第181話 秘技

「まだ気づいていないのか?この場所はもう監視水晶の死角になってるんだよ。俺が無意味に魔物どもを暴れさせたと思っているのか?」

「何……?」

「闘技台に存在する土の塊は別に障害物の役割だけじゃない、監視水晶が埋め込まれていて選手の行動を確認しているんだよ」



ウカンの言葉にレナは周囲を見渡すと、何時の間にか自分達の周囲には障害物となりそうな土塊が存在しない事に気付く。よくよく思い出すとこれまでの試合や先ほど召喚された魔物達の仕業で大部分の土塊が破壊されている事に気付く。


土塊に埋め込まれていた監視水晶によって闘技台の状況は常に把握されていたが、その土塊を破壊されれば監視水晶も同時に壊れるか、あるいは残骸と共に埋まってしまう。


闘技台に障害物を設置した本当の理由は監視水晶を設置するためだとレナは今更ながらに知り、そして現在の状況は闘技台の周囲の人間には気付かれていないという。



「お前は知らないだろうが、試合中の闘技台の周囲には結界も張られている。砲撃魔法をぽんぽんと撃たれたら観客にも被害が出るかもしれないからな。だからこうして大声で話しても外部には聞こえないという事だ」

「どうしてそんな事まで……」

「盗賊ギルドの情報網を舐めるなよ。さあ、説明は終わりだ。安心しろ、死にはしない。ただ、二度と意識は戻らないがな」



ウカンはボーガンを構えるとレナに向けて撃とうとするが、それを見たレナは両手を上げる。その行為を見てウカンは呆気に取られた表情を浮かべるが、笑い声をあげる。



「ぶははっ!!何だそれは?降参のつもりか?悪いが見逃すつもりはねえ、お前を殺せば俺にも空いた七影の座が巡ってくるかもしれねえからな!!」

「……七影?よく分からないけど、これは降参じゃない。反撃の準備だよ!!」

「何だと!?」



レナが両手を地面に下した瞬間、関節付与を利用して先ほど倒したゴーレムに魔力を送り込む。地面を通じて魔力を送り込む事が出来るかどうかは初めて試したが、今までにレナは幾度も地面に付与魔法を発動できるのは確認済みだった。


地面越しに伝わった魔力が動けなくなったゴーレムの元に届くと、大迷宮のロックゴーレムを操作するときの要領でレナはロックゴーレムを操り、反撃を仕掛ける。



「ゴオオオッ!?」

「なぁっ!?」

「でりゃっ!!」



付与魔法の力でゴーレムの巨体が浮き上がらせると、ウカンの元へ巨体が接近し、彼は慌ててその場を跳躍して回避を行う。結果としてはゴーレムは闘技台の端まで吹き飛び、派手に転倒した。


危うく押し潰されるところだったウカンは安堵するが、その隙を逃さずにレナは駆け出し、闘拳を身構える。それを確認したウカンは慌ててボーガンを構えた。



「動くなっ!!」

「くっ……!?」


ボーガンを構える前に追撃を加えようとしたレナだが、ウカンの方が少しだけ反応が早く、逆に近づいた事で至近距離からボーガンを構えられる。再び余裕を取り戻したウカンは冷や汗を流しながらレナと向き合う。



「い、今のは本当に驚いたぜ……まさかゴーレムを浮かばせる事ができるとはな。だが、これで終いだ!!」

「いや、終わるのはあんただよ」

「何だと!?」



レナの言葉にウカンは慌てて彼の両手両足を確認し、付与魔法を発動させていないのかを伺う。レナは魔法を発動させる際に必ず紅色の魔力を肉体に灯すという情報はウカンも事前に情報を掴んでおり、石畳を付与魔法の力で変形させて攻撃を行う術も知っている。


しかし、見た限りではレナの肉体には付与魔法は施されておらず、ただの虚勢だと安心しきったウカンだが、レナの両手を確認して何時の間にか彼の左手に装着されていた闘拳が存在しない事に気付く。



「おい、まさか……!?」

「後方注意!!」



次の瞬間、ウカンの背後から風切り音が響き、彼は反射的に振り返るとレナの手元から離れていた闘拳が凄まじい速度で突っ込んできた。



「うおおっ!?」



しかし、咄嗟にウカンは頭を下げて回避する事に成功したが、そのまま闘拳はレナの手元に戻ると、空中でレナは装着を行う。



「このっ!!」

「ぐあっ!?」



体勢を崩したウカンに向けてレナは闘拳を装備した左腕で殴りつけた瞬間、ウカンの脇腹に強烈な衝撃が走った。


確実に肋骨が何本かに罅が入る程の威力だったが、ウカンは歯を食いしばって耐えると、性懲りもなくボーガンを構えようとした。



「この、ガキがぁっ!!」

「っ!!」



――目の前に構えられたボーガンに対してレナは反射的に左手を伸ばし、昨日のゴロウとの最後の訓練を思い出す。そして「間接付与」を利用した新たな戦法を披露する。




地属性エンチャント!!」

「何ぃっ!?」



ボーガンに左手で触れた瞬間に付与魔法を施し、重量を一気に増加させた。その結果、ウカンはボーガンを手放してしまい、前のめりに倒れ込む。先日のゴロウとの訓練の際もレナは同様の手段でゴロウの「大盾」の重量を増加させ、体勢を崩した所で反撃を繰り出した。


分かりやすく説明すれば相手の武器の重量を変化させて隙を生み、その隙に攻撃をしかけるという単純な戦法である。しかし、初見でこの戦法を受けた相手は必ず混乱を起こして対処が送れ、その隙にレナは追撃を行える。



「行くぞぉっ!!」

「うおっ!?」



体勢を崩したウカンに対してレナは彼の背後に移動して胴体にしがみつくと、勢いよく持ち上げて地面に向けてウカンの後頭部から叩きつける。



「キニクさん直伝、ジャーマンスープレックスだぁっ!!」

「ぐえぇっ!?」



想像を絶する強烈な衝撃がウカンに走り、頭部から頭に叩きつけれた時点で意識を失ってしまう。

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