大迷宮編

第186話 四重強化&衝撃波

――対抗戦が行われてから一か月の月日が経過し、レナの生活は一変した。これまでは魔法学園に通い、時間が余ったら放課後に大迷宮へ訪れてミスリル鉱石の回収を行う日々を送っていたが、最近では魔法学園を休んで大迷宮へ連日赴く日が増えていた。


大迷宮の「荒野」にてレナは毎日のように入り浸り、倒しても倒しても次々と復活を果たすゴーレムを相手にミスリル鉱石を回収し続ける日を繰り返す。最近では冒険者の同行者も増えるようになり、レナが倒したゴーレムの素材を分けるという名目で荷物を運ばせるのを手伝って貰っている。



「レナさん!!また新しい奴が現れました!!こっちに近付いてきてます!!」

「またか……分かった、皆は解体に集中してて」

「はい!!おい、お前等邪魔になるから早く離れろっ!!」

「ゴオオオオッ!!」




銀級の冒険者達と共に本日も大迷宮へ入ったレナはこれで5体目のゴーレムを倒した直後、また新たなゴーレムが出現し、自分達の元へ向かってくることに気付く。今度の個体は体長が5メートルは存在した。しかし、それを見てもレナは全く動じずにむしろ面倒そうな表情を浮かべる。


腰に差した魔銃を取り出したレナは狙いを定め、顔面に向けて発砲を行う。新調した魔銃はより純度が高い土属性の魔石を装着し、更に弾丸の方も改良を加えられ、貫通力が強化されていた。



「ゴアッ!?」

「そのまま大人しくしてろよ……地属性エンチャント



弾丸を顔面に数発撃ち込まれたゴーレムは怯んだように立ち止まり、その隙にレナは駆け出すと右手の闘拳に付与魔法を施し、更に強化を行う。



二重強化二重強化(ダブル)三重強化トリプル……四重強化クワトロ!!」

「ゴォッ……!?」



付与魔法を唱える度に右手の闘拳に通常時よりも紅色の魔力が纏わりつき、ゴーレムの懐に目掛けてレナは飛び込むと拳を突き出す。



「はああっ!!」

「ゴァアアアアッ!?」

『おおっ!!』



強烈な衝撃がゴーレムの肉体に発生し、レナの拳が腹部にがめり込む。ゴーレムはあまりの威力によろめき、巨体が大きく揺らぐ。並の魔物ならば即死していただろうが、土砂と岩石で構成されているゴーレムだからこそ耐え切れた一撃だった。


しかし、拳をめり込ませた状態からレナは更に最近開発したばかりの新しい技を発動させる。事前に冒険者達を下がらせたのはこちらの技が危険すぎるためであり、レナは声を張り上げる。



衝撃解放インパクト!!」

「オオオオッ……!?」



右手に蓄積された魔力を解放させた瞬間に、掌を中心に重力の衝撃波が放たれ、ゴーレムの肉体が崩れ落ちていく。「反発」の更に何倍も強化された衝撃を生み出す新しい技であり、しかも体内から放たれた事で効果は倍増した。


ゴーレムは全身に亀裂が走ると砕け散ってしまい、残されたのは魔法耐性が高いミスリル鉱石だけが露わになる。それを確認したレナは額の汗を拭うと、冒険者達に振り返る。



「じゃあ、今日はここまでにしておこうか。皆、戻ろう」

『は、はい!!』





――転移石を利用して大迷宮から帰還を果たしたレナ達は、早速だが外で待機していた冒険者と兵士に出迎えられ、今回はどの程度の量のミスリルを確保したのかを尋ねられる。



「お帰りなさいレナさん!!今日も大収穫ですね!!」

「あの、できればうちの商会にもミスリルを回してもらいませんか?」

「お願いしますレナさん!!次に大迷宮へ挑む日が訪れたら俺たちも同行させてください!!荷物持ちでも何でもしますから!!」

「はいはい、そういう話はダリル商会とカーネ商会に話を通してくださいね~」

「レナさん、今の内に通ってください!!ここは俺達が抑えますので!!」

「分かった、あとはお願い、俺は先に帰るから……地属性エンチャント

『うおっ!?飛んだっ!?』



同行していた冒険者達が群がる者達を抑え込むと、レナは面倒くさそうに背中に抱えていた「スケボ」を取り出し、それに乗り込むと付与魔法で浮上させる。


その光景を始めてみた冒険者達は驚き、一方で同行していた兵士達はレナの行為を察して敬礼を行う。後の事は彼等に任せてレナは一足先に戻る事を告げた。



「悪いけど、今回のミスリル鉱石は全部カーネ商会に回してもらえる?こっちの一番大きなミスリル鉱石は俺がダリル商会に運んでおくから」

「はい、お疲れさまでした!!」

「また、明日もよろしくお願いします!!」

「はいはい……君たちも頑張ってね」



今回同行した冒険者はカーネ商会から派遣された者達であり、適当にレナは返事を返すと自分は最も大きなミスリル鉱石を回収してスケボを飛ばす。ある程度の高度まで上昇すると一気に速度を加速させ、ダリル商会の屋敷へ向かう。




このような日々を送り続けてもうすぐ3週間が経過し、大魔導士の提案を引き受けたレナはカーネ商会からの依頼を引き受けるようになった。今まではダリル商会のみにミスリル鉱石を渡していたが、カーネ商会からも依頼を受けてミスリル鉱石の回収のために働かなければならず、毎回とんでもない量のミスリル鉱石を要求してくるので魔法学園に通う暇もない。


連日に大迷宮へ訪れてはカーネ商会の派遣した冒険者と同行し、ゴーレムを倒してミスリル鉱石を回収する日々にレナは疲れるが、そのお陰で新しい付与魔法の戦法も編み出す。


今まではゴーレムに付与魔法を施して肉体を操作し、ミスリル鉱石を無理やりに回収するという手段を行っていた。しかし、最近になって闘拳に更に付与魔法を施す回数が増やせるようになり、しかも「間接付与」の応用で闘拳からも「反発」などの技もできるようになっていた。


新しく覚えた「四重強化(クワトロ)」は従来の二重強化(ダブル)や三重強化(トリプル)の威力が強化され、更に蓄積した魔力を一気に衝撃波に変換させる「衝撃解放(インパクト)」は最早必殺技と言っても過言ではない。

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