大量のゴーレムを駆逐してミスリル鉱石を入手しているという話を信じられずに疑う人間は多い。
最初の頃はカーネが派遣した冒険者達も本当にレナがゴーレムを相手に戦えるのか不安を抱いていたが、実際の戦闘でゴーレムを圧倒するレナを見て信じざるを得なかった。
金色の隼の面子もレナの背格好を見て普通の少年にしか見えないので疑われるのも仕方ないが、ルイだけは謝罪を行う。
「ごめんなさい、うちの野蛮人どもはどうも口が悪くて……貴方の話は手紙を通してマドウさんから聞いているの。もしもよかったら、一緒に今度共に大迷宮に挑んでみないかしら?」
「大迷宮へ?」
「ええ、貴方の挑んでいる「荒野」ではなく「煉瓦」の大迷宮へ近々私達は挑むつもりなの」
「煉瓦!?大迷宮の中でも最も危険度が高い魔物や罠が設置されている迷路の事だよレナ君!!」
ルイの言葉にミナが驚き、レナも噂だけはよく耳にしていた。王都に存在する3つの大迷宮の出入口は「草原」「荒野」「煉瓦」と呼ばれている。草原と荒野は名前の通りに広大な草原や荒野が広がる大迷宮に繋がるが、煉瓦に関しては全体が煉瓦で構成された迷宮になっている。
レナは荒野の大迷宮にしか挑んだ事はないが、草原の大迷宮では大量のゴブリンやホブゴブリンが生息し、お馴染みの荒野はオーク、ボア、ゴーレムの三種類の魔物が生息しているのに対して、煉瓦の大迷宮には様々な種類の魔物が出現するという。中にはゴーレムを上回る危険度の魔物も生息していると噂されていた。
「私達は国からの依頼で煉瓦に挑み、素材を提供する代わりに金色の隼の団員全員に黄金級の資格を与えられているの。そして現在、金色の隼は団員を募集中しているの」
「そ、それは本当ですの!?」
「団員を募集中……という事は、まさかうちのレナも!?」
金色の隼がレナに声を掛けたのは団員に引き入れるつもりなのかとダリルは驚き、もしもレナが団員になったとしたら黄金級冒険者の資格を得られる。何よりも王都どころかヒトノ国の冒険者の中でもトップクラスを誇る人気と実力を持つ冒険者集団の仲間入りを果たす事になる。
しかし、ダリルの期待とは裏腹にルイは苦笑いを行いながら今回自分達がレナに話しかけたのは団員としての勧誘ではなく、王都で噂になっている冒険者の確認のために訪れた事を告げた。
「ごめんなさい、期待させるような言い方をしてしまったのかもしれないけど、私達がレナ君に話しかけたのは噂の人物がどのような子なのか気になっただけなの。だから、団員の勧誘というわけではないわ」
『悪いな坊主、期待させたか?』
「いえ、別に……むしろ勧誘されていた方が困りました。俺は何処にも所属する予定はないので」
「ほう、単独(ソロ)で行動を続けるという事か。それも冒険者の在り方だな」
レナは魔法学園に通っており、それでいながらダリル商会の手伝いや冒険者家業と忙しく、今の時期は他の冒険者集団に加わる余裕はなかった。話を聞く限りでは金色の隼はヒトノ国からも頼られている程の冒険者らしく、かなり忙しそうな団体に見えた。
これ以上に他の事に時間をさけられないレナは仮に金色の隼から勧誘されても断る事に変わりはなく、むしろ勧誘のために話しかけてきたのではないと知って安心する。しかし、ルイ達はそんなレナの態度を見て逆に興味を抱く。
『なあ、坊主?お前さんが付与魔術師というのは本当か?』
「はい、そうです」
「何?あの不遇職の魔術師か……いや、すまない」
付与魔術師を不遇職と言われた事にレナよりも先にミナやダリルが睨みつけ、シノやドリスやナノも表情を険しくさせる。
レナの事を知っている人間だからこそ彼が不遇職扱いされるのは気に入らず、そんな彼等の反応を見てダンゾウは謝罪を行う。
「付与魔術師……確か、物体に魔法の力を付与させる魔法を使えると聞いているけれど、貴方の魔法はどんなことが出来るのかしら?」
「すいませんけど、自分の魔法の秘密を同業者が相手だとしても教える事は出来ません」
ルイの質問にレナはきっぱりと自分の能力を明かすつもりはない事を伝え、冒険者になった時にバルやキニクから自分の能力を無暗に他人に教えないようにと注意されていた。だから例え、相手が格上の冒険者であろうとレナは能力の秘密を明かす事ははっきりと拒否した。
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