第196話 アルト王子の誕生会

「君の噂はよく耳にしているよ。卒業後は是非、うちの部隊に欲しいくらいだが……そういえば君は卒業後の進路はどう考えている?あと、半年ほどで卒業資格を貰えるのだろう?」

「卒業後、ですか……とりあえずは実家に戻って家族に会いに行こうと思っています」

「そうか、それもそうだな。報告は大事だからな」



魔法学園は成人年齢を迎えると「卒業資格」を与えられ、自由に学園を離れる権利を与えられる。最も卒業資格を得た後も魔法学園に通う事は許されており、最長で「18才」になるまでは生徒は魔法学園に通う事が出来た。


成人年齢に満たない人間には卒業資格を与えられず、最低でもレナはあと半年は魔法学園に通い続けなければならない。


15才を迎えればレナも立派な成人となり、冒険者の資格も取り戻す(最も現在はマドウに頼まれて盗賊ギルドと「七影」の件が片付くまでは戻れないが)。



「そういえば君の連れてきた子達も魔法学園の生徒だね、たしかシノ君とドリス君だったね」

「えっ!?私達の事を知っているんですの!?」

「……驚いた」

「当然さ、先日の対抗戦の映像は魔法学園だけではなく、王城の方でも流れていたからね。君たちの活躍はよく知っているよ」



どうやら対抗戦の内容もジオは知っていたらしく、彼によると自分だけではなく王城に常務する兵士達や他の将軍も観察していたという。魔法職と戦闘職の人間同士が戦う映像がこちらにも流れていたという。


まさか対抗戦の試合があの場に存在した観客(生徒と教師)だけではなく、王城に勤務する将軍や兵士にも見られていた事を知ってレナは驚くが、ジオは少し残念そうな表情を浮かべた。



「だが、残念ながらレナ君の試合の戦闘は殆ど見れなかったのが残念だ。娘から話は聞いているが、あの第一将軍を相手に毎日のように訓練を受けていると聞いて楽しみにしてたんだが……」

「第一将軍?それって、ゴロウ先生の事ですか?」

「ああ、知らなかったのかい?」



ゴロウが第一将軍だと知ってレナは驚き、彼がこの国で大将軍の次に偉い立場の将軍である事を初めて知る。そんな人間を騎士科の入学希望者の面接官を任せる辺り、マドウがどれほど魔法学園の重要視していることが伺えた。


しばらくの間はジオと雑談を行い、魔法学園の話題からレナがどのような魔法を扱うのかをジオが尋ねようとした時、とある人物が近づいてきた。



「おお、そこにいるのはジオ将軍ではないですか!!このような宴の席でお会いするのは初めてですかな?」

「……これはカーネ会長、久しぶりだな」

「カーネ……!!」



どうやらパーティーにはカーネも呼び出されていたらしく、彼はレナがジオの傍に居る事に気付くと馴れ馴れしく肩に手を伸ばす。



「どうやらうちの商会の稼ぎ頭の冒険者と話は済んだようですな。いやいや、彼は優秀な冒険者でしてね、お陰でうちは大儲けですよ」

「おい、それは聞き捨てならないな。いつからうちのレナはお前の所の冒険者になった」



まるでレナを自分の商会の専属冒険者のように語るカーネにダリルは黙っていられずに口を挟む。するとカーネはやっとダリルに気付いた様に驚いた表情を浮かべ、不機嫌そうな表情を浮かべる。



「……ふん、どうしてお前の様な田舎商会の会長がこの宴に出席している?正式に招待状を受け取ったのか?大方、誰かの付き添いでやってきたのだろう」

「何だと……!!」

「ダリル殿、落ち着け。カーネ会長、貴方もこのような宴の席で騒ぎを起こす様な真似はするな」

「心外ですな、私は事実を申したまでの事……ささ、レナ君。君には色々と紹介しておきたい人がいる。このような田舎者どもと話す時間はない、付いてくるんだ」

「えっ……」

「ちょ、ちょっと!!レナ君を何処へ連れて行く気ですか!?」



カーネはレナの腕を掴み、無理やりに連れて行こうとするのをミナが慌てて引き止めるが、そんな彼女に対してカーネは面倒そうに相手をしようとした時に別の人物が話しかける。



「カーネ会長、悪いがそこにいるレナ君は僕と先約があるんだ。悪いが、手を離してくれないか?」

「何だと……あ、アルト王子!?いつからこちらに!?」

「アルト王子だ!!」

「王子様が現れたぞ!!」



パーティの主役であるアルトが現れると、彼は自然な動作でレナの手を掴むカーネを引き剥がす。そして周囲の者達はアルトの姿を見て拍手を行い、そんな彼等にアルトは少し照れ臭そうな表情を浮かべた。


流石のカーネも王子であるアルトが相手では分が悪く、慌てて頭を下げて距離を開く。その様子を見てアルトはため息を吐き出し、腕を上げて周囲の人間に話しかける。



「皆様、本日は僕の誕生会のためにお越しくださりありがとうございます。今宵は父上は体調を崩されて参加できないのは残念ですが、その代わりに多忙であるマドウ大魔導士も来られています」

「大魔導士様が!?」

「宴の席に出るとは珍しいな……」

「これは楽しみだ、将軍だけではなく大魔導士様も来られるとは……」



アルトの言葉にパーティーに集まった人々は騒ぎ始め、余程マドウが宴の席に現れる事が珍しいらしく、動揺する人間も多かった。その中でマドウという言葉を聞いたカーネは笑みを浮かべ、アルトに頭を下げてその場を引きさがった。

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