第177話 魔法科の最強の魔術師は……

「ふむ、ウカン君といったな。確かに君の意見は一理ある、しかしここにいるゴロウ先生に話によるとレナ君の方も今日の日のために厳しい訓練を積んできたようだ。だが、試合に出られなければ培った技術も披露する機会を失う。それは少々惜しいとは思わんかね」

「そうですかね?試合に出られなくてむしろほっとしてるんじゃないですか?」

「何だと、兄ちゃんを馬鹿にするなよ!!その気になればお前等なんて兄ちゃん一人で十分だ!!」

「ちょ、コネコ……言い過ぎだよそれは」



小馬鹿にしたような態度を取るウカンにレナよりもコネコの方が真っ先に怒りを抱き、他の者達も不満を抱く。実際に対抗戦に向けてレナが厳しい訓練を乗り越えてきたのは全員が知っており、担当教師であるゴロウもマドウに頼みこむ。


ゴロウは普段からレナ達が訓練の日々に励んでいる事を知っており、教師という立場上は表立って力を貸す事は出来ないが、それでも彼なりに自分の生徒のために協力してやりたいと思っていた。


魔法職であろうとレナが普段から騎士科の生徒として真面目に訓練を受けているのも知っているため、どうにか試合を続行させることを願う。



「大魔導士、いや学園長……レナは魔術師ではありますが、彼は普通の魔術師と違い、接近戦を得意とします。実際に授業で彼が受けている訓練は騎士科の生徒を想定して考えられた訓練だけで魔術師としての指導は一切受けていません。俺の個人指導に関しても魔法の指導は行っていませんし、そもそも魔術師ではない俺では魔法を教える事はできません」

「それは……どうですかな?ゴロウ殿は人脈が意外とありますからな、知人の魔術師に頼み込んで密かに指導を受けさせていたのでは?」



ゴロウの言葉にイビトが意地悪そうに言葉を挟むと、彼に対してゴロウは鋭い視線を向けてはっきりと否定する。現役の将軍でもあるゴロウに睨まれイビトは背筋が凍り付く。



「そもそも希少職の付与魔術師の付与魔法の指導を行える人物がこの王都にいるというのか?第一にそんな人材がいるのならば大魔導士でもあるマドウ殿が知らないはずがないではないか」

「うむ、確かに儂の知る限りの魔術師の中で付与魔法を扱う者は心当たりがない」

「ぐうっ……これは失礼しました」



マドウはゴロウの言葉に頷き、イビトは自分の失言を謝罪するが、悔しそうな表情を浮かべてゴロウを睨みつけた。そんな彼等の反応を見てウカンは結局レナの対応をどうするべきなのかを問う。



「学園長、話が脱線しています!!結局、このレナという奴を団体戦に参加させるかどうか、はっきりとお答えください!!」

「……ふむ、では逆に聞くが君は団体戦でレナ君が抜ける場合、魔法科の生徒は誰が欠場するのがいいと思う?」

「そうですね、ここはゴマン君が一番だと言いたい所ですが……」

「な、何だと!?ウカン、お前っ……!!」

「ふざけるな!!しょんべん漏らしと兄ちゃんが釣り合うか!!どうしても兄ちゃんを出場させたくないなら、そっちの大将の参加すんなよ!!」

「そうだそうだ!!もっと言ってやれコネコ!!」

「流石にレナとゴマンじゃ釣り合いは取れない」

「そうだよ!!せめてドリスさんぐらいの人じゃないと駄目だよ!1」

「しょ、しょんべん漏らし……!?」



ウカンの図々しすぎる発言にコネコ達は猛抗議を行い、一方でしょんべん漏らし呼ばわりされたゴマンは反論も出来ずに悲しそうに引きさがる。


実際の所、これまでに出場した魔法科の生徒の中でレナと渡り合える人物となるとドリスぐらいしかいない。実力を発揮する前に倒れたチョウの実力は不明のままだが、ゴマンとレナが戦ったところでレナの実力を知る人間にとってはゴマンに敗れる姿など全く想像できない。


だからこそウカンの発言にはミナ達は反対するが、そんな彼等の反対をも予想していたようにウカンが提案を行う。



「分かりましたよ先輩方……そこまで言うのなら言い出しっぺの俺が欠場します。それで文句はないでしょう?」

「何だと!?文句大有りだこの野郎!!だいたい誰だよお前!!」

「いきなり現れたかと思えば対抗戦の当日に文句を付けて何様のつもりだ!!」

「おっと、いいんですか?言っておきますけど、俺がこの中では一番強いんだぜ?それなのに俺が参加してもいいのか?」



文句を告げるコネコ達に対してウカンは自信あり気に自分こそが魔法科の生徒の代表の中でも最強を名乗り、そんな彼の言葉に他の4人の生徒達は悔し気な表情を浮かべて黙り込む。その彼等の反応を見てレナは戸惑う。


ここに集まった生徒は魔法学園の中でも成績上位者ばかりであり、そんな彼等を差し置いて突如として現れたウカンが対抗戦の代表枠を取るばかりではなく、他の生徒を圧倒する強さを持っているのかと動揺する。それは他の者達も同じらしく、ミナはドリスに問いただす。



「う、嘘だよねドリスさん?まさか、こんな人が本当に……」

「……本日の対抗戦が行われる前日、実は私達は代表者同士で試合を行いました。そしてここにいるウカンが勝利し、私達の大将を務めていますの」

「そんな馬鹿な……!?」



ドリスでさえもウカンには敵わなかったらしく、他の3名の生徒も悔し気な表情で顔を逸らす。その態度がウカンの言葉が事実だと証明され、それを確認したマドウは生徒達に尋ねる。



「ウカン君はこう言っているが、その言葉は魔法科の代表選手全員の総意という事で構わないのか?」

「おい、いいよなお前等?」

「ああ……」

「勝手にしろ」

「…………」

「負けた以上、貴方に指示に従うという約束ですわ」



魔法科の生徒はウカンの提案に渋々とだか同意し、それを見たマドウは今度はレナに問いただす。

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