第189話 ナオとの試合
「――という事で俺は騎士科の生徒であっても格闘家じゃないからナオ君と戦う事は出来ないよ。悪いけど、他の人を当たってくれる?」
「いえ……その話を聞いてますます貴方に興味を持ちました」
「え!?なんで!?」
「格闘家でもないのに魔法学園の生徒には一流の格闘家と思われる程の強さを持つ……それを聞けば逆に貴方に強い興味を抱きました。どうか、お手合わせをお願いします!!」
「ええっ……」
事情を全て説明すればナオが納得して諦めてくれると思ったが、レナの予想に反してナオは逆に話を聞いて強い興味を抱いたらしく、手合わせを申し込む。
レナとしては格闘家ではない自分と戦っても意味はないと伝えたかったのだが、話を聞いていたナオからすればむしろ格闘家でもないレナが騎士科の生徒として認められている時点で強い興味を抱き、是非自分と戦って力を確かめたいらしい。
「いいんじゃねえの兄ちゃん?ちゃっちゃっと戦って帰ってもらえばいいんだよ。あ、魔銃を持ってこようか?」
「いや、他人事だと思って簡単に言わないでよ。というか、魔銃は流石に反則でしょ……」
「どうかお願いします!!」
「ちょ、こんな所でそういうの辞めてよ!!分かった、分かったから!!」
頭を下げるだけではなく、その場に跪きそうな勢いで座り込むナオにレナは慌てて引き止め、寝起きで面倒ではあるが仕方なく彼の望み通りに手合わせを行う事にした――
――ダリルの屋敷の前で騒動を起こすと色々と迷惑が掛かるため、レナ達は近くの空き地へと移動を行う。今回は闘拳とブーツだけを着用したレナは軽い準備運動を行い、審判役を務めるコネコと闘拳を装備したナオに向き合う。
「よし、俺は準備できたよ」
「兄ちゃんはこう言ってるけど、そっちのあんたは大丈夫か?」
「問題ありません。さあ、始めましょう」
ナオは身構えるとレナから5メートル程離れた距離に移動を行い、構えを取る。左腕を握り拳のまま前に突き出し、右拳を腰の辺りに構えて向き合う。その様子を見てレナも意識を集中させる。
ここでわざと力を抜いて戦って負けるという手段もあるが、レナも割と負けん気が強く、それに手を抜いて戦うのは相手に失礼だと考えて対抗戦の時のように本気で挑む事にした。ナオも軽く身体を動かして準備運動を行うと、コネコが二人に問う。
「じゃあ、このコインが落ちたら試合開始でいいか?」
「うん、いいよ」
「構いません」
「よし、じゃあ行くぞ!!」
コネコが玩具のコインを取り出すと上に向けて放り投げ、その様子を確認したレナは付与魔法の準備を行う。
そしてコインが地面に落ちた瞬間、レナは付与魔法を両手と両足に発動しようとした瞬間、ナオが勢いよく足を踏み出して距離を詰める。
「せいっ!!」
「うわっ!?」
「早いっ!?」
中国拳法の「崩拳(中段突き)」の如く、距離を一瞬で詰めたナオはレナに右拳を突き出す。咄嗟にレナは右に回避して直撃は避けられたが、突き出された拳から風圧のような物が発生した。
一瞬で距離を詰めて攻撃を仕掛けてきたナオに対してレナは驚愕し、更に彼は続けてレナに上段回し蹴りを放つ。
「はっ!!」
「くっ!?」
「何だよ、蹴り技も使えるのか!?」
拳闘家が拳を主体とする格闘技と説明しておきながら蹴り技も使えたらしく、ナオの右足がレナの側頭部に向けて放たれた。咄嗟に闘拳で受けて防ぐ事は成功したが、やはり付与魔法を施していない生身の状態で格闘家の攻撃を受けたレナの腕が痺れてしまう。
闘拳越しでもナオの生身の足の一撃受けただけで骨にまで響き、これ以上に受けたらまずいと判断したレナは距離を離そうとしたが、その隙も与えずにナオは追撃を行う。
「中々の反応速度ですが……学園最強といっても、この程度ですか!!」
「ぐあっ!?」
「兄ちゃん!?」
今度は左拳を突き出してきたナオにレナは咄嗟に両手で防ごうとしたが、左拳が将とする直前で止まり、ナオはその場を跳躍して後ろ回し蹴りを顔面に放つ。どうにか頭を逸らしてレナは回避しようとしたが、鼻に踵の部分が掠り、鼻血を吹き出す。
出血したレナを見てナオは着地すると一旦距離を開き、レナの様子を伺う。確かに魔術師でありながら動体視力と反射神経に関しては優れている事は認める。しかし、肝心の戦闘技術はお粗末な物であり、自分の期待外れかと思った時、レナの雰囲気が一変する。
「あ~……痛いな、でもやっと目が覚めてきた……」
「に、兄ちゃん?」
「……?」
鼻血を抑えながらも口調が少し変わったレナにコネコは戸惑い、ナオは訝し気な表情を浮かべると、次の瞬間にレナは無詠唱で両手と両足に付与魔法を発動させ、紅色の魔力を纏う。
闘拳とブーツの変化にナオは驚くが、すぐに冷静になってレナの様子を伺う。先ほどの戦闘では自分の方が攻撃速度は勝っている事に気付き、レナがどんな攻撃を仕掛けようと避けられる自信はあった。
しかし、ナオはレナの事を甘く見過ぎていた。彼が相手にしているのは格闘家ではなく、重力を巧みに操作する付与魔術師である事を彼はすぐに思い知らされる――
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