第157話 仲間

「へへっ……やりましたね、ムノーさん。遂にこのガキをこの手で殺せる」

「ああ、この日をどれだけ待ちわびた事か……!!」

「くそっ……!!」



遂には地面に突っ伏してしまったレナに対してムノーとルインは笑みを浮かべ、止めを刺すためにボーガンと杖を構える。その様子をレナは悔し気な表情で見上げる事しか出来ず、自分がこんな卑怯で身勝手な奴等に殺されるのかと思うと悔しくてたまらない。


痺れ薬で徐々に身体が麻痺して動けなくなったレナを見てムノーとルインは高笑いを行い、自分をここまで落ちぶれさせた憎き少年の止めを刺すために近付く。ゆっくりと近寄ってくる二人に対してレナは内心で悔しがる。



(嫌だ、死にたくない……こんな所で死ねない!!)



自分の目的を果たさずに死ぬ事をレナは拒み、どうにか反撃の手段を考えた。しかし、事前に撃ち込まれた痺れ薬のせいで身体は思うように動かず、魔法も上手く発動できない。


戦う事も逃げ出す事も出来ないレナは必死に周囲の状況を把握し、生き残る術を探す。だが、無情にも路地には使えそうな道具は存在せず、路地の外の人間に助けを求めようにも声も上手く出せなかった。



「さあ、これで終わりだ!!」

「死ねっ!!」

「っ……!?」



ボーガンの引き金に指をかけたルインと、杖先を構えて魔法を発動させようとするムノーに対し、レナは反射的に腕で顔を庇う。しかし、二人が攻撃を仕掛ける前に路地に新しい人影が出現した。



「あたしの兄ちゃんに何してんだくそ野郎共っ!!」

「ぐあっ!?」

「うおっ!?」



二人が矢と魔法を放つ前に路地に現れたコネコがルインの後頭部にドロップキックを放ち、体勢を崩したルインはムノーを巻き込んで倒れ込む。相当な勢いを付けての攻撃だったのか、二人とも苦痛の表情を浮かべて上手く起き上がれない。


ルインとムノーを蹴り飛ばしたコネコは「参ったか」と言わんばかりに鼻息を鳴らすと、驚愕の表情を浮かべているレナに気づき、彼女はすぐに彼の元に駆けつける。



「大丈夫か兄ちゃん!?」

「コネコ……?」

「ほら、あたしの肩に掴まって!!すぐに逃げるぞ!!」

「こ、この小娘……!!」

「逃がすと思っているのか!!」



レナを担ぎ上げて逃げ出そうとするコネコに対し、身体をふらつかせながらもルインとムノーが阻止しようとしたが、二人の頭上から別の人間の声が響く。



「ていっ」

「あだぁっ!?」

「いでぇっ!?」



力の抜ける掛け声が響いたかと思うと、ルインとムノーの頭に植木鉢が落ちてきて二人は頭部を強打して地面に倒れ込む。


驚いてレナは上空を見上げると、何時の間にか二人の近くの建物の二階の窓にシノの姿が存在し、彼女がどうやら植木鉢を叩きつけたらしい。


相当な高度から落とされた植木鉢を頭に受けたルインとムノーはその場に転がりまわり、地面に散らばった植木鉢の破片が身体に食い込んだのか更に悲鳴を上げる。その光景を見たコネコはシノに向けて親指を立てる。



「サンキュー!!シノの姉ちゃん!!」

「ぶいっ」

「き、貴様等……!!」

「全員、殺してやる!!」



頭を抑えながらもルインとムノーはレナの命を狙うのを諦めるつもりはないらしく、シノが時間を稼いだ間に路地の奥に逃げるレナとコネコの姿を見てムノーは杖を構えて魔法を発動させた。



「ファイアボール!!」

「くっ……コネコ!!」

「うわっ!?」



背後から炎の塊が接近している事に気付いたレナは咄嗟にコネコだけでも守ろうと彼女の身体を抱きしめた時、建物の屋根の上から何者かが降り立つと二人の前に立ち尽くして正面から迫る炎の塊を向き合う。



「戦技、大車輪!!」

「ミナ!?」

「ば、馬鹿なっ!?」



屋根の上から降り立ったのは三又の槍を構えたミナであり、彼女は槍を扇風機の如く回転させると、正面からムノーの放った魔法を受け止める。迫りくる炎の塊に対して高速回転を行う槍が炎を周囲に拡散して蹴散らすと、火の粉を振り払ってミナは二人を守る。


自分の魔法を防がれたムノーは驚愕の表情を浮かべ、唐突に現れた3人組に対して後退する。しかし、ルインの方はまだボーガンを所持しており、彼はせめてレナだけでも仕留めるためにボーガンを構えた。



「くそ、死ねっ!!」

「どすこぉいっ!!」



だが、ルインが矢を放つ前に上空から謎の掛け声と共に大きな影がルインとムノーに差し込み、二人の身体が強烈な衝撃を受けて地面にめり込む。



『ぎゃあああっ!?』

「ふんっ!!」



何処からか飛び降りてきた影の正体はデブリだったらしく、彼は折り重なった二人の背中に乗り込んで二人を気絶させる。デブリが身体を退かすと異様な方向に身体が曲がった二人組が地面に横たわっていた。


唐突に現れて自分を助けてくれた仲間達にレナは戸惑い、どうして自分の居場所が分かったのか、何故ここへ訪れたのか、色々と疑問を抱いている間に仲間達はレナの元に集まる。



「皆……どうしてここに」

「そんなの決まってるだろ!?」

「レナ君を迎えに来たんだよ!!急に一人でいなくなるから、皆心配してずっと探してたんだよ!!」

「ちなみに見つけたのは私、物探しは得意」

「全く、命が狙われているのに一人で飛び出すなんて何を考えてるんだお前は!?」

「……ありがとう、皆」



どうやら全員がレナを心配して駆けつけてきたらしく、忍者であるシノがレナの居場所を特定し、他の仲間達を呼び出したらしい。


助けるのに少々手間取ってしまったが、4人のお陰でレナは自分が命拾いした事を自覚して素直にお礼を告げた。

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