第164話 新必殺技

「あ、行っちゃうよ!!どうするのレナ君?」

「どうするって……やっぱり調べないといけないと思うけど」



街道へ出たゴマンと路地の奥へ歩む謎の人物の様子を確認したレナとミナはどちらを追うべきか悩み、考えた末に怪しい人物の後を追いかける事にした。スケボを利用して空中を音もなく移動を行い、気付かれないように細心の注意を払う。


しばらくの間は建物の屋根の上から様子を伺っていたが、フードで全身を覆い隠した人物は突如として建物の中に入り込み、見失ってしまう。慌ててレナとミナは路地へ降りようとしたが、不意にレナは嫌な予感を覚えて降下を中断する。



(この感覚……何かまずい!!)



本能的に危険を察したレナはスケボを上昇した瞬間、後方の方角から矢が放たれる。咄嗟に回避する事には成功したが、もしも不用意に路地へ降りていたら狙い撃ちにされていただろう。



「わあっ!?ど、どうしたのレナ君?」

「矢が……あっちからか」



レナは咄嗟に魔銃を引き抜いて構えると、建物の屋根の上に何者かが立っている事に気付き、銃口を構える。だが、既に相手の方が先に行動していたらしく、撃たれる前に建物から飛び降りて回避に成功する。


下手に発砲すれば周囲の建物に暮らす人間を驚かせるため、仕方なくレナは周囲の警戒を行い、他に自分達を狙う輩がいないことを確認すると魔銃を戻す。



「くそ、逃げられた……何者なんだ?」

「レナ君、どうするの?」

「……ここは逃げよう、嫌な予感がする」



手元を手繰り寄せる動作を行い、発砲した弾丸を回収するとレナはスケボを操作して退散する。これ以上に深追いすると取り返しのつかない自体に陥りそうだと判断し、残念ながら追跡を諦めて当初の目的通りに魔法学園へ向かう――





――レナ達は魔法学園のゴロウに問い合わせたところ、対抗戦の試合形式などは学園長の一存で決めるらしく、当日まで発表される事はないという。


一応はその旨を学園の掲示板に張り出したり、授業の後に説明も行われていたようだが、ここ最近は色々とあって学業に集中できていなかったレナ達は知らなかった。



「試合形式は教師にも連絡が入っていない。当日、学園長が伝える事になっている」

「そうですか……わざわざありがとうございます」

「待て、レナ。対抗戦の前にお前達に最後の稽古を付けてやる。今から闘技台へ来い」

「闘技台へ?」



闘技台とは魔法学園の騎士科の生徒だけが使用を許される特別訓練場であり、過去にレナが冒険者ギルドで試験を受けた訓練場と似ている。但し、闘技台が存在するのは室内ではなく、学園の敷地内の隅に存在し、地面の上に石畳が敷き詰められている。


この闘技台は生徒達の決闘でよく利用され、場合によっては授業の訓練の場に利用される事も多い。どうして屋外に存在するのかというと、実戦では屋内ではなく屋外で戦う事が殆どのため、敢えて室内でなく屋外へ設置する事でより実戦の近い環境に作り出された。


現在の時間帯は殆どの生徒が帰宅しており、校内には教師と数名の生徒しか存在しない。ちなみにこの数名の生徒は補習を言い渡された生徒達であまりに成績が悪いと学園側は退学を言い渡す事もあるため、生徒達も必死に成績が落ちないように勉学に励む。



「よし、訓練方式はいつも通りだ。お前の全力を俺に浴びせろ」

「はい、よろしくお願いします!!」

「先生、僕は……」

「ミナ、お前の相手は後だ。下がっていろ」



準備を整えたレナはゴロウと向き直ると、今回の彼はミスリル製の盾と鎧を身に纏い、いつになく装備を整えている事に気付く。生半可な攻撃ではゴロウの防御力を突破できないと考えたレナは最初から全力で挑む事にした。



地属性エンチャント二重強化ダブル三重強化トリプル!!」

「ほう、魔法の発動時間が大分早くなったな。だが、それで十分なのか?」



闘拳に紅色の魔力を纏わせ、通常時の3倍の魔力を込めたにも関わらず、レナはこれではまだゴロウには通じないと判断した。


将軍であるゴロウは巨人族の猛攻さえも受け切る耐久力と防御力を誇り、正面から殴りつけても簡単に防がれてしまう。



(どうする?この人に下手な小細工は通用しない)



闘拳を飛ばす、魔銃を撃ち込む、付与魔法で石畳を変形させて体勢を崩す、色々と手段はあるがどの方法もゴロウならば即座に対応すると考えたレナは無意識に拳を引く。


闘拳に付与魔法を纏わせたレナはどうするべきか悩み、そしてある方法を思い出す。もしかしたらこの方法を使えばゴロウの動作を封じることが出来るかもしれないと判断し、覚悟を決めたレナは握り拳を作っていた右手を開き、掌底の形へと変形させる。



「行きます!!」

「来いっ!!」

「レナ君、頑張って!!」



ミナの声援を受けてレナは駆け出し、ゴロウの大盾に向けて手を伸ばす。拳ではなく、掌底を繰り出そうとするレナにゴロウは一瞬眉を寄せるが、瞬時に攻撃を跳ね返すために彼も動く。



「はああっ!!」

「何……!?」



しかし、次の瞬間にレナの予想外の攻撃によってゴロウは大盾を手放してしまい、まともにレナの攻撃を受けて彼の身体が吹き飛ばされる事になった。



「ぐおっ!?」

「や、やった!?」

「えっ……な、何が起きたの!?」



闘技台の外まで飛ばされたゴロウを見てレナは冷や汗を流し、自分の両手を確認する。吹き飛ばされたゴロウも実際に試合を見ていたミナも何が起きたのか理解するのに時間が掛かったが、対抗戦の前日にレナは遂に新しい攻撃方法を編み出す事に成功した――

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