第194話 共感

「仮に私が得意とする「火球」という火属性の初級魔法を普通の魔術師の方が使ったとしても、せいぜいマッチの火程度の威力しか引き出せません。ですけど、試合での私が扱った火球の魔法の威力をご存じですか?」

「あ、はい。映像で見てたけど、凄い威力でしたね」

「そうです!!私の初級魔術師は初級魔法のみに特化した魔法使い……例え、世間では日常生活の足しにしなかならないだと馬鹿にされている魔法だとしても、究極的に極めれば戦闘でも役立ちますわ」



普通の魔術師と違い、初級魔術師は初級魔法のみしか扱えない。だが、その反面に初級魔法だけに特化した職業のため、本来は戦闘に不向きだと思われる初級魔法であろうと極めれば大きな力になる。


実際に試合で披露したドリスの「火球」の魔法は素晴らしく、岩石さえも吹き飛ばす火力と爆発力を誇り、その威力は決して砲撃魔導士の「砲撃魔法」にも劣らない。


むしろ彼女の場合は瞬時に複数の火球を生み出せる辺り、砲撃魔法よりも応用性が高く、場合によっては罠としても利用する事ができた。そう考えるとレナの付与魔術師と同様に大きな可能性を秘めている称号である。



「レナさんも付与魔術師であるならば私の気持ちも理解できるのではないですか?私達の魔法は世間ではあまり知られず、魔術師の間では軽視されています。しかし、一件は役に立たないと思われる魔法だろうと、極めれば凄まじい性能を誇る魔法に進化させることが出来る。そう信じて私は初級魔法を極めてきました」

「ああ、凄く分かりますそれ……俺も同じ気持ちです」

「分かってくれますか!!」

「はい!!分かります!!」

「おおう……」



同じ悩みを持つ者同士、レナとドリスはお互いの心境を察して共感し、無意識に握手を行う。お互いに扱える砲撃魔法が扱えず、それでも諦めずに努力して自分の魔法を極めようとしている辺り、二人は似た者同士かもしれない。


瞬く間に打ち解けた二人にシノのが珍しく戸惑い、一方で彼女と打ち解けたレナはドリスの元に訪れた要件を思い出し、話を本題に戻す。



「それじゃあ、ドリスさんもパーティーに参加して貰えるかな?」

「もちろん構いませんわ!!王族の主催するパーティーに参加できるなんて夢のようですわ。あ、でも確かまだ1人分の枠が余っていると言いましたよね?」

「あ、はい。誰か他に誘いたい人が居るならドリスさんに任せますけど……」

「本当ですの?何から何まで至れり尽くせりで悪い気がしますが、実を言うと最近に友達になった子を誘いたいのですけれど……構いませんか?」

「全然構いませんよ」



ドリスは自分だけではなく、友人を誘いたいという言葉にレナは反対する必要もないので承諾した――






――それから時が経過し、遂にアルト王子の誕生パーティーの日を迎えたレナはダリルと共に正装へと着替えると屋敷の前で他に誘った者達を待ち構える。シノは既に着替えて待機しており、ミナの場合は先に家族と共にパーティー会場へ向かっているので後はドリスと彼女の友人を待つだけであった。



「ふうっ……まさか、こんな俺が王族の誕生パーティーに立ち会えるなんてな。やばい、緊張して腹が痛くなってきた……」

「ダリルさんは貴族とかのパーティーとかに出席した事はないんですか?」

「取引先の貴族に招待された事はあるが、俺の相手をしてくれたのは辺境の田舎貴族だけだからな……しかも貴族と言っても名ばかりで、実際の所は一般人よりせいぜい金持ちの相手だけだ」



ダリルはこれから王族と会う事に非常に緊張し、何度も出発前に髪の毛を整えたり、忙しなく手鏡を確認して自分に変なところがないのかを確認する。一方でレナの方も始めてパーティーというのに参加するので若干緊張気味だった。


一応は服装を整え、失礼のないように身だしなみも気を付けているが、王城で開かれるパーティーに参加する日が訪れるなど夢にも思わなかった。緊張をするなというのが無理な話であり、王城に辿り着くまでの間は他の人間と会話に集中して緊張を解そうとする。



「ふうっ……俺もドキドキしてきた」

「私はあんまり……こういうパーティーはよく立ち合っている」

「え?そうなの?ちょっと意外だな……」

「正確にはちゃんとした客として立ち合うのは初めて、普段の時は護衛役として同行する機会が多かった」

「ああ、なるほど。納得した」



シノの場合は護衛役として何度か貴族の主催するパーティーに参加しているらしく、あまり緊張している様子は見られなかった。


そしてレナ達が雑談を行っている間にダリル商会の前に馬車が止まり、ドレスを身に纏ったドリスが姿を現す。



「御機嫌よう、レナ様!!それに我が親友のシノさん、それと初めましてですわ、そちらの方がダリル商会の会長のダリル様でよろしいですか?」

「うわ、何だ!?レナ、お前シノだけじゃなくてこんな綺麗な子も誘っていたのか?」

「ダリルさん、この子が前に俺に魔銃を売ってくれた男の人の娘さんですよ」

「その節はお父様が世話になりました。それと我が家に伝わる家宝を大切にしてくれているようでありがとうございます」

「ああ……そういえば言っていたな。なるほど、あの時の男の娘さんか。全然似てねえな……」



レナの言葉を聞いて魔銃を売った男性の事を思い出したダリルは驚いた表情を浮かべ、父親と娘が全く似ていないので親子だと気付く事は出来なかった。

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