閑話 〈二重強化の誕生秘話〉
時は少しさかのぼり、レナが魔法学園へ入学するために王都へ向かう日から少し遡り、彼は自分の師匠であるバルに毎日稽古を受けていた。そんなある時、バルはレナに衝撃的な言葉を告げる。
「あんた、そろそろ必殺技でも作ったらどうだい?」
「えっ!?必殺技!?」
「まあ、必殺技というとちょっと子供じみた発想に思えるかもしれないけど、要するに他の奴等に負けない自分だけの強みというか、技というか、とにかく他の奴等にもこれだけは絶対に負けない!!ていう技を作ってみたらどうだい?」
稽古の際中に突拍子もない事を言い出したバルにレナは驚くが、彼女曰く別にふざけているわけでもなく、一流の冒険者を目指すのであれば必殺技の1つや2つは作るのは当たり前だという。
バル曰く、この場合の必殺技と別に相手を一撃で倒す大技、という意味合いでもなく、要は自分の長所を生かした技を作り出せという意味で忠告したらしい。
「う~ん……」
「あんたの付与魔法は応用性が高くて色々と便利な能力なのは自分でも分かっているだろう?なら、あんたの強みはその付与魔法で間違いない。あとはそれを利用して他の誰にも負けない凄い技を作ってみな!!」
「技か……分かりました」
バルに言われてレナは自分の拳を見つめ、これまでに付与魔法を利用して様々な攻撃法を生み出したが、言われてみれば自分が最も得意とする技が何かと言われれば答えられなかった。
それから一週間の時が流れ、レナは自分の「必殺技」を作り出すために付与魔法を利用して色々と考えてみたが、応用性が高すぎる事が災いして次々と新しい技を生み出すが、この中で1つに絞れと言われてもどれを選べばいいのか分からずに自分の部屋の自室で項垂れてしまう。
「駄目だ……必殺技なんて思いつかないよ」
付与魔法を岩に施し、それを遥か上空まで上昇させ、敵の頭上に叩き込む、大量の刃物を操作して敵に放つ、地面の土砂を操作して相手の足元をアリジゴクのように飲み込む方法なども考えたが、どれもレナの思い描く必殺技のイメージとは合わなかった。
闘拳を装着した状態でレナは思い悩み、不意に赤毛熊を倒したときのことを思い出す。追い詰められたレナは重力を利用して闘拳を勢いよく射出させた事を思い出し、あの時に闘拳が凄まじい勢いで飛び出した事を思い出す。
(そういえば赤毛熊を倒すとき、普段よりも闘拳に送り込んだ魔力が多かったような……それでいつもよりも速度と攻撃力が上がっていたのか?)
レナは必殺技への光明を見出し、早速バルの元へ向かう――
――冒険者ギルドの特別闘技場にてバルは必殺技が出来たというレナと向かい合い、いったいどんな技なのかを見極めるために身構える。
「さあ、あんたの必殺技とやらを見せて見な!!こっちはいつでも準備はいいよ!!」
「よろしくお願いします!!じゃあ、行きますよ!!」
「……随分と遠くに離れたね」
レナはバルから5メートルほど離れた位置に止まり、右腕を構える。その彼の行動にバルは首をかしげるが、直後にレナは付与魔法の「重ね掛け」を行う。
「
「なにぃっ!?」
闘拳に連続して二度の付与魔法を施した瞬間、闘拳を纏う紅色の魔力が増大化し、次の瞬間に腕に装着していた金具が外れてバルの元へ向かう。咄嗟に彼女は両腕を交差して防ごうとしたが、闘拳はあらぬ方向へ飛んで行き、特別訓練場の壁へめり込む。
「ああっ!?外れた……すいません、まだ慣れてなくて命中精度が低いんです」
「いや、低いってあんた……」
頑丈な壁に拳の部分がまるまるとめり込んだ闘拳を見てバルは冷や汗を流し、もしもまともに受けて居たら彼女でも危なかった。しかし、レナは気にせずに手元を手繰り寄せると闘拳を引き戻し、今度こそ確実に命中させるためにバルに構える。
「じゃあ、今度こそ行きます!!」
「ちょ、あんた……やめっ、おおうっ!?」
「ああ、また外した!!次は当てます!!」
「いや、人の話しを聞きなっ!!待って、待てと言ってるだろぉっ!?」
「この間のイリナさんが作ってくれたタコさんウィンナーの恨みぃっ!!」
「本音が漏れてるよ!!ていうか、そんな事で仕返しするなんて子供かっ!?あ、子供か!!」
結局、それから数分ほどバルはレナが射出する闘拳を避け続ける事になり、結果として訓練の後に闘拳は壊れてしまい、ゴイルに修理を頼む事になった――
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