第170話 試合の勝敗は……
「なんて酷い……この状態だと回復薬は飲み込めない!!すぐに回復魔法を施すぞ!!」
「君たちも彼を運ぶのを手伝ってくれ!!」
「それなら俺が……持ち上げるよデブリ君!!」
「うおっ……な、何て怪力だ!?」
レナが気絶したデブリを付与魔法の力を利用して抱えると、治癒魔導士はレナが腕力だけで持ち上げたように見えたので驚き、その間にもレナは急いで場外へ運び込む。その様子を見送ったゴマンはため息を吐き出し、本当にデブリに殺されると思った。
「は、ははっ……何だ、もう気絶していたのか。驚かせやがって」
「何を勝ち誇ってんだお前……股間を濡らしてる癖に偉そうにすんなよ」
「情けない男」
「……最低」
「えっ……!?」
去り際にコネコ達に罵声を浴びせられたゴマンは自分の股間を見て見ると、何時の間にか黄色い液体が滲んでいる事に気付き、慌てて股間を隠す。そんな彼の情けない姿に女性陣は冷たい視線を向け、急いでデブリの元へ向かう。
残されたゴマンは自分が試合中に失禁したという事実に恥を掻き、しっかりと監視水晶を通して全校生徒に自分の情けない姿が映像として流れていた事を知って頭を抱える。だが、そんな事よりも彼の心の中には迫りくるデブリの最後の表情が忘れられなかった。
「畜生……!!」
試合には勝ったが、勝負では完全に負けていた事を知ったゴマンはその場で項垂れ、係りの者が退出を命じるまで動くことは出来なかった――
――試合に関してはゴマンが事前に決めた決闘では彼が尻もちを着いた時点でデブリの勝利といえたが、生憎ながら監視水晶では二人の会話までは聞き取れず、結局決闘の条件は伝わってはいなかった。
試合内容はゴマンが終始優勢に立っており、更にデブリが気絶した事を考慮して結局は学園側はゴマンの勝利を認める。しかし、彼のあまりにも情けない姿は全校生徒の前で晒され、生徒達は失禁したゴマンに対して冷たい反応を見せる。
「あいつ、普段は偉そうにしてるくせに……しょんべんなんか漏らしやがった」
「魔法科の生徒の恥だわ!!」
「恥ずかしい……あんなのが魔法科の代表なんて認めたくもない」
その一方で傷だらけになりながらも最後まで闘志を燃やし、あと一歩という所まで追い込んだデブリは生徒からは褒め称えられる。
「デブリの奴、あんなに凄い奴だったのか!!」
「正直、あんな恰好をしているからダサいと思っていたけど、最後は本当に格好良かったわ」
「人間は外見じゃない、重要なのはやっぱり中身なのね」
「デブリ君、大丈夫かしら……」
「あんな人に守ってもらえたら、心強いだろうな……」
デブリの勇姿は騎士科と魔法科など関係なく生徒達に好感を持たれ、デブリの安否を心配する人間も大勢いた。彼の治療は治癒魔導士が行っているが、あまりに負傷が大きく、完治するのに時間が掛かりそうだった。
個人戦は魔法科の生徒の勝利で終わったが、続いて「共闘戦」が行われるまで10分程度の休憩が挟まれ、その間にレナ達は次の選手は誰が行くのかを決める。
「よし、次は僕が行くよ!!デブリ君の分まで頑張る!!」
「ミナ……そうだね、なら次の試合はミナに任せようか」
デブリの勇姿を見てミナもやる気が溢れ、共闘戦の出場を決意する。彼女の熱気に押されてレナはミナの出場を認めると、シノも手を上げる。
「次の試合、私も出たい」
「シノ?」
「ちょっと待てよ、それならあたしだって……」
「駄目、どうしても気になる事がある。だから私が出る」
コネコが異議を申し立てようとしたが、シノは次の試合に自分が出る事を告げると、魔法科の代表選手に視線を向けた。相手側は既に出場者は決まっているらしく、今度の相手は男女二人組だった。
どちらの生徒もレナは顔と名前に見覚えがあり、先日の入学式に後に行われた試験で二人ともゴマンよりも成績が上位の優秀な魔術師で間違いなかった。片方は長身の少年でレナよりも頭一つ大きく、随分と長い杖を所持していた。もう一人の少女はミナと同世代の少女であり、こちらは杖ではなく魔法腕輪を装備していた。
また、女子生徒の方は特長的な髪形をしており、ツインテールに纏めている髪の毛がドリルのような形をしていた。魔法科の女子生徒の中でも一際顔立ちが整っている事から有名人であり、男子生徒からも人気が高い。
「あの変わった髪型の姉ちゃん、兄ちゃんみたいに魔法腕輪を装備してるな……もしかして付与魔術師か!?」
「いや、この学園に俺以外に付与魔術師の生徒はいないはずだけど……」
基本的に「砲撃魔法」を得意とする魔術師は魔法腕輪ではなく、杖を好んで装備を行う。そもそも魔法腕輪はあくまでも魔法の力を補助する機能しか存在せず、杖と違って攻撃に利用する事は出来ない。
魔法科の生徒の事に関してはレナ達もあまり知らず、彼女がどのような魔法を得意とするのかも分からない。そんな相手だからこそシノは自分が出向くことを伝える。
「レナは私達の大将、相棒のコネコは副将、ここは次鋒と中堅の私に任せる」
「俺、大将だったの?」
「あたしが副将か……へへ、そういわれると悪い気はしないな」
「……ちょろいっ(ぼそっ)」
コネコを宥めたシノはミナと共に闘技台へ向かい、教師に準備が整ったことを伝える。両陣営の選手の準備を整ったことを確認したマドウは頷き、時間を迎えると試合開始の準備を行う。
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