第193話 初級魔法しか扱えない魔術師
「というか、ドリスさんは貴族じゃないんですか?確か、今回のパーティーは貴族の人なら殆ど呼び出されているんじゃ……」
「私、何故か誤解される事が多いんですけど別に貴族じゃありませんわよ?」
「あれ、そうなんですか!?」
外見が煌びやかで口調もお嬢様っぽいので誤解されがちではあるが、ドリスは貴族ではなく商家の娘だという。本人もよく他人から勘違いされるらしく、不思議そうに首を傾げていた。
「私の家系は代々魔道具を販売している家柄でしたわ。ですが、お父様が不倫して家宝だった魔道具を売り払い、そのまま逃げてしまったので現在はお母様が経営していますわ」
「あれ!?その話、最近何処かで聞いたような……もしかして、その家宝って」
「ええ、レナさんが持っている魔銃の事ですわね」
「おおっ……凄い偶然」
どうやら以前にダリル商会へ訪れて家宝の魔銃を売却した男性がドリスの父親だったらしく、レナは知らなかったがドリスによると父親はあの後に家族の元に戻り、現在は再構築中だという。
ドリスの父親のショウという男性は魔銃を売却に来た時は慰謝料を稼ぐために必死だったそうだが、結局は必死にドリスの母親に謝罪して離婚だけは回避したらしい。
「お母様は不倫したお父様を許さず、それでも見捨てられないので現在は店の下っ端として働かせていますわ。ああ、それと家宝の魔銃の件は気にしないでください。家宝といっても、私達では扱いきれない代物のようですし、遠慮なく受け取ってください」
「あ、あの人捨てられてなかったのか……ちょっと安心した」
「ちなみにドリスの店は魔道具を取り扱っている」
「といってもうちの店が取り扱う魔道具は一般庶民用で冒険者の方が使用する戦闘用の道具はあまり取り揃えてはいませんが……」
ドリスの家は「魔道具店」を経営しており、基本的に日用生活に役立つ魔道具を販売して経営を行っているという。水属性や火属性の魔石を利用して水や火を生み出したり、雷属性の魔石を利用して防犯用の道具なども作り出しているらしい。
彼女の家はカーネ商会の傘下ではなく、ダリル商会と同じく何処の商会にも属していない。だが、ドリスの家はマドウと親戚関係にあるらしく、カーネ商会も迂闊な対応は出来ずに見逃していた。
「ちなみに私が魔法学園へ入ったのはマドウ学園長からのお声が掛けられましたの。マドウ学園長と私の家は親戚関係に当たり、小さい頃からよく面倒を見てくれましたの」
「へえ、そうだったんですか……」
「子供の頃にマドウ学園長が魔法を使う場面を見て、見様見真似でやってみたら覚える事が出来ましたわ。ちなみに私の称号は普通の「砲撃魔術師」ではなく、ちょっと特別な称号でしてよ」
「特別な?」
「そう、その名も「初級魔術師」ですわ!!」
――しばらくの沈黙の後、レナはドリスの言葉を聞いて首を傾げ、あまり聞きなれない魔術師の称号なのでどのような魔法が扱える魔術師なのかを尋ねる。
「その、初級魔術師というのはどういう称号なんですか?」
「よくぞ聞いてくれました!!その前に軽く説明しますが、レナさんは初級魔法の事をご存じですの?」
「はい、冒険者になったばかりの頃に治癒魔導士の人に教えて貰いました」
まだ冒険者になりたての頃、レナはアイリという治癒魔導士から教わったことを思い出す。
『レナさんは初級魔法は使った事はありますか?いや、使えますか?』
『初級魔法?』
『簡単に言えば魔術師の系統の称号を持つ人間が共有して扱える魔法の事です。基本的には回復魔法しか扱えない私でも扱う事ができる魔法です。まあ、初級という文字が付いている時点でお察しするかもしれませんが、攻撃能力は期待できない魔法なんですけどね』
初級魔法とは「砲撃魔導士」「治癒魔導士」「召喚魔術師」「付与魔術師」などといったどの系統の魔術師の称号でも扱える魔法であり、場合によっては魔力を持つ人間ならば魔術師以外の称号を持つ者でも扱える魔法である。但し、初級という名前が付けられている時点で性能はそれほど高くはない。
ちなみにアイリが扱える初級魔法は「光球」と呼ばれ、この魔法は使用すると文字通りに光の球体が出現して周囲を照らすという程度の効果しかない。しかも光の強さは本人の魔力の性質に関係なく一定であり、効果時間も数分程度しかない。光量も蛍の放つ光より少し強い程度だった。
『土属性の初級魔法はどんなのですか?』
『土属性はですね……あれ、そういえば土属性の初級魔法なんてありましたっけ?確か、名前は忘れましたが地面を操作する魔法だったような……』
『それ、普通に俺の付与魔法と何も変わりないんじゃ……』
最も初級魔法を教えてくれたアイリも土属性の初級魔法に関してはよく分かっておらず、そもそも土属性の使い手が少ないので一般には知られていなかった。
試しにレナはアイリの光球の魔法を試してみたが、結局は発動させる事は出来なかった。初級魔法といえども、魔法の適性が存在しなければ魔法を扱えないという法則に変わりはない。
そんな付与魔法よりも地味でぱっとしない初級魔法ではあるが、ドリスによると彼女の「初級魔術師」が扱う場合は凄まじい性能を誇る魔法へ生まれ変わるという。
※ムノーが使用した「ファイアボール」は砲撃魔法の一種で初級魔法ではありません。
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