第163話 空を掛ける魔術師(大丈夫かこのタイトル……?)
「何かよく分からないけど、また兄ちゃんが新しい魔法の使い方を覚えたんだな?」
「そう、今の所は間接付与と名付けてる。そして、この間接付与の一番の使い道はこのスケボというわけ」
「ん、どういう意味だ?」
「まあ、見てれば分かるよ。ここだと何だし、外に行こうか」
レナは皆を連れて外へ出ると、全員の前でスケボに乗り込み、ブーツを履いた足をスケボに取り付けられた金具で固定を行う。
初めて乗ったので最初は少しバランスを取るのに苦労したが、体勢が安定するとレナは足元に付与魔法を発動させる。
「見ててね、
「うおっ!?」
「飛んだ!?」
付与魔法を発動した瞬間、ブーツ越しにスケボにも紅色の魔力が流れ込み、一気に急上昇を行う。
間接付与のお陰でわざわざ掌を触れて付与魔法を施し必要もなくなり、しかも移動中に魔法の効果が切れたとしても瞬時に次の魔法の発動が可能になったため、実質的に魔法が切れたら飛べなくなるという弱点はなくなった。
ある程度の高度まで上昇するとレナはスケボを下降させ、車輪を上手く利用して着地を行う。更に地上でも車輪を取りつけたお陰で自由自在に方向転換や移動を行えるようになり、十分な速度で移動が可能になる。
「ほらほら、こうして自由に動かせるよ」
「おお!!なんか凄い楽しそうだなそれ!!次、あたしも乗せてくれよ!!」
「いや、それは無理じゃないかな……これってレナ君の魔法で動かしてるんだよね?なら、他の人はあんな風には乗れないんじゃないかな」
「そういうと思って二人乗り用のスケボも用意してあるよ。皆も乗ってみる?」
「本当か!?なら、僕も乗れるのかな?」
「俺もか!?」
自由自在に動き回るスケボを見て他の者達も強い興味を抱き、我先にとレナと一緒に乗り込もうとする。だが、ここで本来の用事を思い出したシノが冷静に突っ込む。
「凄いと思うけど……対抗戦の試合方式は聞かなくていいの?」
『あっ……』
シノの言葉にスケボの前に群がっていた者達は声を上げ、全員が冷静になって魔法学園へ戻るために誰が向かうのかを話し合う――
――話し合いの結果、やはりスケボを乗りこなせるレナが適任だと判明し、一人で行動すると危険かもしれないので今回はミナも同行することになった。二人は路地をスケボで移動を行い、馬車よりも早く移動を行う。
「わあっ!?凄い凄い、こんなに早いんだ!!」
「しっかり掴まってて……障害物にぶつかりそうになったら空を飛ぶからね!!」
「う、うん!!こんな感じ……」
「ちょっ……それはくっつき過ぎかな」
ミナは興奮した様子でレナの背中に抱き着き、その際に彼女の豊かな胸が押し付けられ、お互いの頬を赤く染める。ミナは意外とたくましいレナの背中を感じ、一方でレナの方も改めてミナの事を女の子だと意識してしまう。
移動中、気まずい雰囲気にはなったがスケボは路地を抜けるとレナは上昇させ、建物の屋根の上を飛び越えながら移動を行う。単純に空を飛んで移動するだけだと前回の時の様に地上の人間から狙われやすく、敢えて不規則な軌道で飛ぶ事で追跡者の攻撃に備えて移動を行う。
「この調子ならあと30秒ぐらいで辿り着けるかな、これからはスケボで登校しようかな」
「あ、ずるいよ!!それってコネコちゃんと一緒に乗ってくるって事だよね!?僕も乗りたい!!」
「といっても、3人乗りは危険だからな……デブリ君を乗せた時でさえも危なかったのに」
スケボが乗り込める人数は限られ、せいぜい小柄なコネコとあと一人誰かを乗せる事は出来るが、2人以上の相乗りは難しい。
しかし、もっと大きな乗物を付与魔法で浮上させて動かす事が出来れば移動も楽になるのではないかとレナは考えた時、ミナが地上の風景を見て声を上げる。
「あれ……今の人、もしかして」
「どうかしたの?」
「ちょっとレナ君止まって……あっちの方に魔法学園の生徒を見かけたから」
ミナに言われるがままにレナは急停止を行うと、彼女の指し示す方向に視線を向ける。そこには路地の方で確かに魔法学園の生徒らしき学生服を着込んだ人間と、全身をフードで覆い隠した人間が何事かを話し合っていた。
音も立てずにレナは近くの建物へ降り立つと、下の様子を見て二人が何を話し合っているのか盗み聞きする。その際、ミナは生徒の方に視線を向けて驚いた表情を浮かべた。
「あの子……前にデブリ君と言い争っていた魔法科の生徒じゃない?」
「え、本当に?」
「ほら、学園長が来る前にデブリ君と喧嘩していた子だよ。確か名前は……ゴマン、だったかな?」
「言われてみれば確かに……けど、もう一人は誰だろう?」
人気のない路地でこそこそと内緒話を行う「ゴマン」という生徒と、謎のフードの人物にレナ達は疑問を抱き、様子を観察する。だが、話しあいは済んだのか即座に二人は離れてしまい、ゴマンの方は大きな布袋を抱えて街道の方へ向かう。
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