第188話 ダリル商会への訪問者

――カーネ商会の追加依頼を受ける事になったレナは結局は魔法学園に通う暇もなく、三日の時が経過した。ようやく仕事を終えて休日を得たレナだが、仕事に疲れて眠っている所をコネコに起こされてしまう。



「兄ちゃん、起きてくれよ」

「んんっ……なんだよコネコ、トイレなら一人で行ってよ」

「いや、違うよ!!というか、幽霊が怖くて冒険者なんてやってらんねえよ!!そうじゃなくてさ、なんか兄ちゃんに会いたいとか行っている奴が来てるんだけど……」



本来は昼間で眠るつもりだったレナだが、コネコに起こされて仕方なく起きると、屋敷の一階にまで移動する。そこには困り果てた表情のダリルと、赤色の髪の毛をした少女が立っていた。


最初は赤色の髪の毛を見てバルを想像してしまったレナだが、彼女が街から離れてこの王都まで訪れるはずがなく、よくよく観察すると髪の毛以外は全然違う容姿の少年が立っていた。


外見は赤色の髪の毛を肩の部分まで伸ばし、顔立ちは男性とは思えぬほどに凛々しく整い、細身な体型だった。また、腰にはレナの闘拳と似通った紅色の闘拳を装備しており、年齢はレナと同い年程度だと思われる。



「ここに魔法学園の中でも優れた格闘家がいると聞いてやってきたんです。どうか私と立ち会って貰えるようにお取次ぎお願いします」

「いや、そう言われてもな……うちには確かに子供を二人抱えているが、どっちも格闘家の称号じゃないんだよ。付与魔術師と暗殺者なんだって」

「そんなはずはありません。魔法学園の方々にここに彼が住んでいると聞いています。どうか合わせてください」

「困ったな……あ、丁度良かった。おい、お前等と同じ魔法学園に通っている生徒さんが来たぞ!!」



ダリルは階段から下りてきたレナとコネコに声を掛けると、手招きして呼び寄せる。少年は降りてきた二人を見て、レナに顔に気付くと立ち上がって尋ねてくる。



「すいません、もしかして貴方が魔法学園でも有名なレナという方ですか?」

「え?あ、はい……一応はそうですけど」

「兄ちゃん、こいつだよ!!この間、あたしが話した騎士科に新しく入った生徒だ!!」



コネコの言葉に数日前にレナは彼女から聞かされた魔法学園に新しく入った優秀な格闘家の生徒の事を思い出し、目の前の少年が指導役の教師を倒す程の実力者だと驚く。


レナが想像していたよりも顔立ちが整い、レナもどちらかというと女性よりの顔立ちをしているが、目の前の少年もレナに負けずと劣らず美少年だった。少年の方は立ち上がるとレナの身体に視線を向け、目つきを鋭くさせた。



「ふむ……見かけではそれほど強そうには見えませんが、貴方が魔法学園一の格闘家ですか」

「格闘家?いや、俺は付与魔術師だけど……」

「そんなはずはありません。他の生徒から聞きましたが、貴方が訓練の際にあのゴロウ先生を相手に一歩も引かずに闘拳を身に着けて戦っていたという情報は仕入れています。あの「鉄壁」の異名を持つゴロウ先生と渡り合うという実力、確かめさせてください」

「確かめるって……」

「申し遅れました、僕の名前はナオと申します。それと、よく勘違いされますが僕は格闘家ではなく「拳闘家」です」

「拳闘家?」

「え?格闘家じゃないのか?」



自分の事をナオと名乗る少年の言葉にレナとコネコも驚き、彼によると拳闘家とは格闘家とは同系統の戦闘職ではあるが、種類が異なるらしい。


例えるならばゴロウの「盾騎士」やミナの「槍騎士」のように同じ騎士職でも系統が違うらしい。(ちなみに盾騎士の場合は防御特化、槍騎士は攻撃特化の能力を覚えやすい)。



「拳闘家は力士と同じく格闘系の希少職の一種であり、主に拳を主体とする戦法を得意とする武術家のような物だと考えてください。僕の家系の人間は殆ど格闘家でしたが、極稀に僕のように拳闘家として生まれてくる人間もいます」

「へえ、拳で戦うのが専門の格闘家みたいな物か?」

「まあ、そう捉えて構いません。それよりも僕がここへ訪れた理由はレナさん、貴方に試合を申し込むためです」

「試合って……」

「誰に聞いても魔法学園の最強の格闘家は貴方だと答えました。しかし、学園に通っていても貴方は一向に姿を現さず、仕方なく色々な方に尋ねてこの屋敷に貴方が世話になっていると聞いて訪れました。どうか、僕と試合をしてください」

「ええっ……」



わざわざ自分と戦うために訪れたというナオの言葉にレナは戸惑い、正直に言えばレナには戦う理由はなく、そもそも格闘家でもないのに格闘家と勘違いされて試合を申し込まれても困る。


しかし、ナオの方も退く気はないのか頭を下げた状態で動かず、どうした物かとレナは困ったようにダリルやコネコに顔を向ける。だが、二人とも自分達に助けを求められても困るという風に首を横に振ると、仕方なくレナはナオに顔を上げるように伝えた。



「ナオ君、とりあえず顔を上げてくれる?色々と言いたい事はあるけど、俺は格闘家じゃなくて付与魔術師なんだよ」

「……しかし、騎士科の生徒は全員が戦闘職だと伺っていますが」

「まあ、色々と事情があって俺は魔術師なんだけど、普通の魔術師のような魔法が扱えないから騎士科の生徒として学校に通っているんだよ。詳しく説明すると長くなるんだけど……」



レナはナオに自分がどのような経緯で魔法科ではなく、騎士科の生徒になったのかを話す。

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