第160話 時間稼ぎ
「兄ちゃん、こいつらどうするんだ?警備兵に突き出すのか?」
「いや……カマセの件もあるし、この王都の警備兵は正直信用できないな」
「同意、ここで放置した方が良い」
「放っておくのか!?また命を狙ってきたらどうするんだ!?」
「その時はまた返り討ちにすればいいんだよ。けど、その前にこいつらの装備は奪っとこうぜ。この杖とか金になりそうじゃん」
「なんだか盗賊みたいだよコネコちゃん……」
「あたしは暗殺者だよ」
「や、止めろ!!その杖は儂の……ふげぇっ!?」
「往生際が悪い」
コネコがムノーの杖を取り上げると、拘束されているのに文句を告げようとしたムノーに対してシノが容赦なく肘鉄を頭に食らわせた。今度こそ意識を失ったのかムノーは白目を剥いて倒れ、その様子を見たルインは悲鳴をあげて縮こまる。
その間にコネコは鼻歌を歌いながら慣れた手つきで杖から魔石を引き剥がと、小杖と魔石の状態を確認して笑みを浮かべ、小杖は気絶したムノーの身体に置くと魔石をお手玉のように弄ぶ。
「小杖は酷い状態だけど、こっちの魔石はまだまだ使えそうだな、兄ちゃんを襲った罰として貰っとくぜ」
「これに懲りたらもう二度とレナ君の前に現れないでよ!!」
「そ、それはどうかな……そもそも、君たちに次があると思っているのか?」
「どういう意味?」
怯えながらもルインはミナの言葉を聞いて不適な笑みを浮かべ、この状況でどうして笑えるのかとレナは疑問を抱くと、彼は路地の奥に声を掛ける。
「じ、時間稼ぎはもう十分でしょう!!早く助けてください!!」
「何!?」
「まだ仲間が居たのか!?」
路地の奥にレナ達は注目すると、建物の陰から複数人の人影が現れ、姿を現す。全員が漆黒のフードを纏っており、両手に様々な武器を所有していた。これまでに盗賊ギルドから派遣された下っ端や金で雇われた傭兵とは雰囲気が異なり、レナ達は距離を離す。
どうやらルインは長々と話していたのは彼等を招き寄せる時間を稼いでいたらしく、何時の間にか呼び出したのかルインはレナ達に拘束された状態で助けを求める。
「さあ、僕達の役目は十分に果たしましたよ!!早く助けてください!!」
「こ、この男……!!」
「こいつ、本当にクズだな!!」
ルインは路地に現れた集団に助けを求め、そんな彼に対してレナ達は黙らせようとした時、集団の1人が全体が黒塗りされた弓を取り出すとルインに向ける。
「ご苦労、お前はもう用済みだ」
「えっ……」
「危ない!!」
矢が放たれた瞬間、シノは危険を察してルインに手を伸ばすが、放たれた矢が先にルインの頭部を貫く。普通の矢ではないのか、頭蓋骨を易々と貫いて建物の壁にめり込み、頭が貫通したルインは目を見開いた状態で倒れた。
目の前でルインが死亡した事にレナ達は驚き、同時に現れた敵の危険性を思い知らされる。弓を構えた人物は今度はレナに向けて矢を構え、放とうとしたがそれを他の人物が引き留める。
「我々の任務は奴等の監視だ。暗殺は命令されていない」
「ちっ……了解」
「な、何なんだお前等!?お前等も盗賊ギルドか!?」
「……答える義理はない」
デブリの質問に集団は答える事もなく音も立てずに跳躍し、建物の屋根の上へと移動を行う。その身軽さにレナは彼等がコネコやシノのように暗殺者や忍者などの称号を持つ人間だと判断した。
集団は完全に姿を消し去ると、残されたレナ達は後を追う事も出来ず、殺されたルインに視線を向けて冷や汗を流す。この状況を他の人間に見られては勘違いされるかもしれず、レナは仕方なくまだ生きているムノーを担ぎ上げて避難を行う事にした。
「この人を魔法学園まで運ぼう。事情を説明して、学園長に後は任せよう」
「そ、そうだな……元は魔導士だった男だ。こいつを連れて行けば学園長も僕達の話を聞いてくれるかもしれない」
「その可能性はある。けど……もう手遅れみたい」
「手遅れって……えっ!?」
倒れているムノーをひっくり返すと、何時の間にかムノーは白目を剥いて苦悶の表情を浮かべたまま死亡していた。いったいなにが起きたのかとレナ達は驚くと、シノは首筋に突き刺さっている「針」を指差す。
「さっき、矢を放たれた時、別の人間が吹き矢で毒針を撃ちこんでいた。即効性の高い毒を使っているみたい、もうこの状態だと助ける事も出来ない」
「毒針!?いつの間にそんな物を……」
「さっき、弓を持っていた奴を止めた男だよ。あいつが吹き矢を使って毒針を撃ちこんだんだ」
「コネコ、見えてたの?」
「あたし、目が良いからさ。こういう暗闇でもはっきりと見えたよ」
「暗殺者と忍者は「暗視」という能力を持っている。そのお陰で私達は暗闇の中でもはっきりと視認する事ができる」
暗殺者と忍者であるコネコとシノは「暗視」という特別な技能を持ち、この能力のお陰で二人は暗闇に覆われた場所でも赤外線スコープのように状況を把握できるという。また、動体視力の方も非常に高く、小さな毒針を見抜けるほどコネコは目が良かった。
しかし、見えたからといって反応が間に合うわけではなく、毒針が撃ち込まれたのを確認したがコネコもシノもムノーを庇う事はできなかった。レナ達はルインとムノーを死体を前にしてどうするべきか悩む。
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