第175話 校舎内での逃走

「畜生、逃がすな!!絶対に捕まえろ!!」

「あいつを仕留めれば俺達は金持ちになれるんだ!!」

「おい、そこを退け!!何を簡単に突き飛ばされてんだお前等!?」

「く、くそ、身体が上手く動かない……!?」

「な、何が起きたんだ……!?」



騎士科の生徒は慌てて追いかけようとするが、先に倒れた生徒達は何故か全身に錘を装着でもされたかのように上手く動けず、その間にレナは廊下を駆け抜けると、窓を開いて外へ逃げようとした。


どれだけの高所だろうと衣服や靴に付与魔法を施せば、落ちたときに身に付けている者を浮揚させれば落下の勢いを殺して安全に着地できるため、そのままレナは校舎の2階からバケツを抱えて飛び降りる。


何の躊躇もなく外に飛び出したレナに生徒達は驚くが、一方で落下の際にバケツの中の水は零れてしまい、偶然にも下を通りかかろうとした生徒に当たってしまう。



「ぶわっ!?」

「あ、ごめんね!?けど、今は急いでいるから!!」



レナは水を被せてしまった生徒に謝罪を行うが、立ち止まらずに闘技台が存在するグラウンドへ向かう。それを見た騎士科の不良生徒達も慌てて窓から飛び降りると、どうにか地上で着地する。



「おっとと……くそ、待ちやがれ!!」

「あいつ、なんであんなに早いんだ!!」

「おい、お前等急げっ!!」



生徒達は高いところから落ちて足がしびれてしまうが、普段から訓練を受けているのでどうにか耐えてレナの後を追いかけようとした。だが、そんな彼等の前にバケツの水を浴びせられた生徒が立ちはだかる。



「何だてめえっ!?そこ退きやが……えっ?」

「も、もしかして……」

「まさか!?」

「……なるほど、だいたいの事情はよく分かったよ」




――不良生徒達の前に髪の毛に付着した水を振り払いながらヒトノ国の王子であり、魔法学園の学生でもある「アルト」は逃げ去るレナとそれを追跡しようとする不良生徒の間に割って入り、状況を把握した彼は不良生徒達を睨みつける。




よりにもよって本当にアルトと遭遇してしまった不良生徒達は顔色を青くさせ、そんな彼等にアルトはゆっくりと腰に差した剣に手を伸ばす。そして笑顔で答えた。



「君たちには選択肢がある、ここで僕に謝罪を行って何を仕出かしたのかを素直に報告するか、あるいは僕を突破して彼を追いかけるかだが……後者の場合、僕は全力で君たちを追いかける事になるね」

『ひいっ!?』

「さあ、レナ君を追いかけようとした理由を話してもらおうか……くしゅんっ!!」



決め顔で不良生徒達を止めたアルトではあるが、最後の最後で水に濡れたせいでくしゃみを行ってしまう――





――途中で別の場所でバケツに水を汲む事に成功したレナはグラウンドに戻ると、デブリの顔に水をかける。その結果、意識を取り戻したデブリは目を見開く。



「ほら、起きてデブリ君!!」

「ぶはぁっ!?な、何だ!!津波か!?」

「あ、起きた……たく、もうすぐ試合が始まるぞデブリの兄ちゃん!!」

「し、試合!?あれ、僕は確か……闘技台にいたはずじゃ?」



状況を理解し切れていないデブリは自分が個人戦で敗北し、大怪我を負って気絶した事も覚えていないらしく、とりあえずは簡単にレナ達は事情説明を行う。次の団体戦の視界開始時刻まで数分まで迫り、各々は闘技台の前へ移動を行う。


魔法科の生徒の方も全員参加するらしく、新しい制服に着替えたゴマンと気絶から目覚めたチョウも復帰していた。残りの3名の内、ドリス以外は今日初めて試合に出場する選手だった。



「やあ、騎士科の生徒諸君。次の試合、よろしく頼むよ」

「へっ、ズタボロにしてやるぜ」

「……どうも」



残りの2名の選手は片方はアルトと同じように金髪の髪の毛に優男風の男子生徒と、魔術師というよりは剣士や戦士のような恰好をした強面の大男が挨拶を行う。


最初の男子生徒は同学年の男子の中でも最も成績が優秀であり、ドリスと同じくエルフらしく耳元が細長く尖っていた。


もう一方の男子生徒の方はレナ達は顔を見ても疑問を抱き、魔法科の生徒の成績上位者の中に彼らしき人物が居た事は記憶にない。だが、魔法科の代表として選ばれるぐらいなのだからただ者ではないはずだが、どうしても顔に見覚えがない。



(シノ、この人知ってる?)

(知らない、魔法科の生徒の代表になりそうな人たちは調べ上げたけど、この男子生徒は入っていない。多分、成績が低かったのか、もしくは私のように学園を一時期離れていた可能性がある)



忍者なので調べものが得意で情報に精通しているシノでさえも男子生徒の顔を知らないらしく、魔法科の生徒である事は間違いないだろうが、正体が分からない以上はレナは直接訪ねる事にした。



「すいません、名前を聞いてもいいかな?」

「ああ?俺に聞いてんのか?俺の名前はウカンだ。よろしくな先輩」

「え、先輩って……」

「俺は昨日、この魔法学園に入学したばかりだ。ちなみこう見えても13才だ」

「13才!?」

「ええっ!?」

「じゃあ、僕達よりも年下なのか!?」

「…………それは驚いた」

「マジかよ……」



男子生徒は明らかに外見年齢は18才ぐらに見えたが、彼曰く年齢はレナ達(コネコを除く)よりも年下だと自称する。





※アルト「レナ君、今回の件は忘れないぞ(#^ω^)ピキピキ」

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