第176話 ウカンの提案

「おい、君たち!!何時までも喋っていないで早く闘技台に上がりなさい!!間もなく試合開始の時刻だぞ!!」

「あ、すいません……」



観客席から魔法科の担当教師であるイヒドが怒鳴りつけると、対抗戦の代表者たちは闘技台へ上がろうとする。しかし、その中でウカンだけは立ち止まり、何かを考え込むように腕を組む。


何時までも闘技台に登ろうとしない彼に他の人間達は訝し気な表情を浮かべるが、そんな彼等にウカンは大声を張り上げる。



「やっぱり、こいつはおかしいな!!なあ、お前らも不思議に思わないのか!?」

「何?」

「先生方、やっぱりこれはおかしいですよ!!」



ウカンは観客席の教師たちだけではなく、闘技台の周辺に待機している生徒達に向けて聞こえるように大声を上げ、唐突に叫び出したウカンにイヒドは驚き、マドウとゴロウも顔を向ける。


このウカンの行動はいイヒドにとっても予想外の出来事だったらしく、彼はマドウの前なので怒鳴りつける真似はせず、ウカンが何を騒ぎ立てているのかを問いただす。



「う、ウカン……君、いったい何がおかしいというのかね?」

「イヒド先生、俺は気付いちまったんですがね。この闘技台に上がる魔術師の数と騎士科の生徒の数が合わないんですよ」

「な、何を言っているだね君は?」



ウカンは先に闘技台に上がった代表者達を指差し、わざとらしくため息を吐きながら首を振った。その行為にレナ達は訝しみ、彼が何を言いたいのかを問う。



「おい、さっきから何言ってんだてめえっ!!ちゃんと魔法科と騎士科の生徒5人が揃ってるだろ!?」

「こ、コネコちゃん。学園長の前なんだし、そういう乱暴な言葉遣いは……」

「まあまあ、嬢ちゃん落ち着きなよ。俺が言いたいのはそういう事じゃないんだよ」



コネコがウカンに怒鳴りつけると、彼は余裕の笑みを浮かべて闘技台の面々と向き直り、そしてレナを指差す。急に指差されたレナは戸惑うが、そんな彼にウカンは堂々と言い放つ。



「俺が何を伝えたいのかというと、それはどうして騎士科の生徒の代表の中に魔術師が混じっているかって事だよ!!」

「えっ……」

「何?」

「それは……」



ウカンの言葉に生徒達がざわつき、観客席の教師たちも話し合う。確かにレナは付与魔術師ではあるが、騎士科の生徒として学園に通っている。それは周知の事実のため、これまで誰もレナが騎士科の生徒として対抗戦に参加している事に疑問を抱いた人間はいない。


しかし、今回の対抗戦に関してレナが参加している事にウカンは異議を申し立てる。今回の戦闘は言ってみれば戦闘職と魔法職の生徒同士の試合なのだが、どうして騎士科の生徒の中に魔法職の人間が混じっているのかを問う。



「今回の対抗戦の名目は魔法科と騎士科の生徒がどちらが優秀なのかを競い合うためだろう!?なのに、どうして騎士科の代表のなかに魔術師が混じっているのか気になってね、それが俺は不満なんだよ!!」

「何言ってんだ!!!兄ちゃんはれっきとした騎士科の生徒だぞ!!なあ、ゴロウのおっさん先生!?」

「お、おっさん先生……?」



コネコに話しかけられたゴロウは戸惑いながらも頷き、マドウの方もレナが騎士科の生徒として入学した事を認めているので黙って頷く。だが、そんな彼等に対してウカンは物怖じせずに話を続けた。



「今回の対抗戦は表向きは魔法科と騎士科の生徒の争いだが、実際の所は「魔法職」と「戦闘職」の人間のどちらが優れているのかを競い合うために開催されたんじゃなかったのか!?皆だって気になるだろ、この二つの職業がどちらが優れているのかをよぉっ!!」

「……言いたい事は分からんでもないが、君は何が言いたい?」



生徒の主張も学園長の立場としては聞き入れなければならず、マドウはウカンが何を言いたいのかを問うと、彼はレナを指差して闘技台から下りるように促す。



「団体戦にその先輩が参加するのは認められねえ。だからこそ規則の変更を要求する!!そこの先輩が団体戦に参加するのは無し、代わりにこちらも1人団体戦に出場するのも取り消す!!これが真の平等だろう!?」

「ほう……」

「つまり、4対4で戦えというのか?」

「そういう事だ。これならお互いの公平な条件でしょう?」



ウカンの言葉に教師たちは顔を見合わせ、マドウも難しい表情を浮かべて考え込む。その一方でゴロウは険しい表情を浮かべ、イヒドの方は唐突に騒ぎ出したウカンにはらはらとした様子で彼を見守る。


他の生徒達も騒ぎ出し、確かに騎士科の代表選手の中に一応は「魔術師」であるレナが参加していいのか論争を行う。


騎士科の生徒として認められているのならば問題はないと主張する人間がいる一方、騎士科と魔法科の競い合いにどうして魔術師であるレナが騎士科の生徒として魔法科の生徒と争うのが正しい事なのか疑問を抱く生徒もいた。



「確かにおかしいよな……そもそ、なんでレナ君が代表に選ばれたんだよ?」

「お、おい!!なんて事を言い出すんだ?レナ君は俺達のために戦ってくれてるんだぞ!!」

「そうだぜ!!あいつは魔術師だけど、魔法科の生徒のように俺たちの事を馬鹿になんかしないぞ!?」

「いや、でもそれとこれとは話が別なんじゃ……」

「けど、う~ん……」



仲間である騎士科の生徒達もレナが団体戦に参加する事に賛成するべきか悩む生徒も多く、名目上は魔法科の「魔術師」と騎士科の「戦闘職」の人間同士が競い合う事になっているのに騎士科でありながら魔術師でもあるレナでが出場する事に難色を示す者も多い。


教師たちでさえも論議を行い、ウカンの提案を受け入れるべきか話し合いを開始する。そんな彼等を見てレナは不安を抱き、一方でウカンの方は不適な笑みを浮かべていた。そんな彼にシノは鋭い視線を向ける。

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