第161話 対抗戦の準備
――結局、ルインとムノーの死体に関しては流石に放置するわけにもいかず、レナ達は警備兵を連れてきて報告を行う。但し、昼間に警備兵に襲われた件もあるのでレナだけは先へ戻り、他の者が代わりに事情を伝えた。
屋敷に戻って来た者達からレナは聞いた話によると、警備兵は二人の死体を殺人事件として取り扱い、調査する事を約束した。しかし、シノによると警備兵の中には盗賊ギルドと繋がっている連中も存在し、調査をするといってもすぐに打ち切られる事は目に見えていた。
民を守る警備兵がよりにもよって民を脅かす盗賊ギルドと繋がっているなど世も末だが、今のレナ達にはどうする事も出来ず、しばらくの間は様子を見る事しか出来ない。
「どすこいっ!!どすこいっ!!」
「せいっ、はあっ!!」
「かけっこなら負けないぞ!!」
「私も足の速さには自信がある」
事件から翌日、魔法学園にてレナ達は「対抗戦」に備えての訓練を行い、デブリは大きな樹木を前に突っ張りを行い、ミナは槍を構えて型の練習を行う。その一方でコネコはシノと鬼ごっこのように追いかけ回されていた。
レナが命を狙われている状況で対抗戦など出場する暇があるのかと思われるかもしれないが、対抗戦には大魔導士のマドウも閲覧に訪れるため、彼と会うためには対抗戦に出場する必要がある。また、魔法学園の教師を務め、将軍でもあるゴロウにレナは相談を行う。
「ふむ、つまり盗賊ギルドに狙われているという事か……厄介な奴等に目を付けられたな」
「ゴロウ先生もやっぱり知ってたんですね」
「当然だ。奴等とは何度かやりあっているが……お前が思う以上に危険な存在だ」
将軍でもあるゴロウも盗賊ギルドの存在を知っていたらしく、レナが命を狙われている事を説明すると彼は険しい表情を浮かべて盗賊ギルドがどれほど危険な存在なのかを話す。
「奴等はただの悪党ではない、この国を裏社会の中枢を担う組織だ。だからこそヒトノ国も迂闊には手を出せない」
「そんなに……?」
「盗賊ギルドは元々はヒトノ国に従う裏組織だった。しかし、二代目に代わってからは奴等は組織を拡大化させ、遂には裏社会の頂点に立つまでに至った。気を付けろ、お前が奴等に目を付けられたというのであれば常日頃から警戒は怠るな」
「先生は助けてくれないんですか?」
「悪いが、俺一人でどうにかできる相手ではない。だが、この学園に居る間はお前の身の安全は約束しよう。なにがあろうと俺は生徒を守る、それだけは信じろ」
「……はい、ありがとうございます」
ゴロウも立場上はレナを守る事はできず、その代わりに学園内にいる間の身の安全は保障してくれた。ゴロウに感謝の言葉を告げながらもレナは想像以上に盗賊ギルドという存在の恐ろしさを思い知る。
今の所はレナが安全でいられる場所は学園とダリル商会の屋敷だけであり、その他の場所を移動する際は常に警戒を怠る事はできなかった。実際に登校中にもレナは何処かからか視線を浴びている感覚に襲われ、常に監視されている可能性も高い。
「先生、これから放課後の時も時間があったらでいいので稽古を付けてくれませんか?」
「いいだろう、また何か思いついたのか?」
「一応は……」
レナはゴロウに頼み込んで放課後も彼に指導を受ける事にした。対抗戦に備えて訓練を行うという名目があればゴロウが訓練の指導を行っても怪しまれる事は無く、この日からレナはゴロウに協力してもらって新たな付与魔法の戦法を作り出すために訓練を行う――
――そして対抗戦の前日を迎え、魔法学園で訓練を終えた後、レナ達は全員でダリル商会の屋敷へと戻る。到着して早々にコネコは来客者用のソファに座り込み、身体を伸ばす。
「ふぃ~……やっぱり、我が家はいいな~」
「何を年より臭い事を言ってるんだお前は……それで、対抗戦とやらの準備はどんな感じだ?」
「ばっちりだよ、あたしも新しい武器を作ってもらったし、シノの姉ちゃんも加わったからこれで完全にあたしたちの勝利は確定したな」
「油断禁物、どんな相手だろうと決して侮ってはいけない」
「そうだぞ、僕達が戦うのは一応はこの学園のトップだからな」
全員がソファに座り込んで対抗戦に向けての話し合いを行い、デブリによるとこちらと同じように魔法科の生徒は成績が優秀な5人組を集めて来たらしく、一筋縄で勝てる相手ではないという。
最もここに集まった5人も騎士科を代表する生徒である事は間違いなく、現時点の魔法科と騎士科の生徒の中で上位同士の生徒が対抗戦を行うというだけに興味を持つ人間も多い。同じクラスの生徒たちもレナ達を応援してくれていた。
「そういえば気になっていたんだが、そもそも対抗戦というのはどういう試合形式なんだ?勝ち抜き戦か、入れ替え戦か?どんな場所で戦うんだ?」
『…………』
ダリルが気を遣って全員分のココアを用意すると、今更ながらに気になっていた質問を行う。だが、その質問に対して答えられる人間はおらず、その反応にダリルは疑問を抱く。
「おい、何で黙ってるんだお前等……はっ!?まさか、お前等!?」
「……そういえば何も聞いていない」
「僕、対抗戦がどんな風に行われるのか知らない……」
「で、デブリの兄ちゃんは何も聞いてないのかよ!?」
「し、知らないよ!!僕だって何も聞いてないんだ!!」
「あらら……どうしよう」
今更ながらに重要な事を聞き忘れていた事を思い出したレナ達は自分達の迂闊さに呆れてしまい、仕方なく対抗戦が始まる前に魔法学園に戻って教師から対抗戦の内容を聞き出す必要があった。
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