第180話 召喚魔法

「ふうっ……昔は手こずったけど、今だと冷静に対処すればどうにかなるな」



魔法学園の訓練によってレナは冒険者だった頃よりも確実に鍛えられ、付与魔法も磨かれていた。ボアや赤毛熊も今では強敵と言えるほどではなく、そもそも両者を上回る戦闘力を誇るゴーレムを相手にレナは何度も戦闘を繰り広げている。


しかし、どうして急に闘技台に魔物が現れたかについてはレナは疑問を抱き、そもそも監視水晶を通して見ているはずの教師やレナの仲間達が闘技台の異変に気付いて何も反応を起こさない事が不思議だった。


コネコ達の性格ならば魔物に襲われるレナを見れば真っ先に助けに駆けつけてきそうだが、今の所は彼女達が駆けつける気配すらない。



(魔物が現れる前に襲ってきた光と振動、あれが何か関係しているかもしれない。もしかしたら……)



魔法学園の授業の中で職業の「称号」に関しての授業を受けた事もあり、レナは自分と同じく魔術師の希少職の中には「召喚魔術師」という職業がある事を思い出す。授業の内容によると召喚魔術師は「召喚魔法」と呼ばれる特殊な魔法が扱えるという。


召喚魔法は砲撃魔法や付与魔法とはそもそも性質が大きく異なり、教師の説明によると「転移系」の魔法に属するらしい。しかし、召喚魔術師自体が付与魔術師と同じく人数が少なく、完全には彼等の魔法は解明されていないという。



(さっきまで絶対にいなかった魔物が唐突に出現した……となると、考えられるのは外部から魔物が引き寄せられたとしか有り得ない。だけど、こんな危険な魔物達をどうやって運び出した?そもそもなんで学園長や先生が止めなかった?)



仮にウカンが召喚魔術師だとした場合、召喚魔法を利用して魔物を闘技台に召喚させた仮定する。だから召喚された魔物は彼の魔法で呼び出した存在なので学園長や教師は見逃したのかと考えたが、いくら何でもそれはあまりにも無茶苦茶過ぎた。


魔物は簡単に人に操れるような存在ではなく、特にボアや赤毛熊のような気性の荒い魔物であるほど手懐げることも難しい。魔術師の中には「魔物使い」という魔物を操る魔法を扱える職業があると聞くが、それはあくまでも魔物使いの話であって召喚魔術師にそのような能力は持ち合わせていない。



(何かがおかしい、なんで誰も反応しないんだ?)



嫌な予感を覚えたレナは闘技台を抜け出すために駆け出す。しかし、そんなレナの正面から光が襲い掛かり、直後に闘技台に振動が走った。



「く、またっ……!?」

「ゴォオオオッ……!!」



今度はよく聞き覚えのある声が響き渡り、光が収まるとレナの正面の方角から土塊を叩き壊して接近する「ゴーレム」の姿が存在した。ボア、赤毛熊に続いて自分に縁のある魔物ばかりが現れる事にレナはため息を吐く。



「何処に隠れている!!こそこそして隠れてないで出てこい!!」



ゴーレムを召喚したと思われるウカンに対してレナは怒鳴りつけるが、相手は返事をする事もなく、その間にもゴーレムは接近する。



「ゴオオッ!!」

「うるさい!!お前の相手なんかしていられるか!!」

「ゴアッ!?」



しかし、何十体もゴーレムを倒しているレナは手慣れた手つきで腕を伸ばしてきたゴーレムに触れ、付与魔法を施す。全身が岩石で構成されているゴーレムは抵抗する事も出来ず、そのまま地面にめり込んでしまう。


生物に対してレナの付与魔法は効果は発揮しないが、無機物によって構成されているゴーレムの場合は別であり、そのまま身体の自由を奪われたゴーレムは動くことは出来ずに悲鳴をあげる。


しかし、それを無視してレナは闘技台の端へ移動を行おうとすると、土塊から人影が現れてレナの足元に矢が突き刺さった。



「くっ!?」

「ちっ……上手く避けたか、路地で会った時よりいい動きをするじゃないか」

「ウカン!!」



土塊から現れたボーガンを握り締めしめたウカンであり、彼は堂々とボーガンを見せつける。試合の規則では事前に与えられた訓練用の武器以外は使用は禁止されているが、彼は隠す事もせずボーガンをレナに構える。


いったい何処から武器を取り出してきたのかは分からないが、少なくとも先ほどのボアも赤毛熊を使ってレナの命を狙ってきた相手はウカンで間違いない。試合にも関わらずに自分の命を狙うウカンにレナは何者かと問い質す。



「お前、いったい何の真似だ!!」

「ちっ……ムノーやルイン程度にやられる相手だからと高を括っていたが、中々やるじゃないか。どうやって俺が呼び出したゴーレムを封じた?」

「お前……まさか、あの時にいた!?」

「そうさ、声が違うから分からなかったか?」



ウカンは笑みを浮かべると、自分がルインとムノーを襲撃した際にレナ達の前に現れたフードの一団の一人である事をばらす。そんな彼にレナは身構えるが、ウカンはボーガンを向けて笑い声をあげた。



「無駄だ、この距離ならお前が魔法を使うよりも早く仕留められる。ちなみにこの矢にはお前がルインから受けた痺れ薬とは比べ物にならない程の効果を誇る毒薬が盛ってあるぜ」

「お前……自分が何をしているのか分かっているのか?この闘技台の映像は皆が見てる。逃げ場はないぞ!!」

「それなら助けを求めて見ろよ!!どうせ誰も来やしないがな!!」



レナの言葉にウカンは自信あり気に言葉を返す。彼には教師もレナの仲間達も闘技台に駆けつける事がないという絶対の自信があるようだった。

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