第191話 ナオの正体

「ぐはぁっ!?」

「あ、起きた……大丈夫?」

「い、いったい何が……!?」



目を覚ましたナオは自分の身に何が起きたのかを理解できずに混乱するが、すぐに倒れている自分とそれを見降ろしているレナ達に気付き、状況を理解した。



「……そうか、僕は負けたんですね」

「そんなに落ち込むことないって、格闘家の兄ちゃんも中々粘ったぞ」

「状況はよく知らないけど、多分よく頑張ったと思う」

「あの、そちらの女性は……?」



初めて顔を見るシノにナオは不思議そうな表情を浮かべ、彼女の説明をレナが行う前に適当にコネコが先に紹介を行う。



「こっちの姉ちゃんもあたし達と同じ魔法学園の生徒だよ。シノという名前で忍者の称号を持っているんだけど、兄ちゃんと一緒であんまり学校に顔を出さない不良生徒だ」

「失礼な、学校にはちゃんと出てる。だけど、忍者の癖で存在感を消していて他の人に気付かれなかっただけ」

「それはそれで問題あるんじゃね?」

「そ、そうですか……なるほど、貴女が僕を起こしたんですか」



鼻を抑えながらもナオはお礼を言うと、自分が負けたことを自覚して溜息を吐き出す。まさか自分が素手で、しかも格闘家でもない人間に負けるなど想像もしなかった。しかも相手が魔術師という事実に更に少々落ち込む。


それでも素直に自分が負けたことを認め、レナを見上げると悪手を求めた。レナは握手を行うとついでに彼女の身体を引き寄せて立ち上がらせる。



「完敗です、今までの無礼をお許しください。噂通り、魔法学園最強の生徒の拳を肌に触れて満足しました」

「別に魔法学園の最強になんてなったつもりはないけど……大丈夫?怪我してない?」

「はい……格闘家は普通の人間よりも回復力が高いので平気です」



派手に吹き飛ばされたナオではあるが、大怪我はおっておらず、何事もなかったように立ち上がる。戦闘職の人間は一般人よりも身体が丈夫で回復力も高く、気絶するほどの衝撃を受けながらも普通に動ける程に回復していた。


しかし、それでも攻撃を受けた際に胸元でも痛めたのか胸を抑え、苦しそうな表情を浮かべる。その様子を見てレナは心配して気遣う。



「うっ……」

「大丈夫?やっぱり、怪我をしてるんじゃ……」

「触らないで!!」



レナが心配してナオの肩に手を伸ばそうとした時、彼は反射的に腕を振り払う。その反応に全員が驚くが、ナオは自分の行為に慌てて謝罪を行う。



「す、すいません……これで、失礼します。お手合わせ、ありがとうございました」

「あ、うん……気を付けてね」

「……行っちゃったな」

「…………」



そそくさと立ち去ったナオを見てレナ達は見送ることしか出来ず、去り際の彼を見てシノだけは何かに気付いたような表情を浮かべる――




――レナ達から離れたナオは路地裏に移動すると、胸元から手を離して荒い息を吐き出す。先ほどは強がってはいたが、やはりレナとの戦闘の負傷は大きく、上着を脱いで胸元の様子を確認する。



「……強かった」



自分の「サラシ」を撒いた胸元を見てナオは悔し涙を流し、同世代の人間に負ける事など今までなかっただけに悔しさは倍増した。しかし、涙を振り払うとナオは頬を叩き、気を引き締め治す。



「けど、次こそは負けない……そのためにはもっと強くならないと」



ナオは敗北を悔しく思う一方、同時に「目標」が出来た事に嬉しく思う。魔法学園に入学した理由は両親から勧められたからに過ぎなかったが、同世代の優れた人材が集まると聞いてナオは興味を抱く。


しかし、入学して早々にナオは落胆してしまう。確かに騎士科の生徒の中には格闘家の称号を持つ人間も居たが、自分のように幼少期から訓練を受けていた者は少なく、しかも教師でさえもナオの相手にはならなかった。


同じ格闘家の称号を持つ人間の好敵手を探していたナオは、魔法学園の生徒達でさえも自分と匹敵する相手がいない事に落胆する。ならばせめて格闘家以外の職業でもいいので自分と渡り合える相手を探していたら、魔法学園でも有名な「レナ」の存在を知る。


そして今日、レナの居場所を突き止めて試合を申し込み、見事に負けてしまった。彼は格闘家ではないが、戦闘方法に関しては素手を利用しており、とても魔術師とは思えない。それに最後までナオに付き合って遠距離からの攻撃は行わず、素手だけで対処していた。



(手加減されていた……間違いない)



レナがその気になれば自分を近づけさせずに倒す方法はいくらでもあった事はナオも直感的に気付いており、自分は手加減された状態で敗れたことを知る。その事実にナオは悔しく思い、それでも自分よりも圧倒的な強者を見つけ出す事に嬉しく思う。


別にナオは自分こそが最強だとは思っていないが、同世代で格闘技を行う人間の中で自分と同格か、あるいはそれ以上の相手とは巡り合ったことがない。しかし、今日は遂にその相手に相応しい人物を発見し、ナオはやる気を起こす。



「今度は負けませんよ……レナさん」



自分の格上と認めた以上は呼び捨てなど出来ず、ナオは膨らんだ胸元を抑えながらも空を見上げ、いつか必ずレナを超える事を「彼女」は誓う。

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