第190話 付与魔術師の本気

「本気で行くよ……死なないでね」

「何を言って……っ!?」



レナが足を踏み出した瞬間、右足のブーツに付与していた魔力を一気に解放させ、「反発」を発動させる際の衝撃波を生み出して「瞬間加速」を行う。


間接付与を覚えて以降、物体に付与させた魔力も自在に操れるようになり、今までは素手や素足でしか発動できなかった芸当も行えるようになった。


右足のブーツの魔力を解放した事で加速するのと同時に片足の付与魔法の効果は切れてしまうが、それでもナオの目前まで接近する事には成功したレナは拳を突き出す。



「はあっ!!」

「ぐうっ!?」

「すげぇっ!!受け止めた!?」



突き出された拳に対してナオは両手でレナの闘拳を受け止め、抑えつけようとした。強烈な打撃の衝撃にナオは顔をゆがめるがどうにか耐えきり、それを確認したレナは左足の魔力を利用して再び後方へ飛ぶ。


左足を地面に踏み込んだ瞬間に先ほどのように衝撃波を足の裏から生み出し、退避する事に成功したレナは距離を取る。それを見たナオは両手を痺れさせながら驚いた表情を浮かべ、まるで一流の格闘家の如く素早い動作を行うレナに戸惑う。



(い、今の攻撃……まともに受けていたら終わっていた。これが「学園最強」と謳われる人の攻撃なのか……!!)



冷や汗を流す一方、ナオは高揚感を覚え、先ほどまでのレナの評価を一変させる。ついさっきまでのレナの動作は付与魔法に頼らなかった身体能力にしか過ぎず、正直に言えばナオは落胆していた。しかし、今の付与魔法を纏ったレナの動作はナオを上回る。



(でも、勝機はある!!)



レナの行動は見た限りでは直進的な動きしか出来ず、もう一度無暗に踏み込めば今度はカウンターを喰らわせる自信がナオにはあった。しっかりと地面に足を踏みつけてナオは先ほどの「崩拳」を繰り出す構えを取った。


一方でナオの様子を見たレナは先ほどの攻撃で彼を仕留めきれなかった事に感心し、更に反撃を企てている彼を見て今度は別の手を考える。出来る限りナオに「大怪我」を負わせずに倒す方法を思いつく。



「もう一度、行くよ」

「来いっ!!」



事前に警告を行い、突進を仕掛けてきたレナに対してナオは身構えるが、今度は付与魔法を利用せずに素の状態で駆け出してくるレナにナオは戸惑う。


しかし、油断はせずにナオは迎撃の態勢を整えると、レナは先ほどナオが攻撃を食らわせた時のように跳躍を行い、後ろ回し蹴りを放つ。



「はあっ!!」

「くっ!?」



まさか自分の技が真似されるとは思わなかったナオは咄嗟に片腕で受け止めてしまうが、魔法の力を頼らない攻撃だったのでさほど痛くもなく、地上へ着地したレナもこの程度の攻撃で彼を倒せるとは思っていなかった。


お互いが至近距離に接近したため、ナオは体勢を整えると「崩拳」を放つために拳を突き出し、その一方でレナも左手を構える。



「せいやぁっ!!」

「反発!!」

「うわっ!?」



ナオが突き出した拳に対してレナは掌で受け止めるのと同時に重力の衝撃波を生み出し、攻撃を弾き返す。まさか自分の方がカウンターを喰らった事に驚くナオに対し、残された右手の魔力を利用してレナはナオの胸元に目掛けて掌底を放つ。



「これで、終わりっ!!」

「がはぁっ!?」

「やった!!」



レナの右手が衝突したのと同時に魔力を解放させて強烈な衝撃波が発生し、まともに受けたナオは身体が数メートル吹き飛び、地面に倒れ込む。その様子を見てコネコは感嘆の声を上げ、レナも勝利を確信する。


倒れたナオは動く様子はなく、予想以上に強烈な衝撃だったのか気絶したらしい。そんな彼を見てレナとコネコは慌てて近寄ると、生きている事を確認した。



「大丈夫かよ格闘家の兄ちゃん?」

「う、ぐぅっ……」

「……多分、大丈夫。意識はないけど怪我はしていないみたい」

「それなら良かっ……って、わぁっ!?し、シノの姉ちゃん!?何時から居たんだ!?」



ナオの解放を行おうとする二人の背後に何時の間にかシノが立っており、唐突な彼女の出現にコネコは驚くが、レナはシノにもナオの様子を見せる。



「丁度良かった、シノさん悪いけどこの子を診てもらえない?」

「……気絶しているだけ、私が持っている気付け薬を使えば目を覚ます」

「へえ、シノの姉ちゃんはそんな物まで持ってるのか?まるで薬師みたいだな……」

「忍者はあらゆる状況に備えて様々な技術を身に着けている。変装するときに役立つからコネコも覚える?」

「嫌だよ、面倒くさい……あたしは忍者じゃなくて暗殺者だからいいよ」

「それは残念」



シノはナオの様子を確認すると、懐から小瓶を取り出し、蓋を開く。その途端に強烈な刺激臭が発生し、レナとコネコは鼻を抑える。



「ちょ、何だよその臭いの!?」

「私の家系に伝わる秘伝の気付け薬……これを鼻先に近付けるだけで仮死状態の人間だって目を覚ます」

「そんな物を常備してるのか……ま、まあいいや。じゃあ、俺が抑えるからお願いします」

「了解」



レナはナオの身体を抑えてシノに向けると、彼女が小瓶を鼻先に近付けた瞬間、ナオは目を見開いて飛び起きた。

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