第182話 不正発覚

レナはウカンが気絶したのを確認すると手放し、額の汗を拭う。剣闘士のキニクが得意とする技の一つではあるが、魔物が相手だとどうしても使用する機会は滅多に訪れず、基本的には人間にしか使ったことがない。


イチノの街で今頃は冒険者や家業に精を出しているはずのキニクにレナは心の中でお礼を告げ、ウカンが落としたボーガンを蹴り飛ばすと、闘技台の端に追いやられたゴーレムに視線を向ける。



「ゴオオッ……!!」

「まだ生きていたか……けど、ここまでだ」



レナはゴーレムが起き上がろうとしているのを確認すると、止めを刺すために近付く。だが、ここで上空に異変が発生し、唐突に青空に黒雲が発生する。唐突な天候の変化にレナは戸惑うと、何処からかマドウの声が響き渡った。



「サンダーボルト!!」

「ゴアアアアッ!?」

「うわっ!?」



黒雲から一筋の雷が降り注ぎ、ゴーレムの肉体に衝突したかと思うと、岩石が粉々に砕け散って周囲へと散らばった。その光景にレナは驚き、いったい何が起きたのかと戸惑うと、何時の間にか闘技台上に杖を構えたマドウの姿が存在した。


ゴーレムに降り注いだ落雷の正体はマドウの魔法らしく、通常の砲撃魔法とは異なるのか彼の場合は黒雲から魔法の雷を落としたように見えた。レナは唐突に現れたマドウを見て驚くが、マドウの方は粉々に砕けたゴーレムを見て頷く。



「ふむ、まだ腕は衰えておらんか……」

「が、学園長?」

「おお、驚かせてすまなかったな……無事で良かった」



マドウはレナの姿を確認すると安心した表情を浮かべ、そして倒れているウカンの元へ向かう。そんな彼にレナは慌てて注意する。



「学園長!!その男は……」

「大丈夫だ、既にこいつの正体は見破っておる。お主の所の忍者娘から話しは聞いておるぞ」

「えっ……」

「レナ君!!無事!?」

「兄ちゃん、大丈夫か!?」



闘技台にミナとコネコも姿を現し、急いでレナの元へ訪れると彼女達はレナが無事である事を確認して安堵した表情を浮かべる。


レナはいったいどうして3人が駆けつけてきたのかと戸惑うと、マドウはウカンの元へ赴き、気絶している事を確認すると連に振り返った。



「詳しい話はここを降りてからにしよう。残念ながら、対抗戦は中止じゃ。一刻も早く、盗賊ギルドの内通者を捕まえなければならんからな――」





――気絶したウカンを捕縛した状態でレナ達は闘技台を降りると、そこには異様な光景が広がっており、まずはゴマンとイヒドがデキンとゴロウによって抑えつけられていた。



「は、離せ!?僕を誰だと思っている!!王国貴族だぞ!!」

「うるさい!!」

「き、貴様!!魔導士であるこの私にこんな真似をして無事で済むと思うか!?」

「やかましい、大人しくしていろ」



ゴマンは背中にデブリが乗り込んで動くことが出来ず、イヒドの方はゴロウに頭を鷲掴みされて地面へと押し付けられる。他の魔法科の生徒たちは不安げな表情を浮かべたまま教師に囲まれていた。


自分が闘技台で戦っている間に何が起きたのかとレナは呆気に取られると、シノが駆けつけてきて簡単に事情説明を行う。



「あの二人が対抗戦に不正を行っていた事が発覚した。だから学園長は対抗戦を中止して、二人を拘束した」

「不正?」

「魔法科の生徒が支給された杖や魔法腕輪に装着している魔石が全部学園側が最初に用意していた物とすり替えられていた。試合中に私がそれに気づいて学園長に報告して、調査した結果この二人の仕業だと判明」

「ぬ、濡れ衣だ!!大魔導士、これは私を陥れようとする何者かの仕業です!!」

「黙れ!!武器を用意した係の人間が既に白状している!!お前から脅迫されて杖に装着されている魔石を全て入れ替えたとな!!」



イヒドは必死に自分の無実を訴えるが、マドウは聞く耳持たず、傍の方で震えている教員に視線を向けた。彼等が今回の対抗戦の武器を用意した人間たちであり、教員の一人が白状する。



「が、学園長の言う通りです……我々はイヒド先生に脅され、魔石の取り換えを行いました」

「き、貴様等……!!」

「先生、僕は無関係です!!何故、こんな事を!?」

「……君に関しては魔石を調達した疑いがある。ここにいるミナ君が先日、路地裏にて怪しい人間から君が何かの荷物を受け取っていたという報告を受けておる。それが事実かどうか調査する間は我々の元で監視させてもらうぞ」

「ひいいっ!?ち、違うんです!!僕はイヒド先生に言われて……」

「こ、このガキ!!なんてことを!?」

「静まれっ!!見苦しいぞ貴様等!!」



ゴロウが一喝すると騒いでいたゴマンもイヒドも黙り込み、そんな彼等の情けない姿にマドウはため息を吐き出す。二人の犯行は既に証拠も揃っており、行動の理由も大方察しはついた。


イヒドは対抗戦で魔法科の生徒を勝利するためにゴマンを利用し、自分の代わりに盗賊ギルドに接触させて特別な魔石を受け取る。


その後はイヒドが教員を脅して試合用の武器の杖や魔法腕輪に装着されている魔石と入れ替えさせ、万全の準備で生徒達を対抗戦に出場させた。


この時点でイヒドは教師でありながら自分の生徒を勝たせるために不正を行っており、しかも更に問題なのは仮にも王国関係者が生徒を利用して盗賊ギルドと接触していたという事であり、マドウは烈火のごとく怒りを露わにした。

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