第168話 ゴマンの挑発

――デブリは闘技台に設置されている土砂の塊に触れ、その硬度を肌で感じ取って本物の岩石にも劣らぬ頑丈さを誇る事に気付く。高密度に圧縮された土砂の塊に触れたデブリはこれならば大抵の魔法は防ぐ事が出来ると判断した。


仮にも大魔導士のマドウが用意した代物のため、そう簡単には魔術師の砲撃魔法でも破壊は出来ないと考えるのが妥当だろう。



(ゴマンの奴め、何処へ隠れた?見つけ出したら一発で仕留めてやる!!)



力士の称号を持つデブリは外見からあまり早く動けないように見られがちだが、実際の所は彼の体重を支える両足の筋肉は発達しており、その気になればデブリは100メートルを10秒で切る速度で動く事もできる。だが、身体が大きい分だけ障害物に隠れにくく、見つかりやすい。



(くそう、隠れるの僕の性に合わない!!だが、下手に飛び出せば魔法の餌食にされる……どうすればいいんだ?)



デブリの得意とするのは正面から挑む戦闘だが、相手が遠距離攻撃を得意とする魔術師、しかも障害物のせいで周囲の状況を把握しにくいという点ではデブリにとって闘技台の環境は良いとはいえない。


障害物を利用して魔法を防ぐという手段もあるが、そもそも相手の位置を把握出来なければ意味はなく、不意打ちで魔法を撃たれたらデブリに対抗手段はない。だからこそ相手よりも先に敵の位置を探るのが重要なのだが、巨体である分にデブリの方が見つかりやすいという弱点があった。



「おい、デカブツ!!こっちだ!!」

「何っ!?」



デブリは声の方向に振り向くと、何時の間にか10メートルほど離れていた場所にゴマンが立っており、彼は闘技台の「土塊」をよじ登って周囲の状況を把握し、デブリの姿を先に発見して杖を構える。



「くっ!!」

「おっと、安心しろ。攻撃するつもりならお前に声を掛けたりなんかしない!!大人しく出てこいデカブツ!!」

「何だと……?」



ゴマンの言葉にデブリは訝しみながら土塊から姿を現すと、本当に攻撃するつもりはないのかゴマンは両手を上げ、自分も土塊から下りる。その様子を映像水晶を通して見ていた生徒達は訝しみ、観客席の教師たちもざわつく。


わざわざ敵の姿を発見したのに攻撃を仕掛けなかったゴマンに対してデブリは警戒心を解かずに向き合うと、ゴマンはそんな彼を指差して宣言を行う。



「デブリ!!俺は試合ではなく、決闘をお前に挑む!!」

「決闘、だと!?」

「そうだ!!お前と俺、どちらが強いのかをはっきりとしてやる!!だが、その前に決闘の場を用意しないとな!!」



決闘を宣告したゴマンは杖を取り出すと、彼は杖先に風属性の魔力を迸らせ、風属性の砲撃魔法を発動させた。



「インパクト!!」

「うおっ!?」



杖先から強烈な衝撃波を想像させる突風が発生し、闘技台に存在した土塊の一部を吹き飛ばす。そのあまりの風の強さにデブリは後ずさり、予想外の魔法の強さに驚きを隠せない。



(なんだこの威力は!?まるでレナの魔法みたいだ……!?)



予想以上の強烈な威力を誇る魔法にデブリは戦慄し、その一方でゴマンの方も額に汗を滲ませながら振り返る。彼の魔法によって闘技台の土塊の一部が吹き飛んだ事で障害物が存在しない場所が生まれた。


先ほどデブリが確認した限りでは魔法科の生徒の砲撃魔法でも耐えきれると判断したが、ゴマンの場合は土塊をあっさりと吹き飛ばしてしまう。


彼の実力は噂では聞いていたが、まさかレナの「反発」と同等かそれ以上の威力を誇る衝撃波を生み出せるとは思わなかった。



「デブリ、お前は魔術師は誰かに守られていないと戦う事も出来ないといったな!?なら、その言葉を実現してみろ!!」

「どういう意味だ!?」

「ここだ!!この場所でお前は俺に正面から挑んで来い!!俺もここから一歩でも動かせたらお前の勝ちだ!!だが、お前が俺に触れる事はあり得ない!!何故ならお前が近づく前に俺がお前を魔法で倒すからだ!!」



ゴマンは自分が作り出した障害物が存在しない位置に移動を行い、デブリもこの場所に来るように促す。ここでデブリはゴマンの目論見に気付く。敢えて挑発するような真似をしてデブリのプライドを刺激し、逃げないように戦わせようと誘導しているのだ。


デブリは決闘と称してゴマンが自分にとっては有利な環境で戦う様に扇動している事に気付き、そんな見え透いた罠に乗るつもりはなかった。だが、ゴマンはデブリに対して挑発を続ける。



「どうしたデブリ?俺が怖いのか!?やっぱり、騎士科の生徒は腑抜け揃いだな!!」

「何だと!!」

「怖くないというのならさっさと来い!!一歩でも俺を動かす事が出来たらお前の勝ちだ!!さあ、早くかかってこい!!」

「このっ……ぶっとばしてやる!!」



自分だけではなく、騎士科の生徒全員を侮辱する言葉にデブリは怒りを抱き、頭に血が上って挑発に乗ってしまう。そんなデブリにゴマンは笑みを浮かべ、デブリと向かい合う。


お互いに10メートル程離れた位置で向かい合い、正面から杖を構えるゴマンに対してデブリは相撲の「仕切り」を行い、ゴマンを睨みつける。その迫力にゴマンはたじろくが、彼は足元の小石を拾い上げる。



「いいか、この石が地面に落ちた時、決闘の開始だ!!」

「いいだろう!!但し、僕が勝ったら二度と騎士科の生徒を馬鹿にするなよ!!」

「ああ、約束してやる。だが、俺が勝ったらお前は魔法学園を退学しろよ!!」

「何だって……!?」

「さあ、行くぞ!!」



デブリの承諾を得る前にゴマンは石を上空へ向けて投げつけ、それを見た反射的に上空へ投げ出された石に意識が移ってしまう。しかし、それを予測していたゴマンは先に杖を構えた。

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