第185話 カーネの余裕
――対抗戦が行われた翌日、カーネ商会の元にジャックが訪れた。カーネからの唐突な呼び出しにジャックは何事かあったのかと疑問を抱きながらもカーネの部屋に訪れると、彼は机の上に大量の金貨を様強いて待ち構えていた。
「やあやあ、これはジャック殿。よくぞお越しになられた。さあ、座ってくれ」
「……どうした?随分と上機嫌だな、それにこの金はなんだ?」
「もちろん、君たちの報酬だ。遠慮なく受け取ってくれ」
「報酬、だと?」
ジャックは机の上の金貨を確認し、少なくとも数百枚は存在した。しかし、報酬というカーネの言葉にジャックは疑問を抱き、未だに盗賊ギルドは彼の依頼を果たしていない。
それにも関わらずに報酬を先に差し出してきたカーネにジャックは妙に思い、一応は中身が本物である事を確認した後に机に置いて話を聞く。
「お前の依頼した少年の確保はまだ果たされていない。なのに報酬を前払いするとはどういう了見だ?」
「おっと、言い方が悪かったかな。この金貨は報酬というよりも、私からの謝罪金だと思ってくれ」
「謝罪金、だと?」
「依頼は取り消してもらいたい。もう、あの少年を狙う必要はなくなったのだ」
「何!?それはどういう意味だ!?」
カーネの言葉にジャックは立ち上がり、わざわざ自分達に依頼をしておいてそれを中止にするなど、どういうつもりなのかと問い質そうとした。しかし、普段のカーネならば怯えるところだが、彼は余裕の笑みを浮かべて手紙を差しだす。
「この手紙を見たまえ、そうすれば私が君たちに依頼をする理由が分かるだろう」
「何だと?」
「ちなみに手紙の差出人は大魔導士殿からだ」
「大魔導士、だと!?」
ジャックは大魔導士の名前を聞いて即座に手紙を奪い取り、内容を確認する。そこに記されている文字を見てジャックは目を見開き、歯を食いしばる。
「こ、これは……」
「いや、どうやら大魔導士殿は随分と私の事を心配してくれているようでな、あの少年を説得してくれたようだ。これで我が商会にも大量のミスリルが手に入る……最もダリル商会から引き離す事は出来なかったのは残念だが、仕方あるまい」
「どういう事だ……何故、大魔導士がこんな事をする」
「それほど私の事を大魔導士は気に入ってるという事だよ」
――手紙の内容にはマドウが魔法学園の生徒であるレナに今後はカーネ商会の依頼を承諾するように説得したという内容が記されており、これでカーネ商会にもレナを通じて大迷宮から大量のミスリルの確保が行えるようになった。
欲を言えばカーネとしてはレナを商会に引き入れて独占したい所ではあったが、今はミスリルの確保が最優先であり、これでカーネ商会の元へ去ろうとしている参加の紹介や鍛冶師達も引き止める事ができる。
ダリル商会に関してはいずれレナを何らかの方法で引き抜けば勝手に自滅すると判断し、そうなると盗賊ギルドの依頼は取りやめてもうレナを狙わないように願う。
「ここに金貨500枚を用意した。本来の依頼の報酬金の半額だが、まあ君たちも失敗続きで依頼を果たしてはいないと聞いている。だからここは報酬の半分で手を打ってくれないか?」
「貴様……我々を舐めているのか?ヒトノ国と手を組んで何を企んでいる!!」
「そ、そんな目で見るな!!言っておくが、この手紙は大魔導士殿から送られてきた物だ!!私は何もしていないし、あの方が私に気を遣った行為だぞ!!第一、私の同行は君たちが知り尽くしているのだろう!?」
カーネは自分の行動が盗賊ギルドから派遣された人材を傍に置く事で知られている事を指摘すると、ジャックは舌打ちを行い、黙って座り込む。
当初の報酬の半分の金額とはいえ、500枚の金貨は大金である事は間違いない。しかもリッパーが死んだ事で盗賊ギルドに大きな損失を受けており、大金を得られる機会をみすみす逃すわけにはいかない。
(カーネが嘘を吐いているとは思えないが、どうして大魔導士が動き出した?あの少年、何者だ?)
盗賊ギルドは既にレナの事を危険人物として認識しており、何度も送り込んだ刺客が撃退した事、幹部候補であったウカンさえも破れた事に警戒し、七影の誰かを派遣するか相談していた所だった。
しかし、大魔導士が動いてカーネ商会と話を付けた以上は盗賊ギルドはもうレナに手出しは出来ない。何だかんだ言ってもカーネは盗賊ギルドにとっては大切な支援者であり、彼の商会に不利益となるような行為は出来ない。それに大魔導士とレナが関りがあると分かれば他の幹部たちも彼を狙う事を反対するだろう。
(あの少年は何者だ……素性を調べても何も分からない)
事前にレナの身元は盗賊ギルドも調査したが、判明したのは辺境の街から訪れた冒険者の少年としか判明せず、天涯孤独の身である所をダリルに拾われたという情報しか得られなかった。
だが、そんな少年に盗賊ギルドもカーネ商会もヒトノ国が関わっているという事実にジャックは不安を抱く。
(奴は危険だ……いずれ始末しなければならない)
依頼の中断した以上は盗賊ギルドはもうレナの命を狙う事は出来ない。しかし、ジャックはいずれ必ずレナという存在が盗賊ギルドの脅威と成り得ると判断し、必ず殺害を試みる事を決意した――
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