第162話 間接付与

「しょうがない、学園に戻って話を聞いてくるしかないか……」

「なら、あたしが行ってくるよ。この中で一番足が速いからな、すぐに戻ってくるよ」

「コネコ、ちょっと待って……時間もそろそろだし、皆はここで待っててよ。良い物を持ってくるから」

「良い物……?」



コネコが魔法学園に戻ろうとした時、レナは彼女を呼び止めると時計を確認して丁度良い頃合いだと判断し、屋敷の地下に続く階段を下りていく。地下には鍛冶師のムクチの工房が存在し、彼に何か用があるのかと全員が不思議そうな表情を抱く。


レナはそういうと階段を降りて工房へ向かい、一体何を持ち出してくるのかと全員が待っていると、レナは背中に板状の道具を持ち込んで戻って来た。



「これ、見てよ。ムクチさんに作って貰ったんだ」

「これは……盾か?」

「しかもこの色合い、ミスリル製?」

「兄ちゃん、どうしてこんな物を作って貰ったんだ?デブリの兄ちゃんに持たせて特攻でもさせるのか?」

「うん、それも悪くない考えだと思うけど今回は違うんだ」

「おい!?僕を何だと思ってるんだ!?だいたい力士は武器なんか使わないぞ!!」



机の上に乗せられた道具を見てコネコ達は不思議そうに首を傾げ、レナが持ち込んだのはミスリル製の金属の板だった。但し、板の底の部分には車輪が設けられ、こちらの方は特別な樹脂で作り出されたゴムのように弾力性のある車輪だった。


板の大きさは人間が一人か二人乗れる程度の大きさであり、板の表面には足を固定する金具が取り付けられていた。こちらは両足共に取り付けられており、しかもレナが装備している靴底の鉄板に合わせているため、足を乗せて体重を掛けるだけで簡単に装着できる仕組みになっている。



「ん?これは……もしかしてスケートボードじゃないのか?」

「スケートボード?ダリルのおっちゃん、これが何か知ってるのか?」

「ああ、俺が子供の頃によくあそんでいた玩具だ。なんでも過去に召喚された勇者様が残した道具だが、今ではこれを使って遊んでいる子供なんて見かけないな。それにしても懐かしいな……」

「へえ、スケートボード……略してスケボだな」

「あれ!?その略し方、間違ってはいないと思うんだけど何か違うような気がするんだけど……具体的にいうと最後の文字を伸ばした方が違和感ないと思う」

「別に名前の呼び方なんてどうでもいいだろ、それより兄ちゃんこれで何をする気だ?」



スケートボード改め「スケボ」と命名された道具をレナがどのように扱うのかとコネコが問うと、レナはその前に自分の付与魔法の新しい応用法を見せるために闘拳を装備した。



「その前に皆、これを見てくれる?」

「ん?なんだ?」

「何を見せてくれるの?」

「いいから見ててよ……地属性エンチャント



レナは闘拳を装備した状態で手を伸ばし、全員が視線を向けた後に付与魔法を施す。別に特別な方法で魔法を発動させたわけでもなく、紅色の魔力が闘拳を纏っただけで特に変化はない。


別に闘拳自体も何か改造を施された様子もなく、普段から訓練で闘拳に付与魔法を施す場面を見ているので今更レナが付与魔法を使ったところで誰も驚きはしない。いったい彼が何をしたいのか分からずにコネコは率直に尋ねる。



「何だ?別にいつも通りに魔法を使っただけじゃないか……」

「兄ちゃん、あたし達にこれを見てどうしろってんだよ」

「いいからもうちょっと見ててよ……ダリルさん、銅貨を貰えます?」

「銅貨?ああ、構わないが……」



ダリルはレナの言葉を聞いて銅貨を1枚差し出すと、レナは銅貨を受け取って闘拳を装着した方の指先に挟む。当然だが付与魔法によって強化された闘拳は銅貨を抓むだけで簡単に握りつぶしてしまう。



「ああっ!?勿体ない、何してんだよ兄ちゃん!!」

「銅貨がぐちゃぐちゃになっちゃった……」

「怪力自慢のつもりか?僕だって銅貨程度、腹の肉だけで押し潰せるぞ」

「うん、それは普通に凄いと思うけど、俺が見せたいのはここからだよ。ダリルさん、もう一枚下さい」

「おいおい、何がしたいんだ?あんまり金を粗末に扱うなよ……」



レナは握りつぶされて丸まってしまった銅貨を机に置くと、ダリルから新しい銅貨を受け取る。そして今度は闘拳が付与魔法を解除した後に受け取り、皆の前で先ほどと同じように銅貨を抓んだ状態で見せつける。


一体何をする気なのかと全員がレナの行動を見守っていると、レナは意識を集中させて再び付与魔法を発動させた。

その直後、硬貨に異変が起きた。


地属性エンチャント

「あっ!?」

「何してんだよ兄ちゃん!!そんな事をしたらまた……あれ!?」

「銅貨が、潰れない?」



付与魔法を発動させたレナの行動に全員が驚くが、何故か今回は闘拳だけではなく、指先で挟んでいる銅貨にも紅色の魔力が宿った。しばらくの間は指で挟まれていたが、銅貨は先ほどのように押し潰される様子もない。




――何が起きたのかというと、実はレナはこれまでの訓練の成果として自分が直接触れていない物にも付与魔法の効果を施す事ができるようになっていた。正確に言えば付与魔法を施した物体が間接的に触れている存在ならば魔力を流し込めるようになった。


この性質を利用してレナは闘拳越しに握り締めていた銅貨も同時に付与魔法を施す事に成功した。この方法をレナは「間接付与」と名付け、今までは直接物体に触れる以外に付与魔法を施す事はできなかったが、この間接付与を利用すれば間接的に触れている物体ならば付与魔法を発動させることが出来るようになった。

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