第169話 力士の意地

「インパクト!!」

「ぐあっ!?」



空中に放り投げた石が落ち切る前にゴマンはデブリに向けて先ほどの衝撃波を杖先から放ち、その過程で衝撃波に巻き込まれた石は地面へ叩きつけられ、デブリの身体は背後へ大きくのけ反る。


風属性の生み出した衝撃波は強烈な威力を誇り、常人ならば吹き飛んでいただろう。だが、デブリはどうにか腕を交差して耐え切ると、あと少しで背後に存在する土塊に衝突する寸善で立ちどまる事に成功した。



「ぐうっ……ひ、卑怯だぞ!!」

「何を言っている?ちゃんと石は地面に落ちただろう?つまり、もう決闘は始まってるんだよ!!インパクト!!」

「ぐうっ!?」



続けてゴマンはデブリに向けて再度同じ魔法を放ち、今度はデブリも耐え切れずに土塊へと衝突してしまう。岩石並みの硬度を誇る土塊に衝突したデブリの背中から血が迸り、生徒達は悲鳴をあげる。


映像を見ていたレナ達には二人の会話までは聞き取ることが出来ず、一方的にデブリがやられているようにしか見えなかった。しかし、デブリは諦めるつもりはなく、靴を脱ぎ去ると裸足になってゴマンの元へ向かう。



「ゴマン!!」

「くっ、まだ動けるのか!?」



2回も砲撃魔法をまともに受けても気絶するどころか向かってくるデブリにゴマンは焦り、再び魔法を発動させようと杖先を構える。しかし、今度は風属性の魔法ではなく、雷属性の魔法を使用して攻撃を行った。



「ボルト!!」

「ぐああっ!?」



衝撃波を予想していたデブリの肉体に電流が放たれ、身体が痺れて感覚が麻痺したデブリは危うく倒れそうになった。しかし、どうにか踏み止まると身体のあちこちを火傷しながらもゴマンと向き合う。


普通の人間ならば下手をしたら死んでいてもおかしくはないほどの電圧を受けたはずだが、デブリは精神力だけで持ち直し、ゴマンが立つ場所へ歩み寄る。その彼の姿にゴマンは圧倒されるがかけるが、すぐに気を取り直して杖を構える。



「ご、まん……!!」

「は、ははっ……驚いたか!?俺は雷属性も使えるんだよ!!まあ、昨日までは碌に扱えなかったんだけどな……」

「なん、だと……?」



ゴマンの言葉にデブリは疑問を抱くが、そんな彼にゴマンは自分がまずい事を口走ったのを理解したのか慌てて口元を抑え、デブリを睨みつける。



「さっさと気絶しろ!!ボルト!!」

「ぐあっ!?」



休みなくデブリに対してゴマンは砲撃魔法を放ち、デブリの肉体に再び電流が襲い掛かる。しかし、最初のと比べても電圧は弱まっており、しかもゴマンの肉体から尋常ではない汗が噴き出す。自分の身体の異変にゴマンは気づいておらず、汗を流しながらも杖を構えたままデブリと向かい合う。


一方で再度電撃を受けたデブリは身体が麻痺して動く事もままならないが、それでも地面に倒れる事はなくゴマンを睨みつけた。その気迫は一流の戦士にも劣らず、あまりの彼の気迫にゴマンの方が精神的に追い詰められていた。



「はあっ、はっ……く、くそ!!なんで倒れないんだ……!?」

「う、ぐぅっと……!!」



魔術師の扱う「砲撃魔法」は攻撃力に優れている分、魔力の消耗量は付与魔法の比ではなく、連発すれば魔力の消費が当然激しくなり、威力も落ちてしまう。ここまでに計5回も砲撃魔法を繰り出したゴマンも疲労が蓄積されていた。


それでも彼は杖に取りつけている魔石のお陰で自分の砲撃魔法の攻撃力の強化、更には魔力の消耗量を抑えている。しかも彼が所持している杖は学園側が用意した代物だが、装着されている魔石に関しては全くの別物だった。



(こいつらに勝つために高い金を払って、特製の魔石を用意してイヒド先生に頼んで俺達に渡す杖の魔石と付け替えさせたんだ……なのに、どうしてこいつは倒れない!?)



貴族であるゴマンは自分の両親に頼み込んで盗賊ギルドと裏取引を行い、特製の魔石を用意してもらう。通常の魔石よりも魔法効果を高め、それでいながら魔力の消耗量を抑える特別な魔石を用意させた。


レナとミナが目撃した彼が路地にて相対していた人物は盗賊ギルドの人員であり、魔石を受け取る場面を二人に見られていた。だが、その事を露とも知らずにイヒドは盗賊ギルドが用意した魔石を利用してデブリを追い詰める。



「さあ、これで止めだ……素直に敗北を認めるなら許してやってもいいぞ!!」

「一つ、言いたいことがある」

「……何?」



ゴマンの言葉にデブリは半死半生の状態で立ち尽くし、彼を正面から睨みつける。重傷者が発するとは思えない程の気迫を放つデブリにゴマンは彼の背中に「金剛力士像」の姿を見出す。



「真の力士はどんな事があろうと、地面に倒れる事は無い……覚えておけ!!」

「ひいっ!?」



デブリは最後の力を振り絞り、ゴマンに向けて歩み寄る。その光景を見たゴマンは怯えて魔法を発動させようとするが、使用しようとした瞬間に魔石に亀裂が走り、砕け散ってしまう。



「なっ!?こ、壊れ……うわぁあああっ!?」

「どすこいっ!!」



ゴマンは魔石が壊れた事で魔法を発動させる事が出来ず、そんな彼に対してデブリは掌底を放つ。迫りくるデブリの右手にゴマンは目を閉じて尻もちをついてしまい、結果的には彼の頭上にデブリの右腕が通り過ぎる。


一歩でも動けば敗北を認めると宣言したゴマンは座り込んでしまい、そのまま頭を抱えてしまう。だが、いくら待ってもデブリの追撃が来ない事に気付いた彼は顔を見上げると、そこには立ち尽くした状態で動かないデブリの姿が存在した。



「えっ……き、気絶している?」

「デブリ君!!」

「大丈夫かデブリの兄ちゃん!?」

「試合終了だ!!すぐに治療を行う!!」



ゴマンはデブリが立ち尽くした状態で気絶している事に気付き、呆気に取られた。そんな二人の元にレナ達と、治癒魔導士が駆けつけ、即座にデブリの治療を行う。

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