第165話 対抗戦開始1時間前

――翌日、魔法学園の全生徒はグラウンドに呼び出され、教師と共に学園長のマドウが姿を現す。彼は生徒の前で対抗戦の開始を正午に行う事を宣言し、試合方式と規則の説明を行う。


マドウは拡音石という風属性の魔石の一種で、声を大きくさせる魔石が取りつけられた小杖を利用して説明を行う。既に全校生徒の最前列にはレナ達と魔法科の生徒5名が立っており、全校生徒というよりは彼等に対してマドウは話しかけるように説明する。



『対抗戦の試合方式は1対1の「個人戦シングル」2対2の「共闘戦タッグ」最後に5名全員で戦う「団体戦バトルロイヤル」の3つを行う。尚、試合で負傷した選手はこの国の中でも腕利きの治癒魔導士を用意させているので安心しろ』



マドウは同行させた数名の治癒魔導士の紹介を行い、試合中に負傷した生徒の治療に関しては万全の準備を整えていることを約束した。



『対抗戦で使用する武器、杖の類はこちら側が用意した物だけを利用してもらう。試合の勝敗は相手を気絶させる、あるいは降参を宣言させるのみ、それと試合場として利用される闘技台から落ちた場合は場外負けとし、試合中に外部の人間が力を貸す事も反則とする』



試合の規則が発表され、同時に試合が行われるのは「闘技台」と聞いて騎士科の生徒達は安心した表情を浮かべ、一方で魔法科の生徒は眉をしかめた。


騎士科の生徒は闘技台を訓練場として普段から頻繁に利用しているのに対し、魔法科の生徒は実戦の授業以外では滅多に闘技台へ上がる事はない。その点に関しては普段から戦い慣れている騎士科の生徒が有利に思われたが、マドウは生徒たちの表情を見て察する。



『ここで儂の告げた闘技台に関しては魔法学園の敷地内に既に存在する物ではなく、この日のために用意しておいた新しい闘技台で生徒諸君には力を競い合ってもらう。すまないが先生方、生徒達を離れさせてくれ』



生徒の不満を見抜いたのかマドウは教師に命じて生徒達を魔法科と騎士科に分け、左右に離れるように指示を出す。


そして彼は台から下りると杖を掲げ、老人が発するとは思えぬほどの迫力のある声で叫びながら杖を地面に突き刺す。



「広域魔法、アースフィールド!!」

『うわっ!?』



マドウが杖を地面に突き刺した瞬間、強烈な振動が走り、生徒達は地震が起きたのかと錯覚した。しかし、すぐに勘の良い生徒はマドウが握り締める杖に取りつけられている「土属性の魔石」が光り輝いてる事に気付く。


杖に取りつけられた魔石の発光が強まるにつれて振動も大きくなると、やがてグラウンドの地面が隆起し、地中の中から巨大な四角形の「闘技台」が出現した。規模は学園内に存在する闘技台の5倍は誇り、更に障害物となるような岩石のように練り固まった土砂の塊が存在した。


闘技台が完全に出現するとマドウは杖を取り去り、自らが闘技台の上へと移動を行う。そして彼は闘技台を見上げる生徒達に最後の説明を行う。



『対抗戦に出場する選手はこの闘技台にて戦ってもらう。障害物を利用して身を隠すのもよし、敵に気付かれぬように移動し、攻撃を仕掛けるのもよし、あるいは障害物を破壊して相手を探すのも手段じゃ。この闘技台を上手く活用できた人間こそ勝利を掴むと断言しよう!!』



マドウの言葉に生徒達は震え上がり、平然と巨大な闘技台を出現させた彼の魔法の力魔法科の生徒は尊敬の眼差しを見つめ、騎士科の生徒は圧倒されてしまう。そして土属性の魔法を使用したマドウに対してレナも少なからず、衝撃を受ける。



(凄い……これだけの質量の物を地面の中から出すなんて、まるで重力の勇者みたいだ)



レナは子供の頃に読んだ絵本に出てくる勇者の事を思い出し、今の自分には到底マドウの真似は出来ないと思い知らされる。


しかし、それはあくまでも今の時点の話であり、付与魔法を極めればいつかはマドウのような魔法ができるのではないかと希望を抱く。



ヒトノ国の頂点に立つ魔術師の魔法を見せつけられ、魔法科の生徒にも負けない程にレナはマドウを尊敬する一方、いずれ自分も彼の様に土属性の魔法を使いこなして見せると誓う。



『では対抗戦の説明はここまでとしよう。それと、この闘技台では他の生徒達にも見えにくい事を考慮し、闘技台の各地に「監視水晶」上空には「映像水晶」を用意させた。本来は防犯用の魔道具ではあるが、これを使えば闘技台で戦う選手の様子を確認出来る。対抗戦に出場しない生徒諸君も存分に楽しんでくれ』



マドウの言葉を聞いて同行していた兵士達が四角形と球体型の形をした水晶を取り出し、闘技台の各地へ球体側の水晶を配置すると、四角形の水晶が光り輝き、空中に液晶画面のような映像が映し出される。


この監視水晶と映像水晶も魔道具の一種であり、監視水晶が記録した光景を映像水晶に映像として表示させる本来は外敵からの監視用の魔道具だが、使い方によっては娯楽にも利用できる便利な魔道具だった。



『さあ、長ったらしい説明はここまでにしよう!!対抗戦の開始まで1時間は残っている、その間に生徒諸君は食事を済ませるといい』



学園長の言葉に生徒達は湧き立ち、まさかここまで大規模な催しになるとは予想もできず、対抗戦に出場する選手たちは緊張を隠せない。

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