第187話 その後の魔法学園では……
「お~いっ!!兄ちゃん!!」
「ん?この小さな猫みたいに可愛い声は……コネコか?」
「いや、どんな声だよ!!こっちだよこっち!!」
移動の際中に声を掛けられたレナはスケボを停止させると、近くの建物の屋根の上で私服姿のコネコが立っている事に気付く。こんな場所で何をしているのかとレナはスケボを近づけさせる。
「コネコ、どうしたのこんな場所で……学校はどうしたの?」
「いや兄ちゃん、今日は魔法学園は休みだぞ?何もすることがなくて暇だったから散歩してたら、兄ちゃんを見かけたんだよ」
「ああ、そっか……今日は休みだったのか。というか、散歩でこんな場所までくるなんて凄いな」
「そうか?高いところは見晴らしがいいから結構あたしは気に入ってんだよ」
最近は魔法学園に通っていなかったので休日の日付も忘れていたレナはため息を吐き出し、疲れた雰囲気を醸し出すレナにコネコは不思議そうな表情を浮かべ、とりあえずは隣に座るように促す。
二人は屋根の上で横に並んで座り込むと、コネコはレナが相当に疲れている事を察して自分の方から話しかけてきた。
「兄ちゃんは今日も仕事帰りか?最近、ずっとあたしたちと遊んでくれないよな。前は一緒に大迷宮に連れて行ってくれたのに……」
「カーネ会長の指示で同行者はカーネ商会と専属契約を結んでいる冒険者だけにするように指定されているからね。お陰でいつも監視されているみたいで気が休まらないよ」
「あのおっさん、兄ちゃんに仕事頼み過ぎだろ……こんな調子じゃ兄ちゃんが倒れちまうよ」
「まあ、報酬は結構貰えてるんだけどね……仕事の時は必要な魔石や回復薬も用意してくれるし、待遇は意外と悪くないよ」
「それって兄ちゃんを引き抜くために今だけ優遇してるだけじゃねえの?ダリルのおっちゃんも兄ちゃんを心配してたぞ。勿論、ミナやシノやデブリの姉ちゃん達も……いや、この言い方だとデブリの兄ちゃんも姉ちゃんみたいに聞こえるな」
「ぶはっ!!ちょっと、笑わせないでよ……もしも空を飛んでいるときに意識が乱れたら魔法が解けて大変なことになってたよ」
デブリが女になったのを考えてレナは危うく大笑いしそうになったが、仮にスケボに乗り込んでいるときに笑っていたら大変な事態に陥っていた。
レナのスケボは高い集中力を必要とするため、もしも途中で意識が他の事に乱れたら操作を誤り、地上まで真っ逆さまに落ちるところだった。コネコも散歩も飽きたのかレナのスケボに乗り込むと、共に屋敷へ帰る事にする。
「そういえば兄ちゃん、最近魔法学園に新しく入学生が入って来たの知ってるか?しかも騎士科の生徒だぜ」
「へえ、知らなかった。どんな子?」
「年齢は兄ちゃんと同い年だけど、格闘家の称号を持つ凄い奴だよ。授業中に教師をぶっ飛ばして気絶させた事もあるんだぞ?」
「え、それは凄いな」
魔法学園の騎士科に新たに加わった生徒は指導役の教師さえも敵わない実力者らしく、実際に見たコネコによると相当に腕が立つらしい。
魔法学園の教師はレナ達の通う騎士科の担任教師のゴロウと同じく全員が何らかの称号持ちのはずだが、その生徒は同じ称号を持つ格闘家の教師さえも圧倒する実力を持ち合わせている事になる。
「デブリの兄ちゃんも強いけど、もしかしたら新しく入って来た奴の方が強いかもしれないな。本当に凄かったんだぞ?兄ちゃんも学校に来て確かめてみなよ」
「そうだな……明日の仕事を終えればしばらくは大迷宮に潜る必要もなくなると思うし、明後日は行ってみようかな」
「そうこなくっちゃ!!」
コネコは嬉しそうにレナの背中にしがみつき、随分と彼女には懐かれたと思いながらレナはコネコを振り落とさない程度の速度で移動を行う。だが、その途中でコネコの表情が険しくなり、レナも異変を感じ取った。
「兄ちゃん……誰かに見られてるな」
「ああ、気づいてる」
「へえ、結構兄ちゃんも感覚が鋭くなったな。視線とか、分かるようになったのか?」
「何となくだけどね……」
レナ達は何者かの視線を受けている事に気付き、速度と高度を早めて視線から振り切る。ここ最近、レナは自分が何者かに尾行されると気付くことが出来るようになり、恐らく相手は盗賊ギルドの人間で間違いはない。
マドウがカーネに話を付けたことで盗賊ギルドはレナの命を狙う事はなくなったはずだが、未だに彼等はレナの動向を監視しているのは明白だった。恐らくはレナという存在を警戒しており、彼とマドウがどのような関係なのか探ろうとしているのだろう。
しかし、盗賊ギルド側としても今まで通りに刺客を送り込む事は出来ず、あくまでも尾行と監視をさせるだけに留まっている。彼等も大魔導士のマドウを敵に回すような行為は躊躇するらしく、レナの動向を把握する程度に抑えている。
最近のレナの疲労は体力面だけではなく、常日頃から監視されるような生活を送っているせいで精神面にも負担が大きくなり、いい加減に苛ついてきたレナは今回は尾行者が追手来れないようにスケボを加速させてダリルの屋敷へ急ぐ――
――翌日の早朝、レナは今日もカーネ商会の冒険者を引き連れて大迷宮へ赴こうとすると、出発前にカーネ商会から派遣された使用人が手紙を渡す。その内容はミスリル鉱石の追加依頼であり、その量にレナは眉をしかめる。
「また追加でミスリル鉱石を100キロって……簡単に言ってくれるけど、それだけの量を運ぶのは大変なんですよ」
「申し訳ありません……ですが、最近ミスリル製の武器を欲しがる冒険者も多く、他の地域からも依頼が殺到しておりまして……」
「はあっ……カーネさんに伝えてください。もうこれ以上の追加依頼は受けません。もしも約束を破るようなら契約を破棄させてもらいます」
「はい、主人にちゃんと伝えておきます」
レナは手紙を運んできた使用人に呆れながらも言伝を行うと、この調子では次に魔法学園に通えるのは何時の日になるのか分からなくなった――
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