第171話 共闘戦
『では、これより対抗戦第二試合、共闘戦を行う!!両選手、準備は整ったな?では、試合開始!!』
数分後、闘技台に移動した選手たちが試合の準備を終えると、マドウが試合開始の合図を行う。ミナはシノに顔を頷くと、事前に取り決めた作戦通りに二人は敢えて分かれて行動を行う。
『私の情報だと対戦相手の生徒はどちらも火属性の魔法を得意とする。男の子の方は前回の試験の時に実技試験で3位、女の子の方は2位を取っている』
『じゃあ、二人は火属性の魔法の使い手なの?』
『一応はどちらも他の属性の魔法も扱えるけど、最も得意とするのが火属性。火属性の砲撃魔法は威力も高いし、応用性も高い。但し、雷属性のような速攻性には劣るから冷静に対処すれば避ける事は私達には難しくない。障害物を盾にして逃げるのも手』
『なるほど……なら、僕達はどうすればいい?』
『定石通りに行くなら一緒に行動するのが妥当、だけど私の場合は隠れるのが得意だから、ここは二手に分かれる。ミナが注意を引いている間、私が背後から仕留める……でも、この作戦はミナを囮役になって貰う事になる』
『分かった、そういうのなら僕の得意分野だから任せて!!』
『ありがとう、なら任せる』
囮役を言いつけられてもミナは全く気にせず、不意打ちや奇襲よりも正面から挑む方が好きなミナだからこそ、シノの作戦を聞いたときに囮役に真っ先に賛成した。忍者であるシノは正攻法よりも奇襲の方を得意とするため、囮役に関してはミナを信頼して行動を開始する。
二人は別れると早速ミナは行動を起こし、大胆にも闘技台に設置されている土塊に乗りあげて周囲の状況を把握した。普通ならば身を晒すような真似は危険なのだが、ミナの場合は囮役として敢えて目立つ行動を取った。
(この位置なら闘技台を見通せると思ったけど、何処に隠れているのかな……)
頻繁にレナに付き合って大迷宮の荒野へ赴くミナはこのような障害物が多い環境へ赴く事は慣れており、むしろ岩山だらけの荒野と比べればこの程度の大量の土塊が設置された闘技台など彼女にとっては大きなデメリットにはならない。
槍騎士は騎士職の中でも攻撃力と機動力が優れており、運動能力に関しては暗殺者や盗賊にも劣らない。ミナは土塊の上を跳躍し、場所の移動を行いながら二人の生徒の位置を探る。そして遂に岩陰に隠れている生徒の一人を見つけた。
(居た!!あそこに隠れている!!)
土塊に身を隠している男子生徒を発見し、彼女の記憶が確かならば「チョウ」という少年は未だにミナには気づいていないのか、あらぬ方向へ視線を向けていた。そんな彼に対してミナは攻撃の好機だと判断し、槍を握り締める。
(いつもの槍じゃないから扱いにくいけど、近付けば魔法を撃つ前に対処できる!!)
ミナは魔術師と戦闘を想定した訓練も受けており、ある程度の距離まで近付ければ彼女は魔術師が魔法を放つ前に先に仕留められる自信はあった。
今のミナならば5、6メートルも近づけば相手がどのような魔法を使おうとしても、先に攻撃を仕掛けて中断できる。
土塊を飛び降りるとミナは男子生徒に目掛けて失踪し、攻撃を仕掛けようと槍を握り締めた。だが、不意に彼女は直感で背後から危険を感じ取り、振り返る。すると、そこには杖を構えた状態で立ち尽くす女子生徒が存在した。
「油断しましたわね!!」
「くっ!?」
ドリルを想像させる髪の毛を震わせながら女子生徒は男子生徒に向かったミナの背後から右腕を構え、魔法を発動させる準備を整える。敵の隙を突いたつもりだが、自分が罠に嵌められたことを知ったミナは咄嗟に槍を構え、防御の体勢を取る。
「火球!!」
「大車輪!!」
少女の魔法腕輪が光り輝くと、掌から文字通りに球体型の炎の塊が誕生し、更に巨大化した炎の塊がミナに向けて解き放たれた。外見はムノーが使用した「ファイアボール」と酷似しているが、彼の魔法よりも少女の魔法の攻撃速度が早く、一気にミナの元へ向かう。
普通の魔術師ならば杖を構えて魔法を発動させるが、少女の場合は魔法腕輪を利用して掌を通して魔法を瞬時に発現させることができるらしい。しかし、ミナも元魔導士であるムノーの攻撃魔法でさえも受け切った「大車輪」を発動させ、手元で槍を高速回転させて正面から迫る炎の塊を振り払う。
ミナが扱う「大車輪」は防御に特化した戦技の一種であり、場合によっては魔法を防ぐ事も出来る。炎の塊を高速回転させた槍で周囲に拡散させ、炎を振り払おうとするが、ここでミナはミスを犯す。
(熱っ……しまった、この槍は僕の槍じゃないんだ!?)
普段のミナが使用している槍は魔法耐性が高い素材で構成された「螺旋槍」と呼ばれる槍か、三又のミスリル製の槍である。前者はミナの家に伝わる家宝に対し、後者は前にミナがレナのミスリルの素材の回収を手伝ったときに受け取った代物である。
どうして二つの槍を使い分けているのかというと、螺旋槍は本来は家宝なので持ち出す事自体が問題視されていたため、ダリル商会のムクチが作り出した三又の槍を彼女は装備していた。しかし、今回の対抗戦の試合で用意される武器はあくまでも鋼鉄製の槍であり、魔法の炎の影響を受けて発熱してしまう。
攻撃を防ぐ事に成功したミナではあるが、発熱した槍を握り締めていた両手は火傷を負ってしまい、あまりの痛みに表情を歪ませる。それを見た女子生徒の「ドリス」という名前の少女は笑みを浮かべ、男子生徒の方へ声を掛けた。
「さあ、チョウさん!!今の内に仕留めるのです!!相手はもう動けません事よ!!」
「くっ……!?」
ドリスの言葉を聞いてミナはここまでかと思ったとき、何故か男子生徒は一言も喋らず、それどころかゆっくりと身体を傾けたかと思うと、最終的に倒れてしまう。その様子を見てミナとドリスは驚くと、男子生徒の背後から短剣を構えたシノが現れた。
「……隙だらけだったから、もう気絶させた」
「シノちゃん!?」
「な、何ですって!?」
既に相方が敗北していた事にドリスは驚き、ミナは歓喜の声を上げる。
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