第167話 対抗戦〈個人戦〉

「レナ、最初に出場する選手を誰か決める」

「確か、さっき先生の話によると最初に行われるのは個人戦という話だったよな。兄ちゃんは誰が出場した方がいいと思う?」

「そうだな……」



シノとコネコの言葉にレナは皆を振り返り、誰が出場するべきか悩む。ちなみに各試合に同じ選手が出場し続けるのも問題はなく、どんな組み合わせであろうと最終試合の団体戦には全員参加なので必ず出場選手は試合に出る決まりになっている。


また、個人戦と共闘戦はどちら側が連勝したとしても団体戦まで行われる決まりとなっており、対抗戦の勝敗は敗北した選手が多い側が敗北とみなされる。例えば個人戦と共闘戦で敗北した場合は通算で3人の選手が敗北したという事で「3敗」と判断され、仮に団体戦に出場しても相手よりも先に2人の選手が倒された場合は通算で「5敗」つまりは出場選手と同じ数の敗北を喫した場合、その時点で試合は終了して相手側の勝利と認められてしまう。


だが、逆に言えば個人戦と共闘戦で敗北したとしても、団体戦で相手全員を倒して被害を1人までに抑えれば通算「5勝4敗」という事で逆転勝利を収める事も出来た。つまり、対抗戦で最も重要なのは団体戦であり、個人戦と共闘戦の場合は最悪の場合は負けたとしても逆転の目途は残る。



(個人戦と共闘戦を勝てば有利にはなるんだけど、そうなると誰が出るのが一番かな……)



レナとしては自分が出るべきかと考えたが、今回の対抗戦の武器に関しては学園側が用意した代物しか扱えず、現在のレナは普段装備している武器は持ち合わせていない。


魔術師との戦闘で優位に立てると思われる魔銃も扱う事が出来ず、闘拳や籠手やブーツ、更に鎖帷子の類も使用は禁じられている。現在のレナは右手に学縁側が用意した訓練用の闘拳を装備しているだけであり、その他には何も身に着けていない。



「よし、ここは僕が出るよ!!こういう場所で戦うのは大迷宮で慣れてるからさ、すぐに相手を見つけ出して倒してみせるよ!!」

「いや、ここは私の出番。この闘技台は忍者の私にとっては身を隠す場所が多くて戦いやすい」

「ちょっと待てよ、それならあたしの方が適任だって!!この中だとあたしが一番小さくて隠れやすいし……」



女性陣は自分が出場すると騒ぎ出し、全員が相手が魔術師であろうと勝ち抜く自信はあった。そんな彼女達を見てレナはどうするべきかデブリに尋ねようとすると、何故かデブリは上着を脱ぎ捨てて闘技台の方へ先に向かう。



「ここは僕が行く……どうやら相手も僕を指名しているようだしな」

「ふんっ……さっさと来い、落ちこぼれめ」



デブリの視線の先には彼と同じように闘技台の前に立つゴマンの姿が存在し、デブリに対して挑発するかのように教師陣に気付かれないように中指を立てる。安い挑発だと分かってはいるが、デブリは引きさがれずに彼の元へ向かう。


二人の選手が前に出ると同時に正午の合図を示す学校の鐘の音が鳴り響き、学園長が拡音石のマイクを取り出すとこれより対抗戦を開始することを発表した。



『時刻が訪れた!!では、これより騎士科と魔法科の対抗戦を行う!!最初に出場する選手は闘技台に上がれ!!』

「さっさと来い、デブ!!」

「望むところだ、ガリガリ野郎!!」



デブリとゴマンが闘技台へ乗り込むと監視水晶を通して映像水晶が空中に画面を映し出す。全生徒の前で闘技台に降り立つ二人の姿があらゆる角度で映し出され、デブリとゴマンは指定された位置まで移動を行う。


障害物が多く、身を隠す場所が多い闘技台は一件は騎士科の生徒に有利に思われるが、実際の所は相手から隠れて攻撃ができるという点は魔法科の生徒にも決して不利とは言えない。魔法を発動させる際にどうしても隙が生まれてしまう魔術師にとって、身を隠す場所が多い環境は決して悪くはない。



『両者、準備はいいな?では、試合を始める!!個人戦、開始ぃっ!!』



マドウの言葉が闘技台に響き渡ると、早速だが二人は動き出し、まずはお互いに相手から身を隠すために障害物の背に隠れる。映像水晶が映し出す画面は闘技台からは確認出来ないが、観客席や生徒の前では二人がどのように行動しているのかがよく分かった。



「二人ともあんまり動かないな……」

「下手に動けば相手に見つかりやすい。だけど、動かなければ相手の位置を掴めない」

「しかも魔術師は遠距離攻撃が出来るから、先に見つかると厄介だからね……案外、この闘技台の環境は魔法科の生徒の方が有利かもしれないね」

「どうかな……魔法を発動されても身を隠す場所も多くあるし、場合によっては相手に気付かれずに不意打ちもできるから騎士科の生徒にも不利とは思えないよ」

「どちらの生徒にとっても長所と短所がある。この闘技台、意外とよく考えて作られてる」



シノ曰く闘技台に障害物を設置するだけで騎士科と魔法科の生徒のどちら側も公平な条件で戦えるようになっており、この闘技台の障害物を上手く活用した人間が勝利する可能性が高い。

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